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土地家屋調査士とは?資格の仕事内容・試験制度・取得メリットを徹底解説

土地家屋調査士について調べているあなたへ。「土地家屋調査士とは何をする仕事なのか」「どんな資格なのか」という疑問は、土地家屋調査士の役割と専門性を理解することで解決できます。本記事では、土地家屋調査士の法的位置づけと業務内容、試験制度と取得ルート、年収やキャリアパスについて、最新のデータを交えて詳しく解説します。この情報をもとに、土地家屋調査士という職業の全体像を把握し、資格取得に向けた具体的な一歩を踏み出しましょう。

この記事を読むとわかること

  • 土地家屋調査士の定義と不動産登記における専門的な役割
  • 土地家屋調査士の具体的な仕事内容と独占業務の範囲
  • 土地家屋調査士試験の制度・合格率・取得ルート
  • 土地家屋調査士の年収・将来性・キャリア展望

押さえておきたい3つのポイント

  1. 不動産登記の専門家としての独占業務:土地家屋調査士は、不動産の物理的な状況を調査・測量し、表示に関する登記を行う唯一の国家資格者です。境界確定や筆界特定など、他の資格者では代行できない独占業務を担っています。
  2. 試験制度と取得難易度:土地家屋調査士試験の合格率は例年9~11%程度で、1,000~1,500時間の学習時間が必要とされています。測量士・測量士補の資格があれば午前の部が免除され、効率的に合格を目指せます。
  3. 安定した需要と独立開業の魅力:土地家屋調査士は独占業務による安定した需要があり、独立開業しやすい資格として知られています。平均年収は500万円前後ですが、開業して実績を積むことで1,000万円以上も可能です。

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目次

土地家屋調査士とは?不動産登記の専門家としての役割

土地家屋調査士は、不動産の物理的な状況を正確に調査・測量し、登記簿に記録する専門家です。土地の境界を明確にし、建物の新築や取り壊しの際に必要な登記手続きを代理することで、不動産取引の安全性を支えています。

土地家屋調査士の定義と法的位置づけ

土地家屋調査士は、土地家屋調査士法に基づく国家資格者です。法務省が所管する資格で、不動産登記制度の根幹を担う重要な役割を持っています。

土地家屋調査士法第2条では、「土地家屋調査士は、他人の依頼を受けて、不動産の表示に関する登記につき必要な土地又は家屋に関する調査又は測量を行い、及び不動産の表示に関する登記の申請手続又はこれに関する審査請求の手続について代理することを業とする」と定義されています。

この定義からわかるように、土地家屋調査士の業務は大きく分けて2つあります。1つは不動産の調査・測量業務、もう1つは表示に関する登記の申請代理業務です。これらの業務は土地家屋調査士の独占業務であり、資格を持たない者が報酬を得て行うことは法律で禁止されています。

土地家屋調査士になるには、年1回実施される土地家屋調査士試験に合格し、日本土地家屋調査士会連合会に登録する必要があります。登録後は、各都道府県の土地家屋調査士会に所属し、継続的な研修を受けることで専門性を維持します。

不動産登記制度における土地家屋調査士の役割

不動産登記制度は、土地や建物の所在・面積・用途などの物理的な現況と、所有者や抵当権などの権利関係を公示する制度です。この制度により、不動産取引の安全性が確保され、国民の財産権が守られています。

土地家屋調査士は、この不動産登記制度において「表示に関する登記」を担当します。表示に関する登記とは、土地や建物の物理的な状況(所在・地番・地目・地積・構造・床面積など)を登記簿に記録することです。

例えば、新築の住宅を建てた場合、土地家屋調査士が建物の調査・測量を行い、建物表題登記を申請します。この登記によって初めて、その建物が法律上存在することになり、その後の所有権保存登記や住宅ローンの抵当権設定が可能になります。

また、土地の分筆登記(1筆の土地を複数の土地に分ける登記)や合筆登記(複数の土地を1筆にまとめる登記)も土地家屋調査士の重要な業務です。相続で土地を分ける場合や、土地を売買する際に必要な面積を切り出す場合など、土地家屋調査士の専門知識と技術が不可欠です。

さらに近年では、所有者不明土地問題の解決に向けて、土地家屋調査士の役割がますます重要になっています。境界を明確にし、適正な登記を行うことで、将来の紛争を予防し、円滑な土地利用を実現することができます。

表示に関する登記と権利に関する登記の違い

不動産登記は「表示に関する登記」と「権利に関する登記」の2つに大きく分かれます。この違いを理解することは、土地家屋調査士と司法書士の業務の違いを知る上でも重要です。

表示に関する登記は、不動産の物理的な現況を記録するもので、土地家屋調査士が担当します。具体的には、土地の所在・地番・地目(宅地、田、畑など)・地積(面積)、建物の所在・家屋番号・種類(居宅、店舗など)・構造・床面積などが該当します。

一方、権利に関する登記は、不動産の権利関係を記録するもので、司法書士が担当します。所有権、抵当権、地上権、賃借権などの権利の設定・移転・変更・抹消が該当します。

重要な違いは、表示に関する登記の多くは「義務的登記」であるのに対し、権利に関する登記は「任意的登記」であることです。例えば、建物を新築した場合、1か月以内に建物表題登記を申請することが法律で義務付けられています(不動産登記法第47条)。これに対し、所有権保存登記や所有権移転登記は義務ではありません(ただし、2024年4月から相続登記が義務化されました)。

また、表示に関する登記は、登記申請の際に登録免許税がかかりません(一部の登記を除く)。これは、表示に関する登記が国民の義務であることを考慮したものです。一方、権利に関する登記には登録免許税が課されます。

このように、土地家屋調査士と司法書士は不動産登記制度を両輪で支える専門家であり、それぞれが異なる専門領域を担当しています。不動産取引においては、両者が連携して業務を進めることで、スムーズな手続きが実現します。

土地家屋調査士の役割に関してもっと詳しい記事はこちら
土地家屋調査士の仕事内容とは?業務範囲・働き方・キャリアパスを詳しく解説

土地家屋調査士の仕事内容と業務範囲

土地家屋調査士の仕事は、不動産の調査・測量から登記申請まで多岐にわたります。現場での測量作業だけでなく、図面作成や関係者との調整、法務局への申請手続きなど、デスクワークも重要な業務の一部です。ここでは、土地家屋調査士の仕事内容について詳しく見ていきましょう。

土地家屋調査士の5つの主要業務

土地家屋調査士の業務は、主に以下の5つに分類されます。

1つ目は「不動産の表示に関する登記の申請代理」です。これは土地家屋調査士の最も基本的な業務で、土地の分筆・合筆・地目変更・地積更正、建物の表題登記・表題変更登記・滅失登記などの申請を依頼者に代わって行います。

2つ目は「不動産の調査・測量」です。登記申請に必要な土地や建物の現況を調査し、境界や面積を正確に測量します。最新の測量機器(トータルステーションやGNSS測量機、ドローンなど)を使用して、ミリ単位の精度で測量を行います。

3つ目は「筆界特定制度への関与」です。筆界特定制度とは、土地の境界(筆界)が不明確な場合に、登記官が筆界を特定する制度です。土地家屋調査士は、筆界特定の申請代理や測量調査を行います。

4つ目は「土地家屋調査士ADR(境界問題相談センター)」です。平成18年の法改正により、土地家屋調査士は境界に関する民間紛争解決手続き(ADR)の代理業務を行えるようになりました。特定の研修を修了した土地家屋調査士(ADR認定土地家屋調査士)は、境界に関する民事紛争について、裁判外での和解の仲介や代理を行うことができます。

5つ目は「相談業務」です。土地の境界や測量、登記に関する相談を受け、適切なアドバイスを提供します。無料相談会を開催している土地家屋調査士会も多く、地域の不動産に関する身近な相談窓口としての役割も担っています。

不動産の調査・測量業務の詳細

不動産の調査・測量は、土地家屋調査士業務の根幹をなす重要な作業です。この業務は大きく分けて「資料調査」と「現地調査・測量」の2つのステップで行われます。

資料調査では、法務局で登記簿や公図、地積測量図などの登記関係資料を取得します。また、市区町村役場で固定資産課税台帳や道路台帳、上下水道台帳などを調査し、対象不動産の権利関係や過去の経緯を把握します。

現地調査・測量では、実際に現地に赴いて不動産の状況を確認します。土地の場合は、境界標(境界杭)の有無を確認し、隣接地との境界を明確にします。境界標がない場合や位置が不明確な場合は、隣接地の所有者と立ち会いを行い、境界を確認・復元します。

測量作業では、トータルステーションやGNSS測量機などの精密機器を使用して、土地の形状や面積を測定します。近年では、ドローンを活用した空中測量も普及しており、広大な土地や複雑な地形の測量を効率的に行えるようになっています。

建物の調査では、建物の位置・構造・床面積などを測定します。各階の間取りを確認し、建物図面や各階平面図を作成します。新築建物の場合は、建築確認申請図面と実際の建物が一致しているかも確認します。

測量結果は、地積測量図や建物図面・各階平面図として作成され、登記申請の際に法務局に提出されます。これらの図面は、将来の不動産取引や紛争の際に重要な資料となるため、正確性が強く求められます。

表示に関する登記申請の代理業務

表示に関する登記申請の代理は、土地家屋調査士の中核的な業務です。依頼者に代わって登記申請書類を作成し、法務局に提出します。

土地に関する主な登記申請には、以下のようなものがあります。

土地表題登記は、新たに土地が生じた場合(埋め立てや分筆など)に行う登記です。地目変更登記は、土地の用途が変わった場合(例:畑から宅地へ)に行います。分筆登記は1筆の土地を複数の土地に分ける登記で、土地の一部を売却する場合や相続で分ける場合に必要です。合筆登記は複数の土地を1筆にまとめる登記です。地積更正登記は、登記簿に記載された面積が実際と異なる場合に正しい面積に更正する登記です。

建物に関する主な登記申請には、以下のようなものがあります。

建物表題登記は、建物を新築した際に最初に行う登記で、建物の物理的な現況を登記簿に記録します。この登記は新築後1か月以内に申請することが法律で義務付けられています。建物表題変更登記は、建物の増築や用途変更があった場合に行う登記です。建物滅失登記は、建物を取り壊した場合に行う登記で、取り壊し後1か月以内の申請が義務付けられています。

登記申請の際には、登記申請書のほか、測量図面、境界確認書、関係者の承諾書など、多数の書類が必要になります。土地家屋調査士は、これらの書類を正確に作成し、法務局の審査に対応します。

登記申請後、法務局での審査を経て登記が完了すると、新しい登記事項証明書が発行されます。土地家屋調査士は、登記完了後も依頼者への報告や書類の引き渡しまで責任を持って対応します。

筆界特定とADR代理業務

筆界特定制度は、平成18年に導入された比較的新しい制度です。筆界(土地の境界)が不明確で隣接地所有者との間で争いがある場合に、登記官が筆界を特定する制度です。

土地家屋調査士は、筆界特定の申請代理人として、申請書類の作成や測量調査を行います。また、筆界特定の手続きでは、土地家屋調査士が筆界調査委員として登記官の調査を補助することもあります。

筆界特定制度のメリットは、訴訟に比べて費用が安く、期間も短い(通常6か月~1年程度)ことです。また、登記官という公的な立場の専門家が判断を下すため、一定の公平性が担保されます。

ADR(裁判外紛争解決手続き)は、裁判によらずに紛争を解決する手続きです。土地家屋調査士会が設置する「境界問題相談センター」では、土地の境界に関する紛争について、ADRによる解決を図っています。

ADR認定土地家屋調査士は、特別な研修を修了した土地家屋調査士で、境界ADRにおいて代理人として活動できます。調停や仲裁を通じて、当事者間の合意形成を支援し、境界紛争の早期解決を目指します。

ADRのメリットは、訴訟に比べて手続きが柔軟で、当事者の話し合いを重視する点です。費用も訴訟より安く、非公開で進められるため、プライバシーも守られます。ただし、ADRはあくまで当事者の合意に基づく手続きであり、一方が参加を拒否した場合は成立しません。

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土地家屋調査士の実際の業務の流れ

土地家屋調査士の業務は、依頼受託から登記完了まで複数のステップを踏んで進められます。各段階で正確性と丁寧なコミュニケーションが求められ、一つ一つの作業が最終的な登記の品質を左右します。

受託から資料調査までのプロセス

業務は依頼者からの相談・見積もり依頼から始まります。依頼者は、土地の売買や相続、建物の新築などの際に土地家屋調査士に相談します。

初回相談では、依頼者の要望を詳しくヒアリングし、必要な業務内容を確認します。例えば、「土地を分筆して一部を売却したい」という依頼の場合、分筆の方法、境界確定の必要性、登記完了までの期間などを説明します。

相談内容に基づいて見積もりを作成します。土地家屋調査士の報酬は自由化されており、業務の内容や難易度、対象不動産の規模によって異なります。一般的な分筆登記の場合、30万円~80万円程度が相場です。

依頼者が見積もりに同意すれば、正式に業務を受託します。この際、委任契約書を取り交わし、業務内容や報酬、支払い条件などを明確にします。

受託後、まず資料調査を行います。法務局で登記簿謄本、公図、地積測量図、建物図面などを取得し、対象不動産の登記上の状況を把握します。また、市区町村役場で固定資産課税台帳、道路台帳、上下水道台帳などを調査し、公的な記録を収集します。

さらに、過去の測量記録や境界確認書などがあれば、それらも収集します。これらの資料調査により、対象不動産の権利関係、過去の経緯、境界の状況などを総合的に把握します。

資料調査の結果は依頼者に報告し、今後の作業計画を説明します。特に、境界確定が必要な場合や、隣接地所有者との立ち会いが必要な場合は、その旨を明確に伝え、協力を依頼します。

現地測量と境界立会いの実施

資料調査が完了したら、現地での測量作業に移ります。現地作業は土地家屋調査士業務の最も重要な部分であり、正確性と丁寧さが求められます。

まず、現地の状況を確認します。境界標(境界杭)の有無や状態、隣接地との境界の明確さ、地形や植生の状況などを詳細に調査します。境界標が欠損している場合や位置が不明確な場合は、資料と現地の状況を照合しながら境界を復元します。

測量作業では、トータルステーションやGNSS測量機を使用して、土地の形状や面積を精密に測定します。測量は、国家座標系に基づいて行われ、後日の検証にも耐えうる精度で実施されます。

境界の確定が必要な場合は、隣接地所有者との境界立会いを実施します。境界立会いは、関係者全員が一堂に会して境界を確認する重要な手続きです。土地家屋調査士は、事前に隣接地所有者に連絡を取り、立会いの日程を調整します。

境界立会い当日は、土地家屋調査士が資料と測量結果に基づいて境界の位置を説明し、関係者の同意を得ます。境界に争いがある場合は、丁寧に説明を重ね、合意形成を図ります。時には複数回の立会いが必要になることもあります。

境界について合意が得られたら、境界標を設置します。境界標は、コンクリート杭、金属杭、プラスチック杭など、永続性のある材質のものを使用します。境界標の設置位置は、測量結果に基づいて正確に決定されます。

境界立会いの結果は、境界確認書(または境界確定書)にまとめられます。この書類には、関係者全員の署名と捺印をもらい、境界について合意した証拠として保管します。

建物の調査・測量の場合は、建物の位置、構造、床面積を測定します。各階の間取りを詳細に計測し、建築確認申請図面との整合性も確認します。

図面作成から登記申請までの手順

現地測量が完了したら、事務所に戻って図面の作成に入ります。図面作成は、測量結果を正確に表現する重要な作業です。

土地の場合は、地積測量図を作成します。地積測量図は、土地の形状、面積、境界標の位置などを示す図面で、登記申請の際に法務局に提出します。地積測量図には、測量の精度を示す情報や、使用した測量機器、測量年月日なども記載します。

建物の場合は、建物図面と各階平面図を作成します。建物図面は建物の位置と形状を、各階平面図は各階の間取りと床面積を示します。これらの図面も正確性が求められ、ミリ単位での作図が必要です。

図面の作成にはCAD(コンピュータ支援設計)ソフトウェアを使用します。最近では、測量機器から直接CADにデータを取り込むことができ、作図の効率化と正確性の向上が図られています。

図面が完成したら、登記申請書類の作成に移ります。登記申請書には、申請する登記の種類、不動産の表示、登記の原因と日付、添付書類の一覧などを記載します。

添付書類として、作成した図面のほか、境界確認書、隣接地所有者の承諾書、建築確認済証(建物の場合)、依頼者の本人確認書類などを準備します。必要な書類は登記の種類によって異なるため、不足がないよう細心の注意を払います。

申請書類が整ったら、法務局に提出します。現在はオンライン申請も可能で、多くの土地家屋調査士がオンライン申請を利用しています。オンライン申請の場合、書類の一部は電子ファイルで提出し、原本は法務局からの求めに応じて提出します。

申請後、法務局の登記官による審査が行われます。審査期間は通常1週間~2週間程度ですが、案件の複雑さや法務局の混雑状況によって異なります。審査の過程で補正(不備の修正)が求められることもあり、その場合は速やかに対応します。

審査が完了し、登記が認められると、登記が完了します。登記完了後、法務局から登記完了証が交付され、新しい登記事項証明書を取得できるようになります。

土地家屋調査士は、登記完了後、依頼者に結果を報告し、登記完了証や登記事項証明書、測量図面などの書類一式を引き渡します。また、業務の過程で得られた資料や図面は、将来の参考のために適切に保管します。

このように、土地家屋調査士の業務は、依頼受託から登記完了まで多くのステップを経て進められます。各段階で専門知識と技術が求められ、依頼者や関係者との丁寧なコミュニケーションも重要です。

土地家屋調査士の独占業務と専門性

土地家屋調査士には法律で定められた独占業務があり、他の資格者や無資格者が行うことはできません。この独占業務こそが、土地家屋調査士の専門性の証であり、資格の価値を支えています。

土地家屋調査士にしかできない独占業務

土地家屋調査士法第3条および第6条により、以下の業務は土地家屋調査士の独占業務とされています。

第一に、不動産の表示に関する登記の申請代理です。土地の分筆・合筆・地目変更・地積更正登記、建物の表題登記・表題変更登記・滅失登記などの申請を、他人の依頼を受けて報酬を得て行うことは、土地家屋調査士にのみ認められています。

第二に、これらの登記に必要な土地または建物の調査・測量業務です。登記申請を前提とした不動産の調査・測量は、土地家屋調査士の独占業務です。ただし、登記を伴わない単純な測量は、測量士・測量士補も行うことができます。

第三に、筆界特定の申請代理です。筆界特定制度における申請書類の作成や代理人としての活動は、土地家屋調査士の独占業務です。

第四に、境界に関するADR(裁判外紛争解決手続き)の代理です。ADR認定土地家屋調査士は、境界紛争について、調停や仲裁の代理人として活動できます。

これらの独占業務は、不動産登記制度の根幹に関わる重要な業務です。境界の確定や面積の測定に誤りがあれば、不動産取引に重大な影響を及ぼし、将来の紛争の原因にもなります。そのため、高度な専門知識と技術を持つ土地家屋調査士にのみ、これらの業務が認められているのです。

独占業務違反は法律で厳しく規制されており、無資格者が独占業務を行った場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(土地家屋調査士法第68条)。これは、独占業務の重要性と、国民の財産権保護の必要性を反映したものです。

司法書士との業務の違いと棲み分け

土地家屋調査士と司法書士は、どちらも不動産登記に関わる専門家ですが、担当する領域が明確に分かれています。

土地家屋調査士は「表示に関する登記」を担当します。これは不動産の物理的な現況(所在・面積・構造など)を記録する登記です。新築建物の表題登記、土地の分筆登記、建物の滅失登記などが該当します。

一方、司法書士は「権利に関する登記」を担当します。これは不動産の権利関係(所有権・抵当権など)を記録する登記です。所有権移転登記、抵当権設定登記、所有権保存登記などが該当します。

この棲み分けは、不動産登記制度の構造に基づいています。不動産登記簿は「表題部」と「権利部」に分かれており、表題部は土地家屋調査士が、権利部は司法書士が担当します。

実務では、両者が連携して業務を進めることが多くあります。例えば、新築住宅を購入する場合、まず土地家屋調査士が建物表題登記を行い、その後、司法書士が所有権保存登記と抵当権設定登記を行います。土地を売買する際に分筆が必要な場合は、土地家屋調査士が分筆登記を行った後、司法書士が所有権移転登記を行います。

また、土地家屋調査士と司法書士の両方の資格を持つ「ダブルライセンス」の専門家もいます。ダブルライセンスを持つことで、表示登記から権利登記までワンストップで対応でき、依頼者の利便性が高まります。

業務の性質も異なります。土地家屋調査士は現場での測量作業が多く、体力を必要とする場面もあります。一方、司法書士は書類作成や法律相談が中心で、デスクワークが主体です。このため、適性や興味に応じて、どちらの資格を目指すかを選択することができます。

測量士との業務範囲の違い

土地家屋調査士と測量士・測量士補は、どちらも測量業務に関わる資格ですが、業務範囲や目的が異なります。

測量士・測量士補は、測量法に基づく国家資格で、国土交通省が所管しています。主な業務は、公共事業に伴う測量(道路・河川・都市計画など)や、民間の開発事業に伴う測量です。基本測量や公共測量を行うことができ、大規模な測量プロジェクトを担当することも多くあります。

一方、土地家屋調査士は、不動産登記を目的とした測量を行います。個別の土地や建物について、登記に必要な精度で測量し、法務局に提出する図面を作成します。

業務範囲の違いを具体的に見てみましょう。測量士・測量士補は、道路の建設計画のための地形測量、ダム建設のための用地測量、都市開発のための地籍調査など、公共性の高い測量を主に担当します。これらの測量は、広範囲を対象とし、国家座標系に基づいて高精度で実施されます。

土地家屋調査士は、個人や企業の依頼による不動産の測量を担当します。土地の境界確定測量、建物の位置・面積測量、分筆や合筆のための測量などです。これらの測量は、登記申請を前提としており、法務局の基準を満たす必要があります。

重要な点は、登記を伴う測量は土地家屋調査士の独占業務であることです。測量士・測量士補が単純な測量を行うことはできますが、その結果を基に登記申請を行うことはできません。登記申請が必要な場合は、土地家屋調査士に依頼する必要があります。

ただし、測量士・測量士補の資格を持っていると、土地家屋調査士試験の午前の部(測量に関する試験)が免除されます。このため、測量士・測量士補の資格を取得してから土地家屋調査士試験に挑戦する受験者も多くいます。

実務では、測量士と土地家屋調査士が協力することもあります。大規模開発プロジェクトでは、測量士が全体の測量計画を立案し、土地家屋調査士が個別の土地の登記測量を担当するといった役割分担が行われます。

土地家屋調査士と測量士の違いについては、資格の取得難易度や業務の特性、キャリアパスなど、さらに詳しい比較情報があります。自分に合った資格選択の参考にしてください。

土地家屋調査士と測量士の違いに関してもっと詳しい記事はこちら
土地家屋調査士と測量士・測量士補の違い|資格比較と選び方

土地家屋調査士資格の試験制度

土地家屋調査士になるには、年1回実施される土地家屋調査士試験に合格する必要があります。この試験は高度な専門知識と実務能力が求められ、合格率は10%前後という難関試験です。土地家屋調査士試験の詳細について見ていきましょう。

土地家屋調査士試験の概要と受験資格

土地家屋調査士試験は、法務省が所管し、各法務局が実施する国家試験です。試験は年1回、例年8月(筆記試験)と11月(口述試験)に実施されます。

土地家屋調査士試験の大きな特徴は、受験資格に制限がないことです。年齢・学歴・実務経験に関係なく、誰でも受験できます。このため、文系・理系を問わず、また社会人経験の有無に関わらず、挑戦することができます。

受験申込は例年5月下旬から6月上旬に行われます。受験手数料は8,300円です。申込方法は、法務局への直接持参または郵送です。最近では、インターネット申込も一部の法務局で導入されています。

試験会場は、各法務局の管轄区域内に設置されます。筆記試験は全国の主要都市で実施されますが、口述試験は各法務局(全国8か所)でのみ実施されるため、遠方の受験者は移動が必要になることがあります。

受験者数は例年3,000人~4,000人程度です。近年は受験者数がやや減少傾向にありますが、これは少子化や資格試験全体の受験者減少が影響していると考えられます。

受験者の属性は多様です。測量会社や建設会社に勤務する社会人、土地家屋調査士事務所の補助者、大学生や専門学校生、他業種からの転職希望者など、様々な背景を持つ人が受験しています。年齢層も20代から60代まで幅広く、人生の転機に資格取得を目指す人も少なくありません。

合格後は、日本土地家屋調査士会連合会への登録が必要です。登録には、登録手数料(約25万円~30万円)と入会金(約30万円~50万円、各地域の調査士会により異なる)が必要です。また、新規登録者向けの研修(特別研修)を受講する必要があります。

筆記試験(午前の部・午後の部)と口述試験

土地家屋調査士試験は、筆記試験(午前の部・午後の部)と口述試験の3段階で実施されます。

午前の部(測量に関する試験)

午前の部は、測量の知識と技能を問う試験です。試験時間は2時間で、平面測量と作図の2科目が出題されます。

平面測量は、トラバース測量、多角測量、交点計算などの測量計算問題が出題されます。電卓を使用して、与えられた測量データから座標や距離、角度を計算します。正確な計算力とスピードが求められます。

作図は、測量結果を基に図面を作成する問題です。定規・コンパス・三角定規などの製図用具を使い、所定の縮尺で正確に作図します。ミリ単位の精度が求められ、図面の美しさも評価の対象となります。

ただし、測量士・測量士補・建築士(1級・2級)の資格を持っている場合、または過去に午前の部に合格している場合は、午前の部が免除されます。実際には、受験者の約80%が午前の部の免除資格を持っており、午後の部のみを受験します。

午後の部(法律・書式に関する試験)

午後の部は、不動産登記法・民法・土地家屋調査士法などの法律知識と、登記申請書類の作成能力を問う試験です。試験時間は2時間30分です。

択一式問題(20問)は、不動産登記法を中心に、民法、土地家屋調査士法、その他の関連法令から出題されます。各問題は5つの選択肢から正解を選ぶ形式です。法律の条文や判例の知識が問われます。

書式問題(2問)は、土地または建物の登記申請書類を実際に作成する問題です。土地の問題では、分筆や地積更正などの登記申請書と地積測量図の作成が求められます。建物の問題では、建物表題登記の申請書と建物図面・各階平面図の作成が求められます。

書式問題は、土地家屋調査士試験の最大の難関です。複雑な事例を読み解き、適切な登記申請を判断し、正確な図面を作成する必要があります。時間内に完成させるためには、相当な練習が必要です。

午後の部の合格基準は、択一式と書式の合計点で決まります。例年、択一式で一定の基準点を超え、かつ総合点で合格ラインに達することが求められます。

口述試験(面接形式の試験)

筆記試験に合格した者のみが、口述試験を受験できます。口述試験は、例年11月中旬から下旬に実施されます。

口述試験は、面接形式で行われます。試験時間は15分程度で、試験官2~3名が、受験者に質問を行います。

質問内容は、土地家屋調査士の業務に関する実務的な知識や、職業倫理、法令遵守などです。例えば、「境界立会いで隣接地所有者と意見が対立した場合、どう対応しますか」「土地家屋調査士の守秘義務について説明してください」といった質問が出されます。

口述試験の合格率は非常に高く、筆記試験合格者のほとんどが合格します(合格率98%以上)。基本的な実務知識と常識的な対応ができれば合格できるため、「筆記試験に合格すれば、ほぼ最終合格」と言われています。

ただし、口述試験でも不合格になる可能性はゼロではありません。試験官の質問に適切に答えられなかったり、土地家屋調査士としての適性に疑問を持たれたりすると、不合格になることがあります。筆記試験合格後も気を抜かず、しっかりと準備することが大切です。

土地家屋調査士試験の合格率と難易度

土地家屋調査士試験の合格率は、例年9%~11%程度です。2023年度の合格率は10.47%で、受験者3,859人のうち合格者は404人でした。

合格率が低い理由はいくつかあります。第一に、試験の難易度が高いことです。特に午後の部の書式問題は、実務に近い複雑な事例が出題され、正確な図面作成には高度な技術が求められます。

第二に、相対評価方式が採用されていることです。土地家屋調査士試験には明確な合格点が公表されておらず、その年の受験者の成績分布に基づいて合格ラインが決定されます。このため、自分が高得点を取っても、他の受験者の成績が良ければ不合格になる可能性があります。

第三に、受験者のレベルが高いことです。土地家屋調査士試験の受験者の多くは、すでに測量士補の資格を持っていたり、土地家屋調査士事務所で補助者として働いていたりする、ある程度の専門知識を持った人です。そうした人たちの中で上位10%に入ることは容易ではありません。

合格に必要な学習時間は、一般的に1,000時間~1,500時間と言われています。予備校に通う場合、1年~2年のカリキュラムが組まれることが多く、働きながら合格を目指す場合は2年程度を見込むことが現実的です。

ただし、午前の部免除資格(測量士補など)を持っている場合は、午後の部に集中できるため、学習時間を短縮できます。測量士補を先に取得してから土地家屋調査士試験に挑戦する戦略は、効率的な合格ルートとして広く推奨されています。

土地家屋調査士試験の難易度土地家屋調査士試験の合格率については、他の資格試験との比較や、合格のための具体的な戦略を詳しく解説した専門記事があります。

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土地家屋調査士になる方法とキャリアパス

土地家屋調査士になるには、試験合格だけでなく、登録手続きや実務経験も重要です。また、キャリアの選択肢も多様で、自分に合った働き方を選ぶことができます。土地家屋調査士になるにはどうすればよいのか、詳しく見ていきましょう。

土地家屋調査士資格の取得ルート

土地家屋調査士になるための主なルートは、土地家屋調査士試験に合格することです。試験合格後、日本土地家屋調査士会連合会に登録することで、土地家屋調査士として業務を行うことができます。

試験合格以外のルートとして、特認制度があります。これは、法務局で不動産登記事務に従事した経験がある公務員が、一定の条件を満たすことで土地家屋調査士の資格を取得できる制度です。ただし、この制度を利用できるのは限られた人であり、一般的なルートではありません。

実務的には、以下のステップで土地家屋調査士を目指すことが推奨されます。

ステップ1:測量士補の取得(任意だが推奨)

まず測量士補の資格を取得します。測量士補試験は土地家屋調査士試験よりも難易度が低く(合格率30%~40%)、比較的短期間で取得できます。測量士補を取得することで、土地家屋調査士試験の午前の部が免除されるため、学習時間を大幅に短縮できます。

測量士補試験は年1回、5月に実施されます。マークシート形式の筆記試験のみで、測量の基礎知識を問う問題が出題されます。独学でも合格可能で、3か月~6か月の学習期間が目安です。

ステップ2:土地家屋調査士試験の学習

測量士補取得後(または並行して)、土地家屋調査士試験の学習を始めます。独学、予備校、通信講座など、学習方法は様々です。

学習期間は1年~2年が一般的です。午後の部の択一式と書式を中心に学習し、特に書式問題の練習に多くの時間を割きます。過去問を繰り返し解き、出題パターンと解法を身につけることが重要です。

ステップ3:土地家屋調査士試験の受験・合格

8月の筆記試験、11月の口述試験を経て、最終合格を目指します。合格発表は例年1月上旬です。

ステップ4:登録手続きと研修

試験合格後、日本土地家屋調査士会連合会への登録手続きを行います。登録には以下の費用がかかります。

  • 登録手数料:約25万円~30万円
  • 入会金:約30万円~50万円(各都道府県の土地家屋調査士会により異なる)
  • 年会費:約10万円~15万円

また、新規登録者は特別研修を受講する必要があります。この研修は、土地家屋調査士としての実務や職業倫理について学ぶもので、数日間にわたって実施されます。

ステップ5:実務経験を積む

登録後、土地家屋調査士事務所に勤務して実務経験を積むか、補助者としての経験がある場合は独立開業します。実務では、資格取得時には学べなかった実践的なスキルや、顧客対応のノウハウを身につけます。

補助者として実務経験を積むメリット

土地家屋調査士の補助者とは、土地家屋調査士の業務を補助する職員のことです。測量の補助、図面作成、書類整理などを担当し、実務を通じて土地家屋調査士の仕事を学びます。

補助者として働くメリットは多くあります。

第一に、実務経験を積みながら試験勉強ができることです。日中は補助者として働き、夜間や休日に試験勉強をする、という働き方が可能です。実務で得た知識が試験に役立ち、逆に試験勉強で学んだ知識が実務に活かせるという相乗効果があります。

第二に、資格取得後の独立開業がスムーズにできることです。補助者として数年間働くことで、業務の流れ、顧客対応、営業方法などを実地で学べます。独立開業時に必要な人脈や信頼関係も、補助者時代に築くことができます。

第三に、収入を得ながら資格取得を目指せることです。補助者の給与は事務所により異なりますが、一般的には月給20万円~30万円程度です。生活費を稼ぎながら、資格取得に向けた学習を続けることができます。

補助者を募集している土地家屋調査士事務所は多く、測量士補の資格や測量経験があると採用されやすくなります。求人情報は、各都道府県の土地家屋調査士会のウェブサイトや、ハローワーク、求人サイトで見つけることができます。

補助者からのキャリアパスとしては、数年間の補助者経験を経て試験に合格し、そのまま勤務先の事務所で土地家屋調査士として働くパターンや、独立開業するパターンがあります。中には、勤務先の事務所を継承する形で代表になる人もいます。

登録手続きと開業までの流れ

土地家屋調査士試験に合格したら、登録手続きを行います。登録は、開業しようとする事務所の所在地を管轄する都道府県の土地家屋調査士会を通じて、日本土地家屋調査士会連合会に申請します。

登録に必要な書類は以下の通りです。

  • 登録申請書
  • 試験合格証明書
  • 履歴書
  • 誓約書
  • 事務所の所在地を証する書面(賃貸借契約書など)
  • 写真
  • 戸籍抄本または住民票

登録手続きには、前述の通り、登録手数料と入会金が必要です。また、新規登録者向けの特別研修を受講します。研修では、測量実習、登記実務、職業倫理、関連法令などについて学びます。

登録が完了すると、土地家屋調査士証票(調査士バッジ)と調査士証が交付されます。これで正式に土地家屋調査士として業務を行うことができます。

開業する場合は、事務所の準備が必要です。事務所は自宅でも構いませんが、顧客が訪問できる環境を整える必要があります。

開業時に必要な設備・機材は以下の通りです。

  • 測量機器:トータルステーション、GNSS測量機、レベル、ポールなど(200万円~500万円程度)
  • 製図用具:製図板、定規、コンパス、三角定規など(5万円~10万円程度)
  • パソコンとソフトウェア:CADソフト、登記申請ソフト、オンライン申請用の電子証明書など(50万円~100万円程度)
  • 事務機器:プリンター、スキャナー、複合機など(20万円~50万円程度)
  • 自動車:測量現場への移動用(価格は車種による)

初期投資として300万円~700万円程度が必要です。測量機器は中古品を購入したり、リースを利用したりすることで、初期費用を抑えることも可能です。

開業後は、営業活動を通じて顧客を獲得します。最初は知人や補助者時代の人脈からの紹介が中心になることが多いです。また、不動産業者や建設会社、司法書士などとの連携関係を構築することで、継続的に仕事を受注できるようになります。

開業後数年は収入が不安定なことも多いため、生活費の備えや、勤務しながら開業準備を進めるなど、慎重な計画が必要です。しかし、実績と信頼を積み重ねることで、安定した収入を得られるようになります。

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土地家屋調査士になるには?資格取得の流れ・必要な勉強・実務要件を解説

土地家屋調査士の年収と収入の実態

土地家屋調査士の年収は、勤務形態や経験年数、地域によって大きく異なります。独立開業している土地家屋調査士と、事務所に勤務している土地家屋調査士では、収入構造も異なります。土地家屋調査士の年収の実態を詳しく見ていきましょう。

土地家屋調査士の平均年収と給与水準

土地家屋調査士の平均年収は、各種統計データによると約450万円~550万円程度とされています。ただし、これは勤務形態や地域、経験年数によって大きく幅があります。

日本土地家屋調査士会連合会の調査によると、土地家屋調査士の年間売上(個人事業主の場合)の中央値は約700万円~800万円程度です。そこから経費を差し引いた実質的な所得は、400万円~600万円程度になります。

勤務土地家屋調査士(事務所に雇用されている土地家屋調査士)の場合、平均年収は約400万円~600万円程度です。経験年数や能力、事務所の規模によって異なり、新人の場合は300万円台、ベテランの場合は700万円以上になることもあります。

地域による収入差も存在します。東京や大阪などの大都市圏では、不動産取引が活発で仕事量も多いため、平均年収が高くなる傾向があります。一方、地方では仕事量が限られるため、年収が低めになることがあります。

ただし、地方では事務所経費(家賃など)が安く、また、地域に根差した営業がしやすいというメリットもあります。都市部と地方では、単純な年収額だけでは比較できない側面があります。

勤務形態別の収入比較(勤務・開業)

勤務土地家屋調査士と開業土地家屋調査士では、収入構造が大きく異なります。

勤務土地家屋調査士の収入

勤務土地家屋調査士は、土地家屋調査士事務所に雇用されて働きます。給与は月給制が一般的で、賞与がある事務所も多くあります。

平均的な月給は、経験年数に応じて以下の通りです。

  • 新人(経験1~3年):月給25万円~35万円
  • 中堅(経験4~10年):月給35万円~50万円
  • ベテラン(経験11年以上):月給50万円~70万円

年収に換算すると、賞与を含めて300万円~800万円程度の幅があります。

勤務土地家屋調査士のメリットは、収入が安定していることです。毎月決まった給与が支払われるため、生活設計が立てやすく、社会保険や厚生年金にも加入できます。また、測量機器などの設備投資が不要で、事務所の経営リスクを負う必要もありません。

デメリットは、収入の上限がある程度決まっていることです。どんなに頑張っても、雇用されている限りは給与の範囲内の収入になります。また、独立開業に比べると、仕事の裁量や自由度が限られます。

開業土地家屋調査士の収入

開業土地家屋調査士は、自分の事務所を持ち、個人事業主または法人として営業します。収入は、受注した業務の報酬から経費を差し引いた額になります。

開業土地家屋調査士の年収は、実績や営業力によって大きく異なります。

  • 開業初年度~3年:年収200万円~400万円(営業基盤を築く期間)
  • 開業4~10年:年収500万円~800万円(実績を積み安定期に入る)
  • 開業11年以上:年収800万円~1,500万円以上(ベテランとして高収入を得る)

成功している開業土地家屋調査士の中には、年収2,000万円以上を得ている人もいます。一方で、営業が軌道に乗らず、年収300万円台で苦労している人もいます。

開業土地家屋調査士のメリットは、収入の上限がないことです。営業努力と実績次第で、高収入を得ることが可能です。また、仕事の内容や量を自分で決められるため、ワークライフバランスを調整しやすいという面もあります。

デメリットは、収入が不安定で、経営リスクを負うことです。仕事がない月は収入がゼロになることもあり、設備投資や事務所経費も自己負担です。また、営業活動や経営管理も自分で行う必要があり、実務以外の業務にも時間を割かなければなりません。

年収を左右する要因とスキル

土地家屋調査士の年収を左右する要因は、いくつかあります。

専門性と技術力

測量技術が高く、複雑な案件にも対応できる土地家屋調査士は、高い報酬を得ることができます。特に、山林の測量や大規模な分筆、境界紛争の解決など、難易度の高い業務をこなせることが、収入向上につながります。

最新の測量技術(ドローン測量、3Dレーザースキャナーなど)を習得し、効率的に業務を行える土地家屋調査士も、競争力が高まります。

営業力と人脈

独立開業の場合、営業力が収入に直結します。不動産業者、建設会社、司法書士、行政書士などとの人脈を構築し、継続的に仕事を紹介してもらえる関係を築くことが重要です。

地域での評判や信頼も、営業の基盤になります。丁寧な仕事をして顧客満足度を高めることで、口コミや紹介による受注が増えます。

ダブルライセンス

土地家屋調査士と他の資格を併せ持つことで、業務の幅が広がり、収入が増えることがあります。

特に、司法書士とのダブルライセンスは相性が良く、表示登記から権利登記までワンストップで対応できるため、顧客の利便性が高まり、受注しやすくなります。行政書士や建築士とのダブルライセンスも、業務の幅を広げる効果があります。

地域と市場環境

不動産取引が活発な地域では、土地家屋調査士の需要も高く、収入も高めになります。都市部の再開発地域や、新興住宅地などは、仕事の機会が多いエリアです。

一方、人口減少が進む地方では、不動産取引自体が減少しており、土地家屋調査士の仕事も減っています。ただし、所有者不明土地問題や相続による土地の整理など、今後増加が見込まれる業務もあります。

業務効率化

業務の効率化も、収入向上の鍵です。CADソフトや登記申請ソフトを使いこなし、図面作成や申請手続きを迅速に行えることで、より多くの案件をこなすことができます。

また、補助者を雇用して測量や図面作成を分担することで、自分はより高度な業務や営業活動に専念できます。効率的な事務所運営が、収入増加につながります。

土地家屋調査士の年収に関してもっと詳しい記事はこちら
土地家屋調査士の年収は?平均給与・開業・勤務別の収入を徹底分析

土地家屋調査士に向いている人の特徴

土地家屋調査士の仕事には、特定の適性や能力が求められます。自分がこの職業に向いているかどうかを見極めることは、資格取得を目指す前に重要です。

調査・測量業務に必要な適性

土地家屋調査士の仕事の中心は、調査・測量業務です。この業務に必要な適性としては、以下が挙げられます。

正確性と注意深さ

測量では、ミリ単位の精度が求められます。小さな誤差が大きな問題につながる可能性があるため、細部まで注意を払い、正確に作業を進める能力が必要です。図面作成や登記申請書類の作成でも、誤りがあってはならず、慎重さが求められます。

数字や計算が得意で、間違いを見逃さない注意力がある人は、土地家屋調査士に向いています。

空間認識能力

土地の形状や建物の構造を理解し、2次元の図面に正確に表現する能力が必要です。現地の状況を頭の中で立体的にイメージし、それを平面図に落とし込むスキルが求められます。

地図を読むのが得意な人、図形問題が得意な人は、この適性があると言えます。

理数系の素養

測量では、三角関数や座標計算など、数学的な知識が必要です。また、測量機器の原理を理解するには、物理学の基礎知識も役立ちます。

文系・理系を問わず土地家屋調査士になることは可能ですが、数学に苦手意識がない方が有利です。ただし、高度な数学は必要なく、高校数学の基礎レベルで十分対応できます。

IT・技術への適応力

現代の土地家屋調査士業務では、CADソフト、測量機器のデータ処理ソフト、登記申請のオンラインシステムなど、様々なITツールを使用します。

新しい技術やソフトウェアを学ぶことに抵抗がなく、効率化のためにITを活用できる人は、現代の土地家屋調査士に向いています。

コミュニケーション能力と交渉力

土地家屋調査士の仕事は、測量だけでなく、人との関わりも多くあります。

顧客対応力

依頼者のニーズを正確に理解し、専門的な内容を分かりやすく説明する能力が必要です。不動産登記や境界に関する知識がない依頼者に対して、丁寧に説明し、安心感を与えることが求められます。

また、依頼者の不安や疑問に寄り添い、信頼関係を築くコミュニケーション能力も重要です。

交渉力と調整能力

境界確定の際には、隣接地所有者との立会いが必要です。時には境界について意見の対立があり、調整が必要になります。

双方の主張を聞き、公平な立場から合理的な解決策を提示し、合意を形成する交渉力が求められます。感情的にならず、冷静に対応できることが重要です。

チームワーク

測量作業は、補助者や他の専門家と協力して行うことが多くあります。司法書士や行政書士、不動産業者などとも連携します。

チームで協力して仕事を進める能力、他の専門家と良好な関係を築く能力が、円滑な業務遂行には不可欠です。

体力と正確性を求められる職種特性

土地家屋調査士は、デスクワークと現場作業の両方を行う職業です。

体力と健康

現場での測量作業は、屋外での長時間の立ち仕事になります。夏の暑さや冬の寒さの中でも作業を行い、山林や傾斜地など、アクセスが困難な場所での測量もあります。

また、測量機器や測量ポールなど、重い機材を運搬することもあります。ある程度の体力と健康が必要です。

ただし、極端な体力が求められるわけではありません。日常的に歩いたり、軽い荷物を運んだりできる程度の体力があれば十分です。年齢を重ねても続けられる職業であり、実際に60代、70代でも現役で活躍している土地家屋調査士は多くいます。

根気強さと忍耐力

境界確定には、時間がかかることがあります。隣接地所有者との調整に数か月、場合によっては数年かかることもあります。

また、複雑な案件では、何度も現地調査を繰り返したり、膨大な過去の資料を調査したりする必要があります。根気強く、粘り強く仕事に取り組む姿勢が求められます。

責任感と職業倫理

土地家屋調査士の仕事は、国民の財産権に関わる重要な業務です。不正確な測量や登記は、将来の紛争の原因になり、依頼者に大きな損害を与える可能性があります。

高い責任感を持ち、常に正確な仕事を心がける職業倫理が必要です。また、守秘義務を遵守し、依頼者の情報を適切に管理することも重要です。

独立心と自己管理能力

独立開業する場合は、自分で営業活動を行い、業務管理や経営管理も行う必要があります。指示を待つのではなく、自ら考えて行動する独立心が求められます。

また、時間管理や健康管理も自己責任です。自分で計画を立て、実行できる自己管理能力が、開業土地家屋調査士には不可欠です。

土地家屋調査士の働き方とキャリア展望

土地家屋調査士の働き方は多様で、自分のライフスタイルやキャリアビジョンに合わせて選択できます。勤務形態や独立開業のタイミング、ダブルライセンスの活用など、様々な選択肢があります。

個人事務所・法人・合同事務所の選択肢

土地家屋調査士の事務所形態には、いくつかの選択肢があります。

個人事務所(個人事業主)

最も一般的な形態が、個人事業主としての開業です。自分一人、または数名の補助者を雇用して運営する小規模事務所です。

個人事務所のメリットは、経営の自由度が高いことです。受注する業務の種類や量を自分で決められ、ワークライフバランスも調整しやすくなります。また、開業の手続きが簡単で、初期投資も比較的少なく済みます。

デメリットは、すべての責任を一人で負うことです。経営管理、営業活動、実務、全てを自分で行う(または少数の補助者と行う)必要があり、負担が大きくなることがあります。

法人(株式会社・合同会社など)

事業規模が大きくなると、法人化する土地家屋調査士もいます。複数の土地家屋調査士を雇用し、組織として業務を行います。

法人化のメリットは、信用力が高まることです。大規模な案件を受注しやすくなり、銀行融資も受けやすくなります。また、節税効果や社会保険の面でもメリットがあります。

デメリットは、法人設立や運営にコストと手間がかかることです。税務申告も複雑になり、税理士に依頼する必要が生じます。

合同事務所(共同事務所)

複数の土地家屋調査士が共同で事務所を運営する形態です。事務所の賃料や設備投資を分担でき、互いに業務を補完し合えるメリットがあります。

合同事務所は、独立開業のリスクを軽減しつつ、個人事業主としての自由度も保てる形態です。ただし、パートナー選びが重要で、経営方針や業務分担について、事前に十分に話し合う必要があります。

勤務土地家屋調査士

事務所に雇用される形で働く選択肢もあります。安定した収入を得ながら、実務経験を積むことができます。

特に、資格取得後すぐに独立開業するのは不安という人や、家族の事情で経営リスクを負えない人にとって、勤務土地家屋調査士という働き方は現実的な選択肢です。

土地家屋調査士の独立開業の特徴

土地家屋調査士は、独立開業しやすい資格として知られています。その理由をいくつか挙げます。

独占業務による安定需要

表示に関する登記は、土地家屋調査士の独占業務です。他の資格者や無資格者が行うことはできないため、一定の需要が保証されています。

建物の新築や取り壊し、土地の分筆や合筆など、不動産に関する様々な場面で土地家屋調査士のサービスが必要とされます。

初期投資が比較的少ない

土地家屋調査士の開業に必要な初期投資は、300万円~700万円程度です。他の士業(弁護士、税理士など)に比べると、開業ハードルは比較的低いと言えます。

また、自宅を事務所にすることで、事務所賃料を抑えることもできます。測量機器も、中古品やリースを利用することで、初期費用を削減できます。

年齢に関係なく挑戦できる

土地家屋調査士試験には年齢制限がなく、何歳からでも挑戦できます。実際に、40代、50代で資格を取得し、独立開業する人も多くいます。

人生経験や前職でのスキルを活かしながら、新しいキャリアを築くことができます。定年後のセカンドキャリアとして土地家屋調査士を選ぶ人もいます。

地域密着型の営業

土地家屋調査士の業務は、地域に根差した営業がしやすいビジネスです。地元の不動産業者や建設会社、司法書士などと良好な関係を築くことで、継続的に仕事を受注できます。

また、地域での評判や口コミが重要なため、誠実に仕事をすることが、長期的な成功につながります。

独立開業のリスク

もちろん、独立開業にはリスクもあります。開業当初は収入が不安定で、営業活動にも時間とエネルギーを費やす必要があります。経営管理や税務申告など、実務以外の業務も自分で行わなければなりません。

また、土地家屋調査士業界全体として、高齢化が進んでおり、若手の参入が少ないという課題もあります。将来的な市場環境の変化にも注意が必要です。

ダブルライセンスとキャリアの広がり

土地家屋調査士と他の資格を併せ持つことで、業務の幅が大きく広がります。

土地家屋調査士 × 司法書士

最も相性が良いダブルライセンスです。表示登記と権利登記の両方を扱えるため、不動産登記をワンストップで提供できます。

顧客にとっては、一人の専門家に全てを任せられる利便性があり、受注しやすくなります。また、業務の幅が広がることで、収入も増加します。

ただし、両方の資格を取得するには、相当な学習時間と努力が必要です。試験の難易度も高く、ダブルライセンス取得には数年を要することが一般的です。

土地家屋調査士 × 測量士

測量の専門性を高めるダブルライセンスです。土地家屋調査士は登記測量を、測量士は公共測量を担当できるため、業務の幅が広がります。

大規模な開発プロジェクトに参加する機会も増え、収入アップにつながります。

土地家屋調査士 × 行政書士

土地の開発許可申請や農地転用申請など、行政手続きも含めた総合的なサービスを提供できます。

不動産開発に関連する業務を一貫して受注でき、建設会社や不動産業者からの評価も高まります。

土地家屋調査士 × 建築士

建築と登記の両方に精通することで、建築プロジェクト全体に関わることができます。建物の設計から登記まで、一貫したサービスを提供できる強みがあります。

ダブルライセンスは、キャリアの選択肢を大きく広げます。ただし、複数の資格を維持するには、継続的な学習と研修が必要です。また、業務が多様化することで、専門性が薄れるリスクもあるため、自分の強みを明確にすることが重要です。

土地家屋調査士の将来性と業界の現状

土地家屋調査士の将来性は、社会的な課題と技術革新の両面から考える必要があります。需要の変化や業界の課題を理解することで、今後のキャリア展望が見えてきます。

土地家屋調査士の需要と社会的役割

土地家屋調査士の需要は、不動産取引の活発さに大きく影響されます。現在の日本では、人口減少と高齢化が進む中で、不動産市場にも変化が生じています。

新築住宅の着工件数は減少傾向にあり、これに伴って建物表題登記の需要も減少しています。また、地方では不動産取引そのものが減少しており、土地家屋調査士の業務量が減っている地域もあります。

一方で、新たな需要も生まれています。例えば、相続に伴う土地の分筆や境界確定のニーズは増加しています。団塊世代の高齢化により、相続が増加しており、それに伴う不動産の整理や分割が必要とされています。

また、不動産の有効活用や再開発のニーズも高まっています。都市部の再開発プロジェクトや、空き家・空き地の活用など、土地家屋調査士の専門知識が求められる場面は多くあります。

土地家屋調査士会の会員数は、近年、横ばいまたは微減傾向にあります。2023年時点で約16,000人の土地家屋調査士が登録していますが、高齢化が進んでおり、若手の参入が課題となっています。

高齢化は、一方で新規参入者にとってはチャンスでもあります。廃業する土地家屋調査士が増える中で、若手や新規開業者がその顧客を引き継ぐ機会が生まれています。

所有者不明土地問題と土地家屋調査士

近年、所有者不明土地が社会問題となっています。所有者不明土地とは、登記簿上の所有者が死亡しているが相続登記がされていない、または所有者の所在が不明な土地のことです。

国土交通省の調査によると、所有者不明土地は全国で約410万ヘクタール(九州の面積に相当)にのぼるとされています。所有者不明土地は、公共事業の妨げになったり、防災上のリスクになったりするなど、様々な問題を引き起こしています。

この問題を解決するため、2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。違反すると過料が科される可能性があります。

相続登記の義務化により、今後、相続に伴う土地の調査や境界確定、分筆登記などの需要が増加することが予想されます。土地家屋調査士にとっては、新たな業務機会となります。

また、筆界特定制度やADRを活用した境界紛争の解決も、今後ますます重要になります。所有者不明土地の解消には、境界を明確にすることが不可欠であり、土地家屋調査士の専門性が大いに求められます。

地籍調査も、所有者不明土地問題の解決に向けた取り組みの一つです。地籍調査とは、市町村が主体となって、土地の所有者・地番・地目・境界・面積を調査し、地籍図と地籍簿を作成する事業です。土地家屋調査士は、地籍調査の推進委員や調査員として、この事業に協力しています。

IT化・ドローン測量など技術革新への対応

土地家屋調査士業界でも、技術革新が進んでいます。

ドローン測量の活用

ドローン(無人航空機)を使った測量が、急速に普及しています。ドローンに搭載したカメラやレーザースキャナーで空中から撮影・測定することで、広大な土地や地形が複雑な場所の測量を、短時間で効率的に行えます。

ドローン測量のメリットは、作業時間の短縮、安全性の向上、測量精度の向上などです。山林や崖地など、人が立ち入りにくい場所でも測量が可能です。

土地家屋調査士がドローン測量を活用するには、ドローンの操縦技術と、ドローン測量のデータ処理技術を習得する必要があります。また、ドローンの飛行には航空法の規制があり、必要な許可を取得することも重要です。

3Dレーザースキャナー

3Dレーザースキャナーは、レーザー光を照射して対象物の3次元形状を高精度で計測する機器です。建物の測量や、複雑な地形の測量に威力を発揮します。

3Dスキャンのデータは、CADに取り込んで図面化したり、3Dモデルを作成したりできます。リフォームや増築の計画、文化財の記録など、様々な用途に活用されています。

オンライン申請の普及

登記申請のオンライン化も進んでいます。法務省は、登記手続きのデジタル化を推進しており、オンライン申請の利用率向上を目指しています。

オンライン申請のメリットは、法務局に出向く必要がなく、時間と交通費を節約できることです。また、申請書類の電子化により、書類の保管や管理も効率化されます。

土地家屋調査士は、電子証明書を取得し、オンライン申請システムの使い方を習得する必要があります。多くの予備校や土地家屋調査士会が、オンライン申請の研修を提供しています。

AI・自動化技術の影響

将来的には、AI(人工知能)や自動化技術が、土地家屋調査士業務にも影響を与える可能性があります。

例えば、測量データの自動処理、図面の自動作成、登記申請書類の自動生成などが、技術的には可能になりつつあります。

ただし、土地家屋調査士の業務は、単純な作業だけでなく、法律的な判断、境界に関する交渉、現地の状況判断など、人間の専門知識と経験が必要な部分が多くあります。完全な自動化は困難であり、AIはあくまで業務を補助するツールとして位置づけられるでしょう。

むしろ、AIや自動化技術を積極的に活用し、業務を効率化できる土地家屋調査士が、競争力を持つと考えられます。技術革新に適応し、新しいツールを使いこなすスキルが、今後ますます重要になります。

土地家屋調査士資格取得のメリット

土地家屋調査士資格を取得することには、様々なメリットがあります。独占業務による安定性、独立開業のしやすさ、ダブルライセンスによるキャリアの広がりなど、魅力的な点が多くあります。

独占業務による安定した需要

土地家屋調査士の最大のメリットは、法律で保護された独占業務を持つことです。

表示に関する登記の申請代理は、土地家屋調査士にしか行えません。建物を新築すれば建物表題登記が必要であり、土地を分筆すれば分筆登記が必要です。これらの登記は、不動産取引や相続、開発などの際に不可欠であり、常に一定の需要があります。

独占業務は、無資格者との競争がないことを意味します。価格競争に巻き込まれにくく、専門性に見合った報酬を得ることができます。

また、表示に関する登記の多くは義務的登記であるため、景気の変動に比較的左右されにくいという特徴もあります。経済が不況でも、建物の新築や取り壊し、土地の分筆などは一定数発生し、土地家屋調査士のサービスが必要とされます。

独立開業しやすい資格としての魅力

土地家屋調査士は、独立開業を目指しやすい資格です。

前述の通り、初期投資が比較的少なく、自宅を事務所にすることも可能です。大規模な設備や多くのスタッフを必要とせず、一人でも開業できます。

また、地域密着型の営業がしやすく、地元での人脈や評判を築くことで、安定した受注を得ることができます。大企業との取引が必須ではなく、個人や中小企業、不動産業者などとの関係で業務を継続できます。

年齢に関係なく挑戦できることも、大きな魅力です。40代、50代での転職やセカンドキャリアとして土地家屋調査士を選ぶ人も多く、人生経験を活かしながら新しいキャリアを築くことができます。

定年がないことも特徴です。会社員のように定年退職する必要がなく、体力と意欲がある限り、何歳まででも働くことができます。実際に、70代、80代でも現役で活躍している土地家屋調査士はいます。

独立開業により、仕事の内容や量を自分でコントロールできることも魅力です。ワークライフバランスを重視したい人は、受注量を調整して家族との時間を優先できます。逆に、収入を増やしたい人は、積極的に営業して業務量を増やすことも可能です。

関連資格とのダブルライセンスの相乗効果

土地家屋調査士と他の資格を組み合わせることで、業務の幅が大きく広がり、キャリアの可能性が広がります。

司法書士とのダブルライセンス

前述の通り、表示登記と権利登記の両方を扱えるため、不動産登記のワンストップサービスを提供できます。顧客の利便性が高まり、受注しやすくなります。また、業務の幅が広がることで、収入も増加します。

両方の資格を持つことで、不動産に関する総合的なコンサルティングも可能になります。相続や不動産売買の際に、登記だけでなく、法律的なアドバイスも含めた包括的なサービスを提供できます。

行政書士とのダブルライセンス

行政書士は、官公署に提出する書類の作成や許認可申請を業務としています。土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスを持つことで、開発許可申請、農地転用申請、建築確認申請など、不動産開発に関連する行政手続きも含めた総合的なサービスを提供できます。

特に、農地を宅地に転用して開発する案件では、農地転用許可(行政書士の業務)と地目変更登記(土地家屋調査士の業務)の両方が必要になります。ワンストップで対応できることは、大きな強みになります。

測量士とのダブルライセンス

測量の専門性を高めるダブルライセンスです。公共測量と登記測量の両方に対応できるため、大規模な開発プロジェクトにも参加しやすくなります。

また、測量士と土地家屋調査士の両方の視点を持つことで、より高度な測量技術を提供できます。

建築士とのダブルライセンス

建築と登記の両方に精通することで、建築プロジェクト全体に関わることができます。建物の設計から登記まで、一貫したサービスを提供できることは、建築主にとって大きなメリットです。

リフォームや増築の際にも、建築士と土地家屋調査士の両方の知識を活かして、適切なアドバイスを提供できます。

ダブルライセンスは、専門性を高め、競争力を強化する有効な戦略です。ただし、複数の資格を取得・維持するには、継続的な学習と努力が必要です。自分の興味や適性、キャリアビジョンに合わせて、どの資格との組み合わせが最適かを考えることが重要です。

土地家屋調査士に関連するよくある質問(FAQ)

土地家屋調査士に関して、よく寄せられる質問にお答えします。資格取得を検討している方の疑問解消に役立ててください。

Q. 土地家屋調査士は文系でもなれますか?

はい、文系出身でも土地家屋調査士になることは十分可能です。実際に、法学部や経済学部など文系学部出身の土地家屋調査士も多く活躍しています。

土地家屋調査士試験では、測量の計算問題が出題されますが、必要な数学のレベルは高校数学の基礎程度です。三角関数や座標計算などを理解できれば、文系出身でも十分対応できます。

むしろ、不動産登記法や民法などの法律科目は、文系出身者の方が得意な場合もあります。論理的な思考力や文章力は、法律の勉強や登記申請書類の作成に役立ちます。

重要なのは、文系・理系という区分ではなく、土地家屋調査士の業務に興味と適性があるかどうかです。測量や図面作成に興味があり、正確な作業を苦にしない方であれば、文系出身でも問題ありません。

Q. 土地家屋調査士の資格取得に必要な勉強時間は?

土地家屋調査士試験の合格に必要な勉強時間は、一般的に1,000時間~1,500時間とされています。ただし、これは個人の学習経験や能力、使用する教材、学習方法によって大きく異なります。

午前の部免除資格(測量士補など)を持っている場合は、午後の部に集中できるため、800時間~1,200時間程度で合格する人もいます。逆に、法律や測量の知識が全くない初学者の場合は、1,500時間以上かかることもあります。

学習期間としては、1年~2年が一般的です。働きながら合格を目指す場合、平日は1~2時間、休日は5~8時間程度の学習時間を確保し、1年半~2年での合格を目指すのが現実的なスケジュールです。

効率的な学習のためには、土地家屋調査士の勉強時間に関する詳細情報や、土地家屋調査士の効果的な勉強法を参考にすることをおすすめします。

Q. 土地家屋調査士と測量士補の違いは何ですか?

土地家屋調査士と測量士補は、どちらも測量に関わる資格ですが、業務範囲と目的が大きく異なります。

測量士補は、測量法に基づく国家資格で、測量士の作成した計画に従って測量を行うことができます。主に公共測量や開発事業に伴う測量を担当し、国土交通省が所管しています。

一方、土地家屋調査士は、不動産登記を目的とした測量を行い、登記申請を代理できる資格です。個別の土地や建物について、登記に必要な精度で測量し、法務局に提出する図面を作成します。

重要な違いは、登記申請ができるかどうかです。測量士補は測量はできますが、その結果を基に登記申請を行うことはできません。登記申請が必要な場合は、土地家屋調査士に依頼する必要があります。

また、測量士補の資格を持っていると、土地家屋調査士試験の午前の部が免除されます。このため、まず測量士補を取得してから土地家屋調査士試験に挑戦する受験者が多くいます。

土地家屋調査士と測量士の違いについては、さらに詳しい比較情報があります。

Q. 土地家屋調査士の仕事に年齢制限はありますか?

土地家屋調査士になるための年齢制限はありません。試験の受験資格に年齢制限はなく、何歳からでも挑戦できます。また、資格取得後も定年がないため、体力と意欲がある限り、何歳まででも働くことができます。

実際に、40代、50代で土地家屋調査士試験に合格し、セカンドキャリアとして独立開業する人も多くいます。人生経験や前職でのスキル(営業力、コミュニケーション能力、マネジメント経験など)を活かして、土地家屋調査士として成功している人もいます。

また、60代、70代でも現役で活躍している土地家屋調査士は多数います。年齢を重ねても専門性を発揮でき、社会に貢献できることは、土地家屋調査士の大きな魅力です。

ただし、現場での測量作業には、ある程度の体力が必要です。屋外での立ち仕事や、測量機器の運搬など、身体的な負担がある作業もあります。年齢を重ねるにつれて、補助者を雇用したり、測量作業を他の土地家屋調査士に委託したりするなど、働き方を調整することも可能です。

Q. 土地家屋調査士は女性でも活躍できますか?

はい、女性でも土地家屋調査士として十分に活躍できます。近年、女性の土地家屋調査士も増加傾向にあり、各地の土地家屋調査士会でも女性会員の活躍が目立っています。

土地家屋調査士の業務は、測量という体力を使う側面もありますが、図面作成や登記申請などのデスクワークも多く、女性でも問題なく対応できます。また、顧客対応や境界立会いにおいては、女性ならではの丁寧さや細やかな配慮が評価されることもあります。

独立開業しやすい資格であることも、女性にとってのメリットです。自分で業務量を調整できるため、子育てや家庭との両立もしやすくなります。在宅での図面作成作業も可能であり、柔軟な働き方を実現できます。

各都道府県の土地家屋調査士会では、女性会員のネットワークや支援制度を設けているところもあります。女性特有の悩みや課題について相談できる環境も整いつつあります。

性別に関わらず、正確な作業能力、コミュニケーション能力、専門知識を持ち、誠実に業務に取り組む姿勢があれば、土地家屋調査士として成功できます。

Q. 土地家屋調査士の資格は意味ないという噂は本当ですか?

「土地家屋調査士の資格は意味ない」という噂は、事実ではありません。ただし、こうした噂が広まる背景には、いくつかの理由があります。

第一に、独立開業後の営業の難しさです。資格を取得しても、すぐに顧客が集まるわけではありません。人脈や営業力がなければ、仕事を受注できず、収入が得られないこともあります。こうした経験から、「資格を取っても意味がなかった」と感じる人がいるのです。

第二に、業界の高齢化と市場の変化です。新築住宅の着工件数が減少する中で、従来型の業務だけでは十分な収入を得られない可能性があります。新しい需要に対応したり、営業方法を工夫したりする必要があります。

第三に、初期投資と登録費用の負担です。測量機器の購入や事務所の準備に数百万円が必要であり、また登録費用や年会費も高額です。これらの費用を回収できるかどうか、不安を感じる人もいます。

しかし、これらの課題は、適切な準備と戦略があれば克服可能です。独占業務を持つ国家資格であり、一定の需要は常に存在します。特に、相続に伴う土地の整理や境界確定など、今後増加が見込まれる需要もあります。

また、ダブルライセンスを取得したり、新しい技術(ドローン測量など)を習得したりすることで、競争力を高めることも可能です。

資格の価値は、資格そのものではなく、それをどう活用するかによって決まります。土地家屋調査士の資格を取得した上で、継続的に学習し、営業努力を重ね、顧客の信頼を得ることができれば、十分に価値のある資格と言えます。

Q. 土地家屋調査士として独立開業するのは難しいですか?

土地家屋調査士として独立開業することは、容易ではありませんが、適切な準備と戦略があれば十分に可能です。

独立開業の難しさは、主に以下の点にあります。

  1. 初期投資の負担:測量機器や事務所の準備に300万円~700万円程度が必要
  2. 営業の困難さ:顧客を獲得するための営業活動が必要
  3. 収入の不安定さ:開業当初は収入が不安定で、軌道に乗るまで時間がかかる
  4. 経営管理の必要性:実務だけでなく、経営管理や税務申告も自分で行う必要がある

これらの課題を克服するためには、以下の準備が重要です。

実務経験を積む
資格取得後すぐに独立するのではなく、数年間、土地家屋調査士事務所で勤務して実務経験を積むことが推奨されます。業務の流れ、顧客対応、営業方法などを実地で学べます。

人脈を構築する
不動産業者、建設会社、司法書士、行政書士などとの人脈を築くことで、仕事を紹介してもらいやすくなります。補助者時代や勤務時代に、こうした人脈を構築しておくことが重要です。

開業資金を準備する
初期投資と、開業後数か月分の生活費を確保しておくことが必要です。測量機器は中古品やリースを利用することで、初期費用を抑えることも可能です。

段階的な開業
いきなり独立するのではなく、副業として始めたり、勤務しながら準備を進めたりする方法もあります。リスクを抑えながら、徐々に独立の基盤を築くことができます。

独立開業には確かに困難がありますが、独占業務による安定した需要、定年がない働き方、収入の上限がないこと、自分のペースで働けることなど、多くのメリットもあります。適切な準備と努力があれば、土地家屋調査士として成功することは十分に可能です。

まとめ:土地家屋調査士の資格と仕事の全体像

本記事では、土地家屋調査士という資格と職業について、包括的に解説しました。重要なポイントを改めて確認しましょう。

  1. 不動産登記の専門家としての役割:土地家屋調査士は、不動産の物理的な状況を調査・測量し、表示に関する登記を行う唯一の国家資格者です。境界確定や登記申請代理など、他の資格者では代行できない独占業務を担い、不動産取引の安全性を支えています。
  2. 試験制度と取得難易度:土地家屋調査士試験の合格率は9~11%程度で、1,000~1,500時間の学習時間が必要です。測量士・測量士補の資格があれば午前の部が免除され、効率的に合格を目指せます。文系・理系を問わず、年齢制限もないため、誰でも挑戦できる資格です。
  3. 独立開業と将来性:土地家屋調査士は独占業務による安定した需要があり、独立開業しやすい資格です。相続に伴う土地の整理や所有者不明土地問題への対応など、今後増加が見込まれる業務もあります。ドローン測量などの新技術を活用し、ダブルライセンスで専門性を高めることで、さらにキャリアの可能性が広がります。

土地家屋調査士という職業を理解できたら、次は具体的な行動に移しましょう。土地家屋調査士試験の詳細土地家屋調査士の勉強法を参考に、計画的に学習を進めることをおすすめします。

本記事を通じて、土地家屋調査士の定義と役割、具体的な仕事内容、試験制度と取得方法、年収やキャリアパス、将来性について理解いただけたはずです。これらの情報を活用して、土地家屋調査士という専門職への第一歩を踏み出しましょう。

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