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社労士業界の現状と課題【2025年最新版】市場規模と今後の動向

社労士業界の現状について調べているあなたへ。「社労士として開業して本当にやっていけるのか」「競争が激化していると聞くが実態はどうなのか」という不安は、業界の正確なデータと今後の動向を理解することで解決できます。

本記事では、社労士業界の市場規模と登録者数の推移、需要と供給のバランス、業界が抱える深刻な課題について、最新のデータを交えて詳しく解説します。この情報をもとに、社労士としてのキャリア戦略を立てる際の具体的な判断材料としてください。

この記事を読むとわかること
  • 社労士業界の市場規模約1,100億円の実態と登録者数45,000人の内訳
  • 需要と供給のバランスが崩れている具体的な数値とその影響
  • 手続き業務の電子化など業界が直面している5つの深刻な課題
  • 今後需要が高まる専門分野と生き残るための戦略
押さえておきたい3つのポイント
  1. 需給バランスの崩壊:社労士は毎年500〜1,300人増加する一方、小規模企業(主要顧客層)は減少傾向にあり、競争が激化しています。市場規模は約1,100億円で横ばいですが、社労士数の増加により一人当たりの売上は減少傾向です。
  2. 独占業務の縮小とコンサル化:手続き業務の電子化・自動化により、従来の独占業務(1号・2号業務)だけでは収益確保が困難になっています。コンサルティング業務(3号業務)へのシフトが生き残りの鍵となります。
  3. 専門特化が必須の時代:助成金申請、障害年金、働き方改革対応など、特定分野に特化した社労士事務所が成功しています。差別化と付加価値提供ができなければ、価格競争に巻き込まれる厳しい現状があります。
目次

社労士(社会保険労務士)業界の現状:市場規模と基本データ

社労士業界を取り巻く環境を正確に理解するには、まず市場規模や登録者数などの基本データを把握することが不可欠です。ここでは、社労士業界の現状を数値で確認し、業界全体の構造を明らかにします。

社労士業界の市場規模は約1,100億円

社労士業界の市場規模は、約1,100億円と推定されています(中小企業庁の事業所統計および全国社会保険労務士会連合会のデータに基づく推計)。この数字は、社労士事務所が提供する社会保険手続き、給与計算、労務相談、助成金申請などのサービス全体の売上総額です。

市場規模自体は過去10年間でほぼ横ばいで推移しています。企業数の減少により新規顧客の獲得が困難になる一方、働き方改革関連法の施行により労務管理の需要は高まっているため、市場全体としては大きな変動がない状態です。

ただし、社労士の登録者数が年々増加しているため、一人当たりの平均売上は減少傾向にあります。2015年頃と比較すると、社労士一人当たりの売上は約15〜20%減少したと推定されます。社労士としての社労士(社会保険労務士)の年収にも影響を与える重要な要素です。

社労士の登録者数は約45,000人(増加傾向)

2024年3月時点で、全国社会保険労務士会連合会に登録している社労士は約45,000人です(全国社会保険労務士会連合会発表データ)。この数字は10年前の2014年と比較すると約8,000人増加しており、年平均で500〜1,300人のペースで増え続けています。

登録者数の内訳を見ると、開業社労士(独立開業している社労士)が約28,000人、勤務社労士(企業内社労士や社労士事務所の勤務者)が約17,000人となっています。開業社労士の比率が約62%と高く、多くの社労士が独立開業を選択している現状がわかります。

特に注目すべきは、毎年の社労士試験合格者が約2,000〜3,000人いるものの、実際に開業する人は合格者の一部であり、また廃業や引退する社労士も一定数いることです。それでも純増で500〜1,300人増加しているということは、業界全体として新規参入者が多い状況を示しています。

社労士事務所の数と規模の実態

社労士事務所の数は、開業社労士の数とほぼ同数の約28,000事務所が存在します。その規模別の内訳を見ると、業界の構造が明確になります。

社労士事務所の規模別分布

事務所規模割合特徴
個人事務所(所長のみ)約60%最も多い形態。顧問先20社以下が中心
小規模事務所(2〜5人)約30%補助スタッフを雇用。顧問先30〜80社程度
中規模事務所(6〜20人)約8%複数の社労士を雇用。顧問先100社以上
大規模事務所(21人以上)約2%組織化された事務所。顧問先300社以上

この分布から、社労士業界は圧倒的に個人事業主または小規模事業者が中心であることがわかります。約90%の事務所が5人以下の規模で運営されており、大規模な組織化が進んでいない業界特性があります。

個人事務所の場合、年間売上は300万円〜1,500万円程度が一般的です。顧問先企業数が10〜30社程度で、一社あたりの月額顧問料が2万円〜5万円という水準です。この規模では、所長一人で全ての業務を担当するため、顧問先数の増加には限界があります。

社労士業界の年齢構成と高齢化の現状

社労士業界の年齢構成を見ると、高齢化が進んでいることが明らかです。全国社会保険労務士会連合会のデータによると、社労士の平均年齢は約54歳で、50歳以上が全体の約60%を占めています。

社労士の年齢構成(2023年データ)

  • 30歳未満:約3%
  • 30〜39歳:約12%
  • 40〜49歳:約25%
  • 50〜59歳:約30%
  • 60歳以上:約30%

この年齢構成は、社労士試験の合格者平均年齢が約37歳と高いことが影響しています。多くの人が会社員として実務経験を積んだ後、40代以降で社労士資格を取得し、50代で開業するパターンが一般的です。

高齢化の進行は、今後10〜15年で大量の引退者が出る可能性を示唆しています。一方で、毎年新規登録者が増加しているため、世代交代がスムーズに進むかどうかは、顧問先企業の引き継ぎが円滑に行われるかに依存します。顧問先を持たない若手社労士にとっては、引退する先輩社労士から顧問先を譲り受けるチャンスがある反面、競争相手も多い厳しい環境です。

社労士(社会保険労務士)業界の現状:需要と供給バランスの崩壊

社労士業界の最も深刻な問題は、需要と供給のバランスが崩れていることです。社労士の数は増え続ける一方で、主要顧客である中小企業は減少傾向にあり、業界全体で過当競争の状態が生まれています。

供給側:社労士の数は毎年500〜1,300人増加

前述の通り、社労士の登録者数は毎年500〜1,300人のペースで純増しています。社労士試験の合格者数は年間2,000〜3,000人程度で推移しており、そのうち約半数が実際に社労士として登録し、さらにその中の一定数が開業しています。

この増加傾向の背景には、以下の要因があります。第一に、社労士資格の人気が高まっていることです。定年後のセカンドキャリアとして、あるいは独立開業を目指す資格として注目されています。第二に、社労士試験の合格率が6〜7%程度と難関ではありますが、毎年一定数の合格者を輩出し続けていることです。

問題は、これだけの新規参入者を吸収できるだけの市場拡大が起きていない点です。市場規模が横ばいの中で供給だけが増加するため、一人当たりの取り分が減少し、競争が激化しています。既存の開業社労士にとっても、新規開業する社労士にとっても、顧客獲得が年々難しくなっている状況です。

需要側:小規模企業(5-19人)は減少傾向

社労士の主要顧客層である従業員5〜19人の小規模企業は、実は減少傾向にあります。総務省の「経済センサス」によると、この規模の企業数は2012年から2021年の間に約8%減少しました。

従業員規模別に社労士の顧客層を分析すると、以下のような状況です。

企業規模別の社労士利用状況

従業員規模社労士利用率企業数の推移市場への影響
1〜4人約5%横ばい潜在顧客だが獲得困難
5〜19人約40%減少傾向主力顧客層の縮小
20〜49人約70%微減比較的安定
50人以上約90%横ばい既に大手事務所が獲得済

最も問題なのは、社労士利用率が40%と高く、個人事務所や小規模事務所の主力顧客である従業員5〜19人の企業が減少していることです。この層の企業は、月額顧問料2〜4万円程度で社労士と契約することが多く、個人事務所にとって最も重要な収益源でした。

一方、従業員50人以上の企業は社労士利用率が90%と高いものの、これらの企業は既に大手社労士事務所や老舗事務所が長年の取引関係で獲得しています。新規開業した社労士がこの層に食い込むのは非常に困難です。

需給バランスの崩れによる競争激化

需要と供給のバランスが崩れた結果、社労士業界では以下のような競争激化の現象が起きています。

まず、顧問料の低下圧力が強まっています。2010年頃は従業員10人規模の企業で月額3〜5万円が相場でしたが、現在では2〜3万円まで下がっているケースも少なくありません。新規開業する社労士が顧客を獲得するために低価格で提案することで、業界全体の価格水準が下がっています。

次に、既存顧客の奪い合いが発生しています。新規に設立される企業が減少しているため、既に他の社労士と契約している企業に対してアプローチするしかありません。その結果、既存の社労士事務所も顧客維持のためにサービス向上やコミュニケーション強化に努める必要があり、業務負担が増加しています。

さらに、専門特化や付加価値サービスの提供が必須になっています。単純な社会保険手続きだけでは差別化できないため、助成金申請、労務相談の充実、人事制度構築など、より高度なサービスを提供できる社労士が選ばれる傾向が強まっています。

市場の縮小と社労士増加の矛盾

社労士業界が直面している最大の矛盾は、市場は拡大していないのに社労士の数だけが増え続けていることです。この矛盾が生み出す構造的な問題を理解することが重要です。

数字で見ると、2014年から2024年の10年間で社労士は約8,000人増加しました。一方、市場規模は約1,100億円で横ばいです。単純計算すると、社労士一人当たりの市場シェアは約290万円から約240万円へと約17%減少したことになります。

この状況は今後も続く可能性が高いと考えられます。なぜなら、社労士資格の人気は依然として高く、毎年一定数の合格者が生まれ続けるからです。一方で、日本の企業数は人口減少や経済の成熟化に伴い、今後も大幅な増加は期待できません。

ただし、全ての社労士が厳しい状況にあるわけではありません。専門性を持ち、付加価値の高いサービスを提供できる社労士は、むしろ需要が高まっています。問題は、単純な手続き業務だけを提供する「従来型」の社労士事務所が生き残りにくくなっている点です。社労士(社会保険労務士)の開業を検討する際は、この需給バランスの実態を十分に理解した上で、差別化戦略を練ることが不可欠です。

社労士(社会保険労務士)業界の現状が抱える5つの深刻な課題

社労士業界は需給バランスの崩壊だけでなく、構造的な課題を複数抱えています。これらの課題は相互に関連し合い、業界全体の変革を迫っています。

手続き業務の電子化・自動化による業務減少

社労士の伝統的な収益源である社会保険手続き業務は、電子化と自動化の波によって大きな転換期を迎えています。この変化は社労士業界にとって最も深刻な課題の一つです。

2020年4月から大企業に義務化された社会保険手続きの電子申請は、2023年には従業員100人超の企業にも拡大されました。さらに、e-Govなどの電子申請システムの使いやすさが向上したことで、企業が自社で手続きを行うケースが増えています。

加えて、クラウド給与計算ソフトの進化により、給与計算から社会保険手続きまでを一気通貫で処理できるシステムが普及しています。freee人事労務、マネーフォワードクラウド給与、ジョブカンなどのサービスは、月額数千円から利用でき、社会保険の資格取得・喪失届などの書類を自動作成する機能を備えています。

この結果、従来は社労士に月額2〜3万円を支払っていた企業が、クラウドソフトの導入により社労士との契約を解除するケースが増えています。特に従業員10人以下の小規模企業では、コスト削減の観点から自社処理に切り替える動きが顕著です。

社労士にとって手続き業務は「安定的な月額顧問料を得られる基盤業務」でしたが、この基盤が崩れつつあります。手続き業務だけでは生き残れない時代に入っており、より高度な相談業務やコンサルティングへのシフトが急務となっています。

クライアント企業(中小企業)の減少

社労士の主要顧客である中小企業、特に小規模企業の減少は、業界全体の市場縮小に直結する深刻な課題です。

中小企業庁の「中小企業白書」によると、中小企業・小規模事業者の数は減少傾向が続いています。特に従業員5〜19人の企業は、後継者不足や経営者の高齢化により、廃業や事業縮小を選択するケースが増えています。2023年の休廃業・解散件数は約5万5,000件に達し、過去最高水準で推移しています。

この減少傾向は、社労士にとって以下の影響をもたらしています。第一に、新規顧客の獲得源が減少していることです。新たに設立される企業も減っているため、開業したばかりの社労士が顧客を獲得する機会が限られています。

第二に、既存顧客の喪失リスクが高まっていることです。長年顧問契約を結んできた企業が廃業すれば、その顧問料収入は失われます。特に地方の社労士事務所では、地域経済の衰退により顧問先企業が次々と廃業するケースも珍しくありません。

第三に、残存する企業も人員削減や規模縮小により、社労士への支払い余力が低下しています。「できれば顧問料を下げたい」「必要最小限のサービスだけでいい」という要望が増え、付加価値の提供が難しくなっています。

社労士間の価格競争の激化

供給過多の状況下で、社労士間の価格競争が激化しています。この価格競争は業界全体の収益性を低下させる悪循環を生んでいます。

新規開業する社労士の多くが直面するのが、「実績がないため高い顧問料を請求できない」というジレンマです。そこで、既存の社労士事務所よりも安い価格を提示して顧客を獲得しようとします。例えば、従来は月額3万円が相場だった規模の企業に対して、2万円や1万5,000円で提案するケースが増えています。

この低価格戦略は短期的には顧客獲得につながりますが、長期的には業界全体の価格水準を引き下げる要因となります。既存の社労士も顧客を奪われないために値下げを余儀なくされ、結果として社労士全体の収益性が低下します。

さらに問題なのは、一度下げた価格を後から上げることが非常に難しい点です。顧客側は「以前はもっと安かった」という認識を持つため、値上げ交渉は困難を極めます。その結果、薄利多売のビジネスモデルに陥り、多くの顧問先を抱えながらも十分な収益を確保できない社労士が増えています。

価格競争から脱却するには、価格以外の価値、つまり専門性や付加価値サービスで差別化するしかありません。しかし、これには専門知識の習得やサービス開発への投資が必要で、全ての社労士がそれを実現できるわけではありません。

付加価値の提供が難しい現状

社労士が生き残るには付加価値の高いサービスを提供する必要がありますが、実際にそれを実現することは容易ではありません。この課題には複数の障壁が存在します。

まず、専門知識やスキルの習得に時間がかかることです。助成金申請のスペシャリストになる、人事制度構築のコンサルティングができるようになる、といった高度なスキルは、短期間で身につくものではありません。実務経験を積みながら学び続ける必要があり、その間の収益確保も課題となります。

次に、顧客側に付加価値サービスの必要性を理解してもらうことが難しい点があります。多くの中小企業経営者は「社労士は社会保険の手続きをする人」という認識が強く、人事制度構築や労務管理改善といった高度なサービスの価値を理解していないケースがあります。教育や啓発から始める必要があり、これにも時間とコストがかかります。

さらに、付加価値サービスは案件ベースの単発業務となることが多く、安定した月額顧問料収入につながりにくい面があります。助成金申請は成功報酬型が一般的ですが、これは売上の変動を大きくする要因となります。人事制度構築も単発のプロジェクトであり、継続的な収益源とはなりません。

加えて、付加価値サービスを提供するには、手続き業務よりも多くの時間と労力が必要です。個人事務所の場合、既存の手続き業務をこなしながら新たな付加価値サービスを提供する余裕がないというジレンマがあります。

新規顧客獲得の困難さ

社労士業界において、新規顧客の獲得は年々困難になっています。この課題は、開業したばかりの社労士だけでなく、既存の事務所にとっても深刻な問題です。

新規顧客獲得が難しい最大の理由は、社労士を必要とする新設企業自体が減少していることです。日本の開業率は欧米と比較して低く、近年は4〜5%程度で推移しています。さらに、新設企業の多くは最初から社労士と契約せず、ある程度規模が大きくなってから検討するため、新規顧客のパイ自体が限られています。

また、顧客獲得チャネルの確立が難しいことも課題です。従来は税理士からの紹介や知人の紹介が主な顧客獲得ルートでしたが、これらのネットワークを持たない新規開業者には大きな障壁となります。Web集客に取り組む社労士も増えていますが、SEO対策やコンテンツマーケティングには時間と専門知識が必要で、すぐに成果が出るものではありません。

さらに、既存顧客の切り替えを狙うことも容易ではありません。多くの企業は現在契約している社労士との関係に満足していなくても、「変更する手間を考えると現状維持でいい」と考える傾向があります。社労士の変更には、過去の資料の引き継ぎや新しい社労士への説明など、一定の労力が必要だからです。

新規顧客獲得の困難さは、開業後の収益安定化までの期間を長期化させています。開業から黒字化まで2〜3年かかるケースも珍しくなく、その間の生活費や事務所運営費を賄うための資金準備が必要です。この点は社労士(社会保険労務士)の開業を検討する際に十分に考慮すべき要素です。

社労士業界の現状で需要が高まっている3つの分野

厳しい現状にある社労士業界ですが、一方で需要が高まっている分野も存在します。これらの分野に特化することで、競争を避けながら安定した収益を確保している社労士もいます。

助成金申請のコンサルティング業務

助成金申請サポートは、社労士業界で最も需要が高まっている分野の一つです。国や自治体が提供する雇用関係の助成金は種類が多く、要件も複雑なため、専門家のサポートを必要とする企業が多数存在します。

厚生労働省が所管する雇用関係助成金だけでも、キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金、両立支援等助成金など、50種類以上が存在します。これらの助成金は、正社員化、人材育成、働き方改革推進など、企業の人事施策を支援する目的で設けられています。

助成金申請業務の魅力は、成功報酬型のビジネスモデルが成立することです。一般的には受給額の15〜20%を報酬として受け取るため、大型の助成金を獲得できれば一件で数十万円から100万円以上の報酬が得られます。月額顧問料が2〜3万円の顧問先が多い中、助成金申請は効率的に収益を上げられる業務です。

ただし、助成金申請には専門知識と経験が必要です。各助成金の要件を正確に理解し、企業の状況に合った助成金を提案できる能力が求められます。また、申請書類の作成や労働局とのやり取りも煩雑で、慣れないと時間がかかります。

成功している助成金特化型の社労士事務所は、最新の助成金情報を常にキャッチアップし、顧問先企業に積極的に提案しています。さらに、助成金申請を入口として継続的な労務顧問契約につなげるなど、戦略的にビジネスを展開しています。

障害年金専門の社労士業務

障害年金の申請代行は、近年注目を集めている専門分野です。一般的な企業顧問とは異なり、個人からの依頼が中心となる特殊な業務領域です。

障害年金は、病気やケガで障害が残った人が受給できる公的年金ですが、申請手続きが複雑で、医師の診断書の書き方一つで受給の可否が変わることもあります。そのため、専門知識を持つ社労士のサポートを求める人が多く、安定した需要があります。

障害年金業務の特徴は、成功報酬型であることと、リピート性が低い一方で紹介が得られやすいことです。報酬は年金の2ヶ月分程度が相場で、障害基礎年金の場合は15〜20万円程度、障害厚生年金の場合はそれ以上の報酬が得られます。

また、医療機関や福祉施設とのネットワークを構築することで、継続的に案件を獲得できる仕組みを作れます。精神科医院、整形外科、難病患者支援団体などと連携し、障害年金申請のサポートが必要な人を紹介してもらうモデルです。

ただし、障害年金業務は医学的知識や年金制度の深い理解が必要で、習得までに時間がかかります。また、依頼者は経済的に困窮していることも多く、不支給となった場合の対応など、精神的な負担も大きい業務です。それでも、社会貢献性が高く、やりがいを感じられる分野として、専門特化する社労士が増えています。

労務管理・人事戦略のコンサルティング

労務管理や人事戦略のコンサルティングは、従来の手続き業務から脱却し、より付加価値の高いサービスを提供する分野として注目されています。

具体的には、就業規則の見直し、人事評価制度の構築、賃金制度の設計、採用・定着支援、労働時間管理の最適化など、企業の人事・労務全般に関する戦略的アドバイスを提供します。これらのサービスは、単なる手続き代行ではなく、企業の経営課題の解決に直結するコンサルティング業務です。

労務コンサルティングの需要が高まっている背景には、中小企業における人手不足の深刻化があります。採用難の時代において、従業員の定着率向上や働きやすい職場環境の整備は経営の重要課題となっています。経営者はこれらの課題を解決するための専門的なアドバイスを求めています。

報酬面では、プロジェクト型の契約が一般的です。例えば、人事評価制度の構築で50万円〜150万円、就業規則の全面改定で30万円〜80万円といった単価設定が可能です。月額顧問料に加えてこうしたプロジェクト報酬を得ることで、収益性を大きく向上させられます。

ただし、労務コンサルティングには高度な専門性と経験が必要です。企業の経営課題を理解し、実効性のある解決策を提案できる能力が求められます。また、経営者と対等に議論できるコミュニケーション能力も不可欠です。これらのスキルを身につけるには、勤務社労士として複数の企業で実務経験を積むか、開業後も継続的に学習と実践を重ねる必要があります。

働き方改革・法改正対応支援

働き方改革関連法の施行以降、法改正対応支援の需要が継続的に高まっています。この分野は、今後も新たな法改正が予定されているため、安定した需要が見込まれます。

2019年から段階的に施行された働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、同一労働同一賃金などが導入されました。さらに、2024年には建設業・運送業への時間外労働上限規制の適用(いわゆる2024年問題)も実施されています。

これらの法改正に対応するため、多くの企業が社労士のサポートを必要としています。具体的には、労働時間管理システムの見直し、変形労働時間制やフレックスタイム制の導入、36協定の締結方法の変更、就業規則の改定などです。

法改正対応業務の特徴は、期限が明確で緊急性が高いことです。法律の施行日までに対応を完了させなければならないため、企業側も予算を確保しやすく、社労士にとっては受注しやすい案件です。報酬も、対応の緊急性や複雑さに応じて通常より高めに設定できます。

また、法改正対応は継続的に発生するため、一度対応した企業から次の法改正時にも依頼を受けやすいという利点があります。信頼関係を構築できれば、長期的な顧問契約につながる可能性も高まります。

ただし、法改正対応には最新の法律知識が必要不可欠です。法改正の内容を正確に理解し、企業の実態に合わせた対応策を提案できる専門性が求められます。継続的な学習と情報収集が欠かせない分野です。

社労士業界の現状:業務構造の大きな変化【1号・2号から3号へ】

社労士の業務は、法律で定められた3つの業務(1号・2号・3号業務)に分類されますが、この業務構造が大きく変化しています。従来の独占業務中心のモデルから、コンサルティング業務中心のモデルへのシフトが進んでいます。

独占業務(1号・2号)の縮小傾向

社労士法に定められた1号業務(書類作成)と2号業務(提出代行)は、社労士の独占業務です。具体的には、労働社会保険諸法令に基づく申請書類の作成や行政機関への提出代行などが該当します。これらは社労士以外が報酬を得て行うことが禁止されている業務です。

従来、この独占業務が社労士の主要な収益源でした。企業から月額顧問料を受け取り、社会保険の資格取得・喪失手続き、労働保険の年度更新、算定基礎届の提出などを継続的に行うモデルです。この業務は定型的で予測可能であり、安定した収益基盤となっていました。

しかし、前述の通り、電子申請の義務化とクラウドソフトの普及により、この独占業務の価値が相対的に低下しています。企業側が自社で手続きを完結できるようになったことで、社労士に依頼する必然性が薄れつつあります。

実際、社労士白書のデータによると、手続き業務のみを提供する社労士事務所の平均売上は減少傾向にあります。一方で、コンサルティング業務を提供する事務所の売上は増加または横ばいを維持しています。この傾向は、独占業務だけでは生き残れない時代に入ったことを示しています。

ただし、独占業務が完全に不要になるわけではありません。複雑な手続きや専門的な判断が必要な案件では、依然として社労士の専門性が求められます。重要なのは、独占業務を入口として顧客との関係を構築し、より付加価値の高いサービスへと展開していくことです。社労士とは何か、その仕事内容について理解を深めることで、業務の本質的な価値を再認識できます。

コンサル業務(3号)の重要性増大

社労士法3号業務は、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成や、労務管理その他の労働及び社会保険に関する事項についての相談・指導を行う業務です。この3号業務、特にコンサルティング要素の強い相談・指導業務の重要性が急速に高まっています。

3号業務の具体例としては、就業規則の作成・見直しアドバイス、人事制度設計のコンサルティング、労務トラブルへの対応助言、採用・定着支援、働き方改革の推進サポートなどがあります。これらは定型的な手続きではなく、企業ごとの状況に応じたカスタマイズされたサービスです。

コンサル業務の価値は、企業の経営課題の解決に直結することです。人手不足の解消、従業員満足度の向上、生産性の改善など、経営者が本当に困っている問題に対して具体的な解決策を提示できれば、高い報酬を得ることができます。

実際、成功している社労士事務所の多くは、手続き業務は効率化・省力化し、時間の大部分をコンサルティング業務に割いています。月額顧問料も、手続き業務のみの場合は2〜3万円程度ですが、コンサルティングを含む場合は5〜10万円以上に設定できます。

ただし、コンサル業務には高度なスキルが必要です。企業の課題を的確に把握する分析力、実効性のある解決策を提案する企画力、経営者と対等に議論できるコミュニケーション能力などが求められます。これらは一朝一夕に身につくものではなく、継続的な学習と実践経験の積み重ねが必要です。

給与計算業務の自動化の影響

給与計算業務は、多くの社労士事務所にとって安定した収益源の一つでした。しかし、この業務も自動化の波に直面しています。

クラウド給与計算ソフトの進化は目覚ましく、現在では中小企業が自社で給与計算を完結できるレベルに達しています。freee人事労務、マネーフォワードクラウド給与、ジョブカン給与計算などは、従業員の勤怠データから給与計算、明細発行、銀行振込データ作成まで自動化できます。

これらのソフトは、月額従業員一人あたり数百円程度で利用できます。従業員10人の企業であれば月額5,000円〜10,000円程度です。一方、社労士に給与計算を委託すると、月額2万円〜5万円程度かかります。コスト差は明確で、特に小規模企業ではソフト導入による内製化が進んでいます。

この自動化の影響で、単純な給与計算代行業務だけでは収益を確保しにくくなっています。社労士が給与計算業務で価値を提供するには、単なる計算代行を超えた付加価値が必要です。

具体的には、複雑な給与体系への対応、変形労働時間制や裁量労働制などの特殊な勤怠管理、退職金計算、社会保険料の最適化アドバイスなど、専門性が求められる領域に特化することです。また、給与計算を通じて得られる企業の人件費データを分析し、経営改善の提案につなげるといったコンサルティング要素を組み込むことも有効です。

給与計算業務の自動化は止められない流れですが、完全に人間が不要になるわけではありません。法改正への対応、イレギュラーケースの処理、データの解釈とアドバイスなど、人間の専門知識と判断が必要な領域は残ります。社労士はこれらの付加価値領域に注力すべき時代になっています。

新しい収益モデルの必要性

従来の「月額顧問料+手続き業務」という収益モデルは限界を迎えつつあり、新しいビジネスモデルの構築が必要になっています。

成功している社労士事務所が採用している新しい収益モデルには、いくつかのパターンがあります。第一に、「少額顧問料+スポット報酬」モデルです。基本的な手続き業務は低額の顧問料で提供し、助成金申請や人事制度構築などのスポット業務で収益を上げる方法です。

第二に、「専門特化型」モデルです。障害年金、助成金、特定業界(建設業、医療機関など)に特化し、その分野のスペシャリストとして高単価のサービスを提供します。専門性が高いため、価格競争に巻き込まれにくいメリットがあります。

第三に、「規模拡大型」モデルです。社労士や補助スタッフを雇用して組織化し、多数の顧客を効率的に処理することで規模の経済を実現します。一件あたりの単価は低くても、数で稼ぐアプローチです。

第四に、「高付加価値型」モデルです。少数の顧客に対して、人事戦略全般をサポートする高度なコンサルティングを提供し、一社あたり月額10万円以上の高額顧問料を得る方法です。

どのモデルを選択するかは、個々の社労士の強み、経験、志向性によって異なります。重要なのは、従来型の「手続き業務中心」モデルだけでは厳しい時代になっていることを認識し、自分に合った新しいモデルを構築することです。

社労士業界の現状で成功している事務所の特徴と戦略

厳しい現状にある社労士業界ですが、成功している事務所も確実に存在します。これらの事務所に共通する特徴と戦略を分析することで、生き残りのヒントが見えてきます。

専門特化型の社労士事務所

特定の分野に専門特化することで、競争を避けながら高単価のサービスを提供している社労士事務所が成功を収めています。

専門特化のパターンには、業種特化と業務特化があります。業種特化の例としては、医療機関専門、建設業専門、飲食業専門などです。特定業種の労務管理には独特のノウハウが必要で、その業種に精通した社労士には高い価値があります。医療機関であれば、医師・看護師の特殊な勤務形態への対応、診療報酬改定への対応などが求められます。

業務特化の例としては、前述の障害年金専門、助成金専門、就業規則専門、人事評価制度構築専門などです。特定業務のスペシャリストとして認知されれば、その業務が必要な企業や個人から直接依頼を受けられます。

専門特化戦略の最大のメリットは、差別化が容易で価格競争に巻き込まれにくいことです。「〇〇業界の労務管理なら、あの社労士」という評判が立てば、顧客側から選ばれる存在になれます。また、専門分野に関する情報発信(ブログ、セミナー、書籍執筆など)を通じて、効率的に集客できる点も魅力です。

ただし、専門特化にはリスクもあります。その分野の需要が減少した場合、事業全体が影響を受けます。また、専門性を高めるまでには時間と投資が必要で、その間の収益確保も課題となります。それでも、長期的に見れば、専門特化は有効な差別化戦略です。

規模拡大による総合サービス型事務所

社労士や補助スタッフを複数雇用し、組織化することで規模の経済を実現している大型事務所も成功パターンの一つです。

規模拡大型事務所の特徴は、分業体制による効率化です。手続き業務は補助スタッフが担当し、コンサルティング業務は社労士が担当するといった役割分担により、多数の顧客に対応できます。従業員50人以上の中堅企業など、より規模の大きい顧客を獲得できる点もメリットです。

また、複数の社労士がいることで、各人が専門分野を持つことができます。助成金に強い社労士、労務トラブル対応に強い社労士、人事制度構築に強い社労士など、チームとして総合的なサービスを提供できます。顧客にとっては、一つの事務所で全ての労務課題を解決できる利便性があります。

規模拡大型事務所の成功事例では、年商1億円以上、顧問先300社以上といった規模に成長しているケースもあります。ただし、このモデルには人材採用と育成、組織マネジメントのスキルが必要です。社労士として優秀でも、経営者としてのスキルがなければ組織化は難しいでしょう。

また、規模拡大には資金も必要です。事務所の賃料、人件費、システム投資などの固定費が大きくなるため、一定の売上を維持できないと経営が厳しくなります。リスクは高いものの、成功すれば安定した経営基盤を築けるモデルです。

高付加価値サービスを提供する事務所

少数の顧客に対して高付加価値のコンサルティングサービスを提供し、高額報酬を得ている社労士事務所も成功しています。

このモデルの特徴は、「顧問先の数より質」を重視することです。顧問先は10〜30社程度に絞り込み、各社に対して深く関与します。月1回以上の訪問、経営会議への参加、人事戦略の立案サポートなど、単なる手続き代行を超えた包括的なサービスを提供します。

高付加価値型事務所の顧問料は、月額10万円〜30万円程度が一般的です。従業員50〜300人規模の中堅企業が主な顧客層となります。この規模の企業は、専任の人事部門を持たないことが多く、社労士が人事部長代行のような役割を果たします。

高付加価値サービスを提供するには、豊富な実務経験と高度な専門知識が必要です。労働法令の知識だけでなく、経営、人事戦略、組織開発などの幅広い知識が求められます。また、経営者と対等に議論し、信頼関係を構築できるコミュニケーション能力も不可欠です。

このモデルの魅力は、深いやりがいと高収益性の両立です。企業の成長に貢献し、経営者から感謝される仕事は、社労士としての充実感につながります。また、少数の顧客で十分な収益を確保できるため、ワークライフバランスも実現しやすいでしょう。ただし、このレベルのサービスを提供できる社労士は限られており、そこに到達するまでの修練が必要です。

デジタル活用で効率化を実現する事務所

ITツールやクラウドサービスを積極的に活用し、業務効率化と顧客サービス向上を実現している事務所も成功しています。

デジタル活用の具体例としては、クラウド型の労務管理システムの導入があります。顧客企業とデータを共有し、リアルタイムで情報を更新できるシステムを使うことで、従来の紙ベースやメールでのやり取りを大幅に削減できます。手続き業務の時間を短縮し、その分をコンサルティング業務に充てることが可能です。

また、Web会議システムを活用した遠隔対応も増えています。顧客訪問の時間を削減し、より多くの顧客に対応できるようになります。地理的制約も減るため、遠方の顧客も獲得できる利点があります。

さらに、AIチャットボットや自動応答システムを導入し、簡単な質問には自動対応することで、社労士の負担を軽減している事務所もあります。顧客は24時間いつでも質問でき、満足度向上にもつながります。

マーケティング面でも、デジタル活用は重要です。SEO対策されたWebサイト、ブログでの情報発信、YouTubeでの解説動画、SNSでの情報提供など、オンラインでの集客に成功している事務所が増えています。従来の紹介頼みから脱却し、能動的に顧客を獲得できる仕組みを構築しています。

デジタル活用は、特に若手社労士にとって有効な戦略です。ITリテラシーが高く、新しいツールへの適応が早い世代は、この分野で優位性を発揮できます。業界全体の高齢化が進む中、デジタルスキルを武器にすることで差別化が可能です。

社労士業界の現状から見る今後の展望【2025年以降】

社労士業界の現状分析を踏まえ、今後の展望を考察します。業界はさらなる変革期を迎えており、適応できる社労士とそうでない社労士の二極化が進むでしょう。

AI・DXによる業務変革の加速

AI(人工知能)とDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展は、社労士業界の業務を根本から変える可能性があります。この変革は今後5〜10年で急速に進むと予想されます。

AIの活用例としては、労務相談への自動回答、就業規則の自動生成、労働時間データの分析と改善提案などが考えられます。既に一部のサービスでは、労働法令に関する質問にAIが回答する機能が実装されています。今後、AIの精度が向上すれば、簡単な労務相談は人間の社労士を介さずに解決できるようになるかもしれません。

ただし、AIに完全に置き換えられることは当面ないでしょう。複雑な労務トラブルへの対応、企業ごとの事情に合わせたカスタマイズされた提案、経営者との信頼関係構築など、人間の判断力と感情的知性が必要な領域は残ります。

重要なのは、社労士自身がAIやDXツールを使いこなす側に回ることです。AIを活用して定型業務を効率化し、その時間を高度なコンサルティング業務に振り向けられる社労士が生き残るでしょう。逆に、デジタル化に適応できない社労士は、競争力を失っていく可能性があります。

今後の社労士には、従来の法律知識に加えて、ITリテラシーやデータ分析能力も求められる時代になります。継続的な学習と新しい技術への適応力が、社労士(社会保険労務士)の将来性を左右する重要な要素となるでしょう。

コンサル型社労士への完全移行

今後、社労士業務は「手続き型」から「コンサル型」への移行が完全に完了すると予想されます。手続き業務だけで生計を立てることは、ほぼ不可能になるでしょう。

コンサル型社労士に求められるのは、企業の経営課題を理解し、人事・労務の側面から解決策を提案できる能力です。これは、法律知識だけでなく、経営、マーケティング、心理学、組織論など、幅広い知識を統合した総合的なコンサルティング能力を意味します。

具体的には、人手不足の解決策としての採用戦略立案、従業員エンゲージメント向上のための施策提案、生産性向上のための業務改善支援など、企業の業績向上に直結するサービスを提供することです。これらは、単なる法令遵守のアドバイスを超えた、戦略的な人事労務マネジメントの領域です。

コンサル型への移行は、社労士の役割を「バックオフィスの専門家」から「経営のパートナー」へと変化させます。経営者と同じ目線で企業の将来を考え、人材という経営資源を最大限に活用する方法を共に探る存在になることが求められます。

この変化は、社労士という職業の価値を高める機会でもあります。手続き代行という付加価値の低い業務から、経営に不可欠なコンサルティングという高付加価値業務へのシフトは、社労士の社会的地位と報酬の向上につながる可能性があります。

業界再編と淘汰の可能性

今後5〜10年の間に、社労士業界では大規模な再編と淘汰が起こる可能性があります。現在の45,000人という社労士数が、市場規模に対して過剰であることは明らかだからです。

淘汰の対象となりやすいのは、差別化できていない「従来型」の社労士事務所です。手続き業務のみを提供し、付加価値サービスを提供できない事務所は、顧客を失い、廃業を選択するケースが増えるでしょう。特に、後継者のいない高齢の社労士が多いため、引退に伴う自然減も相当数発生すると予想されます。

一方で、専門性や独自性を持つ事務所は生き残り、場合によっては成長します。M&A(事業承継)による事務所の統合も増える可能性があります。後継者のいない社労士が、若手社労士や大型事務所に顧客を譲渡するケースです。

また、異業種からの参入も注目されます。税理士法人やコンサルティング会社が、社労士法人を設立または買収し、総合的な経営支援サービスを提供する動きが加速するかもしれません。これにより、個人事務所や小規模事務所はさらに厳しい競争環境に置かれます。

業界再編は、社労士にとって脅威であると同時に機会でもあります。廃業する社労士から顧客を引き継げれば、短期間で事業規模を拡大できます。また、M&Aによる事業承継の仲介ビジネスなど、新しいビジネスチャンスも生まれるでしょう。変化の時代には、柔軟に対応できる者が成功を収めます。

新たな専門分野の開拓の必要性

既存の業務領域だけでなく、新たな専門分野を開拓することも、社労士業界の今後を左右する重要な要素です。

有望な新分野としては、まずグローバル人材の労務管理が挙げられます。外国人労働者の受け入れが拡大する中、在留資格、社会保険の適用、労働契約書の多言語化など、国際労務の専門家への需要が高まっています。

次に、リモートワーク・テレワークの労務管理です。コロナ禍を経て定着したリモートワークには、労働時間管理、通信費の負担、メンタルヘルス対策など、特有の労務課題があります。これらに対する専門的なアドバイスが求められています。

また、フリーランス・ギグワーカーの労務管理も新しい分野です。2024年には「フリーランス保護法」が施行され、企業がフリーランスと契約する際のルールが明確化されました。フリーランスと企業の適切な契約関係構築をサポートする社労士の需要が見込まれます。

さらに、ウェルビーイング経営や健康経営の支援も注目分野です。従業員の心身の健康を経営戦略の中核に据える企業が増えており、産業医との連携、メンタルヘルス対策、健康経営優良法人認定の取得支援などのニーズがあります。

これらの新分野は、まだ専門家が少ないため、先行者利益を得られる可能性があります。変化する労働環境に対応し、新しい専門性を構築できる社労士が、今後の業界を牽引していくでしょう。

社労士業界の現状に関連するよくある質問(FAQ)

社労士業界の現状について、多くの方が抱く疑問に回答します。

Q. 社労士業界の現状は厳しいですか?今から開業するのは無謀ですか?

社労士業界の現状は確かに厳しい面がありますが、全ての社労士にとって厳しいわけではありません。差別化できていない従来型の手続き業務中心の事務所にとっては非常に厳しい環境ですが、専門特化や高付加価値サービスを提供できる社労士には依然として需要があります。

今から開業することが無謀かどうかは、あなたの戦略次第です。「とりあえず開業して手続き業務で食べていこう」という考えなら、成功は難しいでしょう。しかし、特定分野の専門性を持つ、実務経験が豊富で顧客ネットワークがある、デジタルマーケティングで集客できるスキルがある、といった強みがあれば、開業して成功する可能性は十分にあります。

重要なのは、開業前に明確な差別化戦略を立てることです。誰に(ターゲット顧客)、何を(提供サービス)、どのように(提供方法・集客方法)提供するのかを具体的に計画しましょう。また、開業後1〜2年は収益が安定しないことを前提に、生活費を含めた資金計画も必要です。

Q. 社労士業界の現状で生き残るにはどうすればいいですか?

社労士業界で生き残るためには、以下の3つの戦略が有効です。

第一に、専門特化による差別化です。特定の業種(医療機関、建設業、飲食業など)または特定の業務(助成金、障害年金、人事制度構築など)に専門特化することで、その分野のスペシャリストとして認知されます。専門性が高ければ、価格競争に巻き込まれず、高単価のサービスを提供できます。

第二に、コンサルティング能力の向上です。単なる手続き代行ではなく、企業の経営課題を解決するパートナーとしての価値を提供することが必要です。労働法令の知識だけでなく、経営、人事戦略、組織開発などの幅広い知識を身につけ、経営者と対等に議論できるレベルを目指しましょう。

第三に、デジタル活用による効率化と集客です。クラウドツールやAIを活用して定型業務を効率化し、その時間を付加価値の高い業務に振り向けます。また、WebサイトやSNSを活用したデジタルマーケティングで、能動的に顧客を獲得できる仕組みを作ることも重要です。

これらの戦略を実行するには、継続的な学習と自己投資が欠かせません。業界の変化に適応し続ける姿勢が、生き残りの鍵となります。

Q. 社労士業界の現状では平均年収は下がっていますか?

社労士全体の平均年収については、公式な統計データが限られているため正確な推移は不明ですが、個人事業主である開業社労士の収入は二極化が進んでいると考えられます。

成功している社労士、特に専門特化型や高付加価値サービス提供型の社労士は、年収1,000万円以上を維持または向上させています。一方、差別化できていない従来型の社労士は、顧問先の減少や顧問料の低下により、年収が減少傾向にある可能性が高いです。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、勤務社労士(企業や事務所に雇用されている社労士)の平均年収は約550万円〜650万円程度とされています(他の事務職との比較から推計)。これは大きな変動はないと思われます。

開業社労士の場合、年収300万円未満から3,000万円以上まで、非常に幅広い分布となっています。平均を取ること自体があまり意味を持たないほど、個々の社労士の能力や戦略による差が大きいのが実態です。

今後、業界全体の競争激化により、差別化できない社労士の年収は下がる傾向が続くでしょう。一方、専門性を持ち、付加価値の高いサービスを提供できる社労士の年収は維持または向上する可能性があります。社労士としての年収を維持・向上させたい方は、社労士(社会保険労務士)の年収の実態と収入を上げる方法について、さらに詳しく確認することをおすすめします。

Q. 社労士業界の競争は今後さらに激化しますか?

社労士業界の競争は、今後5〜10年は激化が続くと予想されます。ただし、その後は業界再編や淘汰により、競争は落ち着く可能性もあります。

競争激化が続く理由は、供給(社労士の数)が需要(市場規模)を上回る状態が継続するからです。毎年500〜1,300人の社労士が純増する一方、主要顧客である中小企業は減少傾向にあります。この構造的な不均衡は、短期間では解消されません。

また、手続き業務の電子化・自動化により、従来の収益源が縮小し続けることも、競争を激化させる要因です。限られたパイを多くの社労士で奪い合う状況が続くでしょう。

ただし、10〜15年後には状況が変わる可能性があります。現在50歳以上が約60%を占める社労士の年齢構成を考えると、今後大量の引退者が出ます。後継者のいない事務所の廃業、差別化できない事務所の淘汰により、社労士の数は減少に転じるかもしれません。

また、AI・DXの進展により、業務内容自体が大きく変わる可能性もあります。単純な手続き業務は完全に自動化され、社労士の役割は高度なコンサルティングに特化するかもしれません。その段階では、真のプロフェッショナルだけが残る業界になり、競争の質が変わるでしょう。

いずれにしても、今後5〜10年は厳しい競争環境が続くことを前提に、戦略を立てる必要があります。

Q. 社労士業界の現状でこれから伸びる専門分野はどこですか?

社労士業界で今後需要が伸びると予想される専門分野は、以下の5つです。

第一に、外国人雇用・グローバル人材管理です。日本の労働力不足を背景に、外国人労働者の受け入れは今後も拡大します。在留資格の管理、外国人向けの労働契約書作成、多文化共生の職場づくりなど、国際労務の専門家への需要が高まるでしょう。

第二に、リモートワーク・ハイブリッドワークの労務管理です。働き方の多様化に伴い、労働時間管理、人事評価制度、コミュニケーション設計など、新しい働き方に対応した労務管理のノウハウが求められています。

第三に、メンタルヘルス・ウェルビーイング経営支援です。従業員の心の健康が企業の生産性に直結することが認識され、メンタルヘルス対策や健康経営の推進支援に対する需要が増加しています。産業医やカウンセラーと連携したサービス提供が有望です。

第四に、フリーランス・ギグワーカー関連です。働き方の多様化により、企業とフリーランスの適切な契約関係構築、業務委託と雇用の区別、フリーランス向けの福利厚生設計などのニーズが生まれています。

第五に、DX推進・HR Tech活用支援です。企業がデジタル化を進める中で、人事労務分野のシステム導入支援、データ活用、業務プロセス改革などをサポートできる社労士の価値が高まっています。

これらの分野は、まだ専門家が少なく、先行者利益を得られる可能性があります。自分の興味や強みに合った分野を選び、専門性を構築することが、今後の成功の鍵となるでしょう。

まとめ:社労士業界の現状を踏まえた戦略的アプローチ

本記事では、社労士業界の現状について、市場規模、需給バランス、直面する課題、今後の展望まで詳しく解説しました。重要なポイントを改めて確認しましょう。

厳しい現状を正確に理解することが第一歩

社労士業界は、市場規模約1,100億円で横ばいの中、社労士数は年間500〜1,300人増加し、需給バランスが崩壊しています。主要顧客である小規模企業は減少傾向にあり、手続き業務の電子化・自動化により従来の収益源も縮小しています。この厳しい現状を正確に理解することが、適切な戦略を立てる第一歩です。楽観的な見通しに基づいて開業や事業計画を立てると、後で痛い目に遭う可能性があります。

差別化と専門性が生き残りの鍵

現状の厳しさは、差別化できていない従来型の社労士にとっての厳しさです。専門特化、高付加価値サービスの提供、デジタル活用など、明確な差別化戦略を持つ社労士には、依然として需要があります。「手続き業務で食べていく」という発想は捨て、「どのような付加価値を提供できるか」を追求することが生き残りの鍵です。特定分野の専門性を高め、その分野のスペシャリストとして認知されることを目指しましょう。

業界の変化に柔軟に対応できる体制づくり

AI・DXの進展、法改正、働き方の多様化など、社労士を取り巻く環境は急速に変化しています。この変化に柔軟に対応できる体制を作ることが重要です。継続的な学習、新しい技術やツールの積極的な導入、顧客ニーズの変化への素早い対応など、変化を恐れずに適応していく姿勢が求められます。固定観念に縛られず、常に「これからの社労士はどうあるべきか」を考え続けることが、長期的な成功につながります。

社労士業界の現状を理解できたら、次は自分自身のキャリア戦略を具体的に考えましょう。開業を検討している方は社労士(社会保険労務士)の開業の具体的な準備と戦略を、将来性について詳しく知りたい方は社労士(社会保険労務士)の将来性を参考に、計画的に進めることをおすすめします。

本記事を通じて、社労士業界の現状と今後の方向性を理解いただけたはずです。厳しい現状は事実ですが、それは適応できない者にとっての厳しさです。正確な情報に基づいて戦略を立て、専門性と付加価値を追求すれば、社労士として成功する道は確実に存在します。業界の変化をチャンスと捉え、新しい時代の社労士像を実現していきましょう。

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