行政書士の資格取得を目指している方、または行政書士として開業を検討している方にとって、最も気になるのが「実際の年収」ではないでしょうか。インターネット上では「行政書士は稼げない」「年収1000万円も可能」など、さまざまな情報が飛び交っており、何が本当なのか分からず不安に感じている方も多いはずです。
実は、行政書士の年収には大きな個人差があり、平均年収だけを見ても実態は見えてきません。勤務行政書士と独立開業した行政書士では収入構造が全く異なりますし、専門分野や顧客層によっても年収は大きく変動します。本記事では、公的データや業界調査をもとに、行政書士の年収の現実を徹底的に解説していきます。
- 行政書士の平均年収と中央値から見る年収の実態
- 勤務・開業・副業など働き方別の年収データ
- 業務別の報酬単価と年収への影響
- 年齢・経験年数による年収推移の実態
- 他士業(司法書士・税理士・社労士)との年収比較
- 年収1000万円を実現するための具体的な戦略
1. 平均年収と中央値の大きな差に注目
行政書士の平均年収は551万円とされていますが、中央値は400〜450万円程度です。この差は、一部の高年収者が平均を押し上げているためで、実際には半数以上の行政書士が年収500万円未満という現実があります。つまり、平均年収だけを見て判断すると、実態とは異なる期待を持ってしまう可能性があるのです。
2. 働き方による年収格差が極めて大きい
勤務行政書士の年収は200〜600万円程度で比較的安定していますが、独立開業した行政書士は年収100万円未満から3000万円超まで、実に30倍以上の開きがあります。この格差は、専門分野の選択、営業力、事務所の経営戦略などによって生まれます。
3. 高年収実現には明確な戦略が必要
年収1000万円以上を稼ぐ行政書士は全体の約10%程度ですが、彼らには共通した戦略があります。高単価業務への特化、顧問契約の獲得、ダブルライセンスの活用など、計画的なキャリア設計が高年収への道を開きます。本記事では、その具体的な方法を詳しく解説します。
本記事では、行政書士の年収について表面的な数字だけでなく、その背景にある構造や、年収を上げるための実践的な方法まで網羅的に解説していきます。これから行政書士を目指す方も、すでに開業している方も、年収アップのヒントが見つかるはずです。
行政書士の平均年収と年収の現実【中央値で見る実態】
行政書士の年収を正しく理解するには、平均年収だけでなく中央値や年商分布も含めて多角的に見る必要があります。ここでは、公的データや業界調査をもとに、行政書士の年収の実態を詳しく解説します。
行政書士の平均年収は551-600万円【公的データから算出】
日本行政書士会連合会の調査によると、行政書士の平均年収は551万円とされています。また、厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、行政書士を含む「その他の法務従事者」の平均年収は約591万円と報告されています。
この数字だけを見ると、日本の平均年収(約443万円)を大きく上回っており、「行政書士は十分稼げる資格」と思えるかもしれません。しかし、この平均年収には大きな落とし穴があります。それは、一部の高年収者が平均を大きく押し上げているという点です。
実際の年収分布を見ると、年収300万円未満の行政書士も相当数存在する一方で、年収1000万円を超える行政書士も約10%程度います。さらに、年収3000万円を超える行政書士も少数ながら存在します。このような極端な二極化が、平均年収を実態よりも高く見せているのです。
行政書士の年収の中央値は400-450万円【より現実に近い数字】
平均年収よりも実態を反映するのが「中央値」です。中央値とは、データを小さい順に並べたときに真ん中にくる値のことで、極端な数値に影響されにくい統計指標です。
行政書士の年収中央値は、複数の調査から推計すると400〜450万円程度とされています。つまり、行政書士全体の半数は年収450万円以下、半数は450万円以上ということになります。この数字は、平均年収の551万円よりも100万円以上低く、これが行政書士の年収の現実をより正確に表しています。
中央値で見た場合、行政書士の年収は決して高いとは言えません。サラリーマンの平均年収と比較しても、大きな差はないのが実情です。ただし、これはあくまで全体の中央値であり、経験年数、専門分野、働き方によって大きく変動することを理解しておく必要があります。
行政書士の年商分布から見る年収の実態【500万円未満が約8割】
日本行政書士会連合会の調査によると、行政書士の年商(売上)分布は以下のようになっています。
年商 | 割合 |
---|---|
500万円未満 | 約78% |
500万円〜1000万円 | 約13% |
1000万円〜3000万円 | 約7% |
3000万円以上 | 約2% |
年商は売上であり、そこから経費を引いたものが所得(年収)になりますので、実際の年収はさらに低くなります。一般的に、行政書士の経費率は30〜40%程度とされていますので、年商500万円未満の場合、年収は300〜350万円程度になる計算です。
この数字からわかるのは、行政書士の約8割が年商500万円未満、つまり年収300〜350万円程度で活動しているという現実です。一方で、年商1000万円以上を稼ぐ行政書士は全体の約9%にとどまり、年商3000万円以上となると、わずか2%程度しかいません。
行政書士の年収に大きな差がある理由【二極化の背景】
なぜ、行政書士の年収にはこれほど大きな差があるのでしょうか。主な理由は以下の4つです。
1. 専門分野による報酬単価の違い
行政書士の業務は多岐にわたりますが、分野によって報酬単価は大きく異なります。たとえば、風俗営業許可や薬局開設許可などは1件50〜100万円の報酬を得られることもありますが、一般的な書類作成業務では1件数万円程度にとどまります。高単価業務に特化できるかどうかが、年収を大きく左右します。
2. 営業力・集客力の差
独立開業した行政書士の場合、自ら顧客を獲得しなければなりません。営業力や集客力の有無が、受注件数に直結し、年収に大きく影響します。集客に成功している行政書士と、集客に苦戦している行政書士では、年収に10倍以上の差が生まれることもあります。
3. 顧問契約の有無
顧問契約を複数獲得できている行政書士は、毎月安定した収入が得られるため、年収も高くなる傾向があります。一方、単発業務のみで活動している行政書士は、収入が不安定になりがちです。
4. ダブルライセンスの活用
司法書士、社会保険労務士、宅地建物取引士などの資格を併せ持つ行政書士は、業務範囲が広がり、顧客単価も上がるため、高年収を実現しやすくなります。
行政書士の年収の実態については、行政書士の年収データでさらに詳しく解説しています。また、行政書士資格そのものの価値については、行政書士資格の価値も参考にしてください。
行政書士の働き方別年収【勤務・開業・副業】
行政書士の年収は、働き方によって大きく異なります。ここでは、勤務行政書士、独立開業した行政書士、副業行政書士の3つのパターンに分けて、それぞれの年収実態を詳しく見ていきましょう。
勤務行政書士(使用人行政書士)の年収は200-600万円
勤務行政書士とは、他の行政書士事務所や企業に雇用されて働く行政書士のことで、「使用人行政書士」とも呼ばれます。勤務行政書士の年収は、雇用形態や勤務先の規模、経験年数によって変動しますが、一般的には200〜600万円程度です。
初任給・1年目の年収
行政書士資格を取得したばかりの新人の場合、初任給は月収18〜25万円程度、年収にすると220〜300万円程度が相場です。これは一般的な新卒社員の給与とほぼ同水準と言えます。
3〜5年目の年収
実務経験を積んだ3〜5年目の行政書士の場合、月収25〜35万円、年収300〜420万円程度が相場です。専門性を高め、主要業務を任されるようになると、この範囲の上限に達することができます。
ベテラン(10年以上)の年収
10年以上の経験を持つベテラン勤務行政書士の場合、月収35〜50万円、年収420〜600万円程度まで到達することがあります。ただし、これは大手事務所や企業の法務部門などに勤務している場合の上限値で、小規模事務所ではこの水準に達しないケースも多いです。
勤務行政書士のメリットは、収入が安定していることと、経営リスクを負わなくて済むことです。一方で、年収の上限は比較的低く、大幅な収入増を望むのは難しいという側面もあります。
独立開業した行政書士の年収は100万円-3,000万円超【個人差大】
独立開業した行政書士の年収は、最も個人差が大きく、年収100万円未満から3000万円を超えるケースまで幅広く分布しています。
開業1〜3年目の年収
開業直後の1〜3年目は、顧客基盤がまだ確立されていないため、年収100〜300万円程度の行政書士が多数を占めます。この時期は、営業活動に多くの時間を割く必要があり、収入よりも顧客獲得を優先する期間と言えます。実際、開業3年以内に廃業する行政書士も少なくありません。
5〜10年目の年収
開業5〜10年目になると、顧客基盤が安定し始め、年収400〜800万円程度に達する行政書士が増えてきます。専門分野を確立し、リピーターや紹介顧客が増えることで、安定した収入を得られるようになります。
10年以上のベテラン開業行政書士の年収
開業10年以上のベテランになると、年収は大きく二極化します。成功している行政書士は年収1000〜3000万円以上を稼ぐ一方で、苦戦している行政書士は年収300〜500万円程度にとどまることもあります。この差は、専門性、営業力、事務所経営能力の違いによって生まれます。
独立開業した行政書士の年収が大きく変動する要因は、受注件数、報酬単価、経費率の3つです。高単価業務を多数受注し、経費を抑えられれば高年収が実現しますが、低単価業務中心で経費がかさむと、年収は低くなります。
副業行政書士の年収は50-300万円程度
近年増えているのが、本業を持ちながら行政書士として副業で活動するスタイルです。副業行政書士の年収は、本業との兼ね合いや投入時間によって変動しますが、一般的には50〜300万円程度です。
週末・夜間のみの活動(年収50〜100万円)
本業が忙しく、週末や夜間のみ行政書士業務を行う場合、年収は50〜100万円程度になります。月に2〜3件程度の案件をこなすペースです。この場合、本業の収入と合わせて総収入を増やすことができます。
本業との両立で積極的に活動(年収100〜300万円)
本業の理解を得て、ある程度時間を確保できる場合、年収100〜300万円程度を目指すことができます。月に5〜10件程度の案件をこなし、徐々に顧客基盤を築いていくスタイルです。
副業行政書士のメリットは、本業の収入があるため、リスクなく行政書士業務に取り組めることです。また、副業で実績を積んでから独立開業するというステップも可能です。一方で、時間的制約があるため、大きな収入を得るのは難しいという側面もあります。
行政書士として開業を検討している方は、行政書士開業ガイドで準備から集客まで詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
行政書士の初任給・1年目の給料は月収20万円・年収250万円が目安
行政書士資格を取得して初めて就職する場合、または開業1年目の場合の給料について、より詳しく見ていきましょう。
勤務行政書士の初任給
行政書士事務所に就職した場合の初任給は、月収18〜25万円程度、年収にすると220〜300万円程度が一般的です。地域差も大きく、東京などの大都市圏では月収25万円前後、地方では月収18〜22万円程度となることが多いです。
開業1年目の収入
独立開業した1年目の場合、収入はさらに不安定です。開業初月から数ヶ月は収入ゼロという行政書士も珍しくありません。年間を通して平均すると、月収5〜20万円、年収60〜240万円程度が現実的な数字です。開業1年目は「生活費を稼ぐ」というよりも、「顧客基盤を作る投資期間」と考えるべきでしょう。
初年度の年収を上げるポイント
初年度から年収を上げるには、以下のポイントが重要です。
- 特定分野に絞った営業活動
- 他士業とのネットワーク構築による紹介案件の獲得
- インターネット集客の早期確立
- 高単価業務への挑戦
行政書士1年目の現実と対策については、実務経験を積むことも含めて総合的に考える必要があります。
行政書士の業務別報酬単価と年収への影響
行政書士の年収を大きく左右するのが、どの業務分野を専門とするかです。業務によって報酬単価は大きく異なり、高単価業務に特化できれば年収アップが期待できます。ここでは、業務別の報酬相場と年収への影響を詳しく解説します。
行政書士の高単価業務トップ5【風俗営業許可・薬局開設許可など】
行政書士の業務の中で、特に報酬単価が高い業務トップ5を紹介します。
順位 | 業務内容 | 報酬相場 | 特徴 |
---|---|---|---|
1位 | 風俗営業許可申請 | 50万円〜150万円 | 高度な専門知識と複雑な手続きが必要 |
2位 | 薬局開設許可申請 | 40万円〜100万円 | 医療系の専門知識が必要で競合が少ない |
3位 | 産業廃棄物処理業許可 | 30万円〜80万円 | 更新業務も含めて継続的な収入源になる |
4位 | 建設業許可申請(新規) | 15万円〜40万円 | 需要が多く安定した収入源 |
5位 | 運送業許可申請 | 20万円〜50万円 | 専門性が高く参入障壁がある |
これらの高単価業務に特化することで、年収を大きく引き上げることが可能です。たとえば、風俗営業許可を年間10件受注できれば、それだけで500〜1500万円の売上になります。
高単価業務の共通点は、以下の3つです。
- 専門知識が必要:一般的な行政書士では対応が難しい
- 手続きが複雑:時間と労力がかかる分、報酬も高い
- 競合が少ない:参入障壁が高く、価格競争になりにくい
行政書士の許認可申請業務の報酬相場
許認可申請業務は、行政書士の中核的な業務です。許認可の種類によって報酬相場は大きく異なります。
建設業関連
- 建設業許可申請(新規):15〜40万円
- 建設業許可更新:5〜15万円
- 経営事項審査:10〜30万円
飲食・風俗営業関連
- 飲食店営業許可:5〜15万円
- 深夜酒類提供飲食店営業届出:8〜20万円
- 風俗営業許可(1号〜3号):50〜150万円
運輸関連
- 一般貨物自動車運送事業許可:20〜50万円
- 貨物軽自動車運送事業届出:3〜8万円
- タクシー・バス事業許可:30〜80万円
産業廃棄物関連
- 産業廃棄物処理業許可(新規):30〜80万円
- 産業廃棄物処理業許可(更新):10〜30万円
許認可申請業務は、専門性を深めることで報酬単価を上げやすい分野です。また、許可取得後の更新業務やコンサルティング業務にもつながり、継続的な収入源となります。
行政書士の書類作成業務の報酬相場
書類作成業務は、行政書士の基本的な業務ですが、報酬単価は比較的低めです。
契約書・合意書作成
- 一般的な契約書作成:3〜10万円
- 定型的な契約書作成:1〜5万円
- 業務提携契約書など複雑なもの:10〜30万円
相続関連書類
- 遺産分割協議書:5〜15万円
- 相続関係説明図:3〜8万円
- 遺言書作成支援:5〜20万円
内容証明作成
- 一般的な内容証明:1〜3万円
- 複雑な内容証明:3〜8万円
定款作成・変更
- 株式会社定款作成:5〜10万円
- 定款変更:3〜8万円
書類作成業務は、単価が低い分、件数をこなす必要があります。しかし、定型化できる業務も多いため、効率化によって時間単価を上げることが可能です。
行政書士の相談業務・コンサルティング業務の報酬
近年、相談業務やコンサルティング業務で収入を得る行政書士も増えています。
時間制相談料
- 初回相談(30分〜1時間):無料〜5,000円
- 通常相談(1時間):5,000〜20,000円
- 専門的な相談(1時間):10,000〜30,000円
顧問契約
- 個人事業主向け顧問:月額10,000〜30,000円
- 中小企業向け顧問:月額30,000〜100,000円
- 大企業向け顧問:月額100,000円以上
コンサルティング業務
- 起業支援パッケージ:10〜50万円
- 許認可取得コンサルティング:20〜100万円
- 事業承継コンサルティング:50〜300万円
顧問契約を複数獲得できれば、毎月安定した収入が得られ、年収の基盤を固めることができます。たとえば、月額3万円の顧問契約を10社獲得できれば、それだけで年間360万円の安定収入になります。
高単価業務については専門性が必要ですので、行政書士の勉強法で実務に役立つ知識の習得方法を確認しておくことをおすすめします。
行政書士の年齢別・経験年数別の年収推移
行政書士の年収は、年齢や経験年数によっても変動します。ここでは、キャリアステージごとの年収推移を詳しく見ていきましょう。
行政書士1年目-3年目の年収【開業直後は100-200万円も】
勤務行政書士の場合
勤務行政書士として働く1〜3年目の年収は、220〜350万円程度です。1年目は月給18〜23万円、年収220〜280万円程度からスタートし、3年目には月給23〜28万円、年収280〜350万円程度まで上昇するのが一般的です。
この時期は、実務経験を積みながら、行政書士業務の基礎を固める期間です。許認可申請の手続きの流れや、書類作成のスキル、顧客対応の方法などを学び、独立開業の準備をする行政書士も多くいます。
独立開業の場合
独立開業した1〜3年目の年収は、個人差が非常に大きいですが、100〜300万円程度が現実的な数字です。特に開業1年目は、顧客ゼロからのスタートとなるため、年収100万円未満という行政書士も少なくありません。
この時期の課題は、いかに早く顧客基盤を確立するかです。ホームページ作成、SNS活用、異業種交流会への参加、他士業とのネットワーク構築など、積極的な営業活動が必要です。また、専門分野を早期に決定し、その分野での実績を積むことも重要です。
行政書士5年目-10年目の年収【軌道に乗り始める時期】
勤務行政書士の場合
5〜10年目の勤務行政書士の年収は、350〜500万円程度です。月給28〜40万円程度で、主任クラスとして複雑な案件を担当するようになります。この段階で、独立開業を検討する行政書士も増えてきます。
独立開業の場合
開業5〜10年目になると、年収は400〜1000万円程度と幅が広がります。この時期は、事務所経営が軌道に乗り始め、安定した収入を得られるようになる行政書士と、苦戦が続く行政書士に分かれます。
年収400〜600万円のケース
一定の顧客基盤は確立したものの、大きな成長には至っていない状態です。月に5〜10件程度の案件をこなし、安定した収入を得ていますが、事務所の拡大には至っていません。
年収700〜1000万円のケース
専門分野が確立し、リピーターや紹介顧客が増加している状態です。月に10〜20件程度の案件をこなし、従業員を雇用する行政書士も出てきます。高単価業務を中心に受注できるようになり、年収が大きく伸びます。
行政書士10年目以降の年収【ベテランの収入実態】
開業10年以上のベテラン行政書士の年収は、完全に二極化します。
低年収グループ(年収300〜500万円)
顧客獲得に苦戦し続け、低単価業務を中心に細々と営業している状態です。新規顧客の獲得が難しく、既存顧客のリピートのみで収入を得ているケースが多いです。このグループは、全体の30〜40%程度を占めます。
中年収グループ(年収600〜1000万円)
安定した顧客基盤を持ち、専門分野で一定の評価を得ている状態です。リピーターや紹介顧客が中心で、営業活動にかける時間は少なくなっています。このグループは、全体の40〜50%程度を占めます。
高年収グループ(年収1000万円以上)
専門分野での第一人者として認知され、高単価業務を中心に受注している状態です。顧問契約も複数獲得し、安定した収入基盤があります。従業員を雇用し、事務所を拡大している行政書士も多くいます。このグループは、全体の10〜20%程度です。
行政書士の年齢別平均年収と日本全体との比較
年齢別の行政書士の平均年収を、日本全体の平均年収と比較してみましょう。
年齢層 | 行政書士の平均年収 | 日本全体の平均年収 | 差額 |
---|---|---|---|
20代 | 280万円 | 350万円 | -70万円 |
30代 | 450万円 | 440万円 | +10万円 |
40代 | 600万円 | 510万円 | +90万円 |
50代 | 700万円 | 600万円 | +100万円 |
60代以上 | 550万円 | 460万円 | +90万円 |
このデータから、以下のことがわかります。
20代は平均を下回る
行政書士資格を取得したばかりの20代は、勤務行政書士として働くか、開業直後で収入が安定していないため、日本全体の平均年収を下回ります。
30代から逆転
30代になると、実務経験が蓄積され、独立開業も軌道に乗り始めるため、日本全体の平均年収を上回るようになります。
40〜50代がピーク
40〜50代が年収のピークで、専門性も確立され、安定した顧客基盤を持つ行政書士が多くなります。日本全体の平均年収を100万円程度上回ります。
60代以降は徐々に減少
60代以降は、業務量を減らす行政書士が増えるため、平均年収は減少しますが、それでも日本全体の平均年収を上回っています。
行政書士と他士業の年収比較
行政書士の年収を理解するために、他の士業との比較も重要です。ここでは、司法書士、税理士、社会保険労務士といった主要な士業と、行政書士の年収を比較していきます。
行政書士と司法書士の年収比較【司法書士765万円vs行政書士591万円】
司法書士と行政書士は、いずれも法律関連の国家資格ですが、年収には大きな差があります。
項目 | 司法書士 | 行政書士 |
---|---|---|
平均年収 | 765万円 | 591万円 |
年収中央値 | 600万円 | 450万円 |
年収1000万円以上の割合 | 約25% | 約10% |
勤務の場合の年収 | 400〜800万円 | 200〜600万円 |
司法書士の平均年収765万円は、行政書士の591万円を約170万円上回っています。この差が生まれる主な理由は以下の3つです。
1. 独占業務の範囲
司法書士は、不動産登記や商業登記といった明確な独占業務を持っています。これらの業務は、法律で司法書士しか行えないと定められており、価格競争になりにくいという特徴があります。一方、行政書士の独占業務は「官公署に提出する書類の作成」と範囲が広く、競合が多い分野も存在します。
2. 報酬単価の違い
司法書士の主要業務である不動産登記は、1件あたり5〜20万円程度の報酬が得られます。また、相続登記では数十万円の報酬となることもあります。行政書士の一般的な書類作成業務は1〜5万円程度が多く、報酬単価に差があります。
3. 試験難易度による参入障壁
司法書士試験の合格率は約3〜5%と極めて低く、参入障壁が高いです。一方、行政書士試験の合格率は10〜13%で、司法書士よりは合格しやすいため、登録者数も多く、競争が激しいという側面があります。
ただし、行政書士でも専門分野を確立し、高単価業務に特化すれば、司法書士並みの年収を実現することは可能です。実際、年収1000万円を超える行政書士も約10%存在します。
行政書士と税理士の年収比較
税理士は、会計・税務の専門家として高い年収を得ています。
項目 | 税理士 | 行政書士 |
---|---|---|
平均年収 | 850万円 | 591万円 |
年収中央値 | 700万円 | 450万円 |
年収1000万円以上の割合 | 約30% | 約10% |
税理士の平均年収850万円は、行政書士を約260万円上回っています。税理士が高年収を得られる理由は以下の通りです。
1. 顧問契約の獲得しやすさ
税理士は、企業の税務顧問として月額3〜10万円程度の顧問料を得られます。10社と顧問契約を結べば、それだけで年間360〜1200万円の安定収入になります。行政書士も顧問契約は可能ですが、税理士ほど一般的ではありません。
2. 確定申告業務の独占
税理士は、確定申告書の作成を独占業務として持っています。確定申告シーズン(2〜3月)には、1件あたり5〜30万円程度の報酬を得られ、年収を大きく押し上げます。
3. 試験難易度と専門性
税理士試験は科目合格制ですが、5科目すべて合格するには平均5〜10年かかると言われています。この高い専門性が、報酬単価の高さにつながっています。
行政書士と税理士の違いについては、行政書士と税理士の違いで詳しく解説していますので、参考にしてください。
行政書士と社会保険労務士の年収比較
社会保険労務士(社労士)は、労務管理や社会保険の専門家です。
項目 | 社会保険労務士 | 行政書士 |
---|---|---|
平均年収 | 670万円 | 591万円 |
年収中央値 | 520万円 | 450万円 |
年収1000万円以上の割合 | 約15% | 約10% |
社会保険労務士の平均年収670万円は、行政書士を約80万円上回っています。社労士が比較的高年収を得られる理由は以下の通りです。
1. 企業顧問の獲得しやすさ
社労士は、従業員を雇用するすべての企業が必要とする社会保険手続きや労務管理のサポートを行います。月額2〜5万円程度の顧問料で、継続的な収入を得やすいです。
2. 給与計算業務の安定性
給与計算代行業務は、毎月発生する定期的な業務であり、安定した収入源になります。1社あたり月額1〜3万円程度の報酬を得られます。
3. 助成金申請業務
企業の助成金申請サポートは、成功報酬で助成金額の10〜20%を受け取れることが多く、1件で数十万円の報酬となることもあります。
行政書士と社労士のダブルライセンスは、業務範囲を大きく広げることができ、年収アップに効果的です。
行政書士と他士業の年収差が生まれる理由
行政書士と他士業の年収差が生まれる主な理由を整理すると、以下の4点にまとめられます。
1. 独占業務の範囲と明確さ
司法書士や税理士は、明確な独占業務を持っており、価格競争になりにくいです。行政書士の独占業務は範囲が広い反面、競合が多い分野も存在します。
2. 顧問契約の獲得しやすさ
税理士や社労士は、企業にとって継続的に必要なサービスを提供するため、顧問契約を獲得しやすいです。行政書士は、許認可申請など単発業務が中心になりがちです。
3. 試験難易度による参入障壁
試験難易度が高い資格ほど、登録者数が少なく、競争が緩やかになります。行政書士試験の合格率10〜13%は、他の士業と比べると比較的高めです。
4. 報酬単価の違い
業務の専門性や複雑さによって、報酬単価は大きく異なります。行政書士でも、高単価業務に特化すれば、他士業並みの年収を実現できます。
他の士業との比較については、行政書士と司法書士の違いや行政書士と社労士の違いでも詳しく解説しています。
行政書士で年収1000万円は可能?高年収を実現する方法
行政書士で年収1000万円を実現することは可能ですが、そのためには明確な戦略が必要です。ここでは、高年収を実現するための具体的な方法を解説します。
行政書士で年収1000万円以上を稼ぐ人の割合は約10%
日本行政書士会連合会の調査によると、年商1000万円以上の行政書士は全体の約9%程度です。年商から経費を引いた実際の年収(所得)で1000万円以上となると、さらに少なく、全体の5〜10%程度と推定されます。
年収1000万円を実現している行政書士には、以下のような共通点があります。
1. 専門分野への特化
高年収の行政書士の多くは、特定の分野に専門特化しています。建設業許可、外国人ビザ、相続手続き、風俗営業許可など、高単価が期待できる分野で第一人者となっています。
2. 効率的な営業・集客システム
ホームページからの自動集客、SNSでの情報発信、セミナー開催による見込み客獲得など、効率的な営業システムを構築しています。営業にかける時間を最小化し、業務に集中できる仕組みを作っています。
3. 高単価業務への選択と集中
すべての案件を受けるのではなく、高単価業務に絞って受注しています。低単価業務は断るか、別の行政書士に紹介するなど、時間単価を意識した経営をしています。
4. 顧問契約の獲得
複数の企業や個人と顧問契約を結び、毎月安定した収入を確保しています。顧問先1社あたり月額3〜10万円、10社と契約できれば年間360〜1200万円の安定収入になります。
行政書士で高年収を実現する5つの戦略
年収1000万円以上を目指すための、具体的な5つの戦略を紹介します。
戦略1:高単価業務への専門特化
風俗営業許可、薬局開設許可、産業廃棄物処理業許可など、報酬単価が30〜100万円以上の業務に特化します。これらの業務は専門知識が必要で、競合も少ないため、高単価を維持しやすいです。
たとえば、風俗営業許可に特化し、1件80万円の報酬で年間15件受注できれば、それだけで1200万円の売上になります。
戦略2:ストック型ビジネスモデルの構築
顧問契約や定期的な更新業務など、継続的な収入が得られるストック型ビジネスモデルを構築します。建設業許可の更新(5年ごと)、産業廃棄物処理業許可の更新(5年ごと)など、一度顧客になってもらえば長期的な関係が築けます。
月額5万円の顧問契約を15社獲得できれば、年間900万円の安定収入になります。これに単発業務を加えることで、年収1000万円超えが現実的になります。
戦略3:ダブルライセンスによる業務範囲拡大
司法書士、社会保険労務士、宅地建物取引士などの資格を併せ持つことで、業務範囲を広げ、顧客単価を上げます。たとえば、行政書士×社労士のダブルライセンスがあれば、企業の設立支援から労務管理まで一貫してサポートでき、総合的なコンサルティング報酬を得られます。
戦略4:インターネット集客の徹底
SEO対策されたホームページ、YouTube動画、SNS発信など、インターネット集客を徹底します。特に、地域名×専門分野でのSEO対策(例:「東京 風俗営業許可」)を行い、検索上位を獲得することで、営業コストをかけずに顧客を獲得できます。
月間10件以上の問い合わせを獲得できれば、そのうち3〜5件が受注につながり、安定した売上を確保できます。
戦略5:付加価値サービスの提供
単なる許認可申請代行だけでなく、コンサルティングやアフターサポートなど、付加価値の高いサービスを提供します。たとえば、建設業許可申請だけでなく、公共工事入札サポート、経営事項審査対策、助成金申請支援などをパッケージ化することで、1社あたり50〜100万円の報酬を得ることができます。
行政書士の専門特化で年収アップ【建設業・外国人・相続など】
専門特化は、年収アップの最も確実な方法です。主要な専門分野と年収アップの可能性を見てみましょう。
建設業許可専門
建設業許可は需要が非常に多く、新規申請15〜40万円、更新5〜15万円、経営事項審査10〜30万円など、継続的な収入が期待できます。建設業に特化し、年間50件の許可申請を行えば、年収800〜1500万円も可能です。
外国人ビザ専門
外国人労働者の増加に伴い、ビザ申請の需要は増えています。就労ビザ申請10〜30万円、永住許可申請20〜50万円、帰化申請30〜80万円など、高単価が期待できます。外国人ビザに特化し、年間40件受注できれば、年収600〜1200万円が見込めます。
相続手続き専門
高齢化社会の進展により、相続手続きの需要は増加しています。遺産分割協議書作成5〜15万円、相続手続き一式30〜80万円など、高齢者向けのきめ細かなサービスが評価されます。相続専門で年間30件受注できれば、年収500〜1000万円が期待できます。
風俗営業許可専門
風俗営業許可は報酬単価が最も高い分野の一つで、1件50〜150万円の報酬が得られます。ただし、専門知識が必要で、参入障壁が高いです。年間10件受注できれば、それだけで年収500〜1500万円になります。
行政書士の顧問契約獲得で安定収入を確保する方法
顧問契約は、安定した収入基盤を作る上で非常に重要です。顧問契約獲得のポイントは以下の通りです。
1. 顧問契約のメリットを明確に提示
顧客にとって、顧問契約を結ぶメリットを明確に提示します。たとえば、「いつでも相談できる」「法改正情報の提供」「優先的な対応」「顧問料金での割引サービス」などです。
2. 段階的な料金プランの設定
月額1万円のライトプラン、月額3万円のスタンダードプラン、月額5万円以上のプレミアムプランなど、段階的な料金設定をすることで、幅広い顧客層に対応できます。
3. 既存顧客への顧問契約提案
単発業務で関わった顧客に対して、継続的なサポートの必要性を説明し、顧問契約を提案します。許認可取得後の更新業務や、法改正への対応など、継続的なサポートが必要であることを理解してもらいます。
4. 定期訪問・定期レポートの実施
顧問先には、月1回の定期訪問や、法改正情報のレポート送付など、継続的な接点を持ちます。これにより、顧問契約の価値を実感してもらい、長期的な関係を築くことができます。
月額3万円の顧問契約を10社獲得できれば年間360万円、20社なら年間720万円の安定収入になり、年収1000万円の基盤ができます。
行政書士の年収アップに効果的なダブルライセンス
行政書士の年収をさらに上げるには、他の資格とのダブルライセンスが効果的です。ここでは、相性の良い資格と、その組み合わせによる年収アップ効果を解説します。
行政書士×司法書士のダブルライセンスで業務範囲拡大
行政書士と司法書士のダブルライセンスは、最も強力な組み合わせの一つです。
組み合わせのメリット
行政書士の許認可申請業務と、司法書士の登記業務を組み合わせることで、企業設立から許認可取得まで一貫してサポートできます。たとえば、会社設立の場合、司法書士として商業登記を行い、行政書士として各種許認可申請を行うことで、トータルでのサポートが可能になります。
年収アップ効果
司法書士資格を持つことで、不動産登記や商業登記など、報酬単価の高い業務を扱えます。会社設立支援の場合、定款作成(行政書士)5万円+設立登記(司法書士)10〜15万円+許認可申請(行政書士)15〜40万円で、合計30〜60万円の報酬を1社から得られます。
この組み合わせにより、年収は300〜500万円程度アップする可能性があります。ダブルライセンスを持つ行政書士の平均年収は800〜1200万円程度と、単独資格の行政書士より200〜600万円高くなっています。
取得の難易度
司法書士試験は、合格率3〜5%の難関試験です。行政書士試験合格者であっても、さらに2〜5年の学習期間が必要とされています。しかし、その分、取得後のリターンも大きいです。
行政書士×社会保険労務士のダブルライセンスで企業顧問
行政書士と社会保険労務士のダブルライセンスは、企業顧問を獲得しやすい組み合わせです。
組み合わせのメリット
行政書士の許認可申請・契約書作成業務と、社労士の労務管理・社会保険手続き業務を組み合わせることで、企業の総合的なサポートが可能になります。特に、人事労務と許認可の両方が必要な業種(建設業、運送業など)では、ダブルライセンスの強みを発揮できます。
年収アップ効果
社労士資格を持つことで、給与計算代行、社会保険手続き、就業規則作成など、継続的な業務を受注できます。企業顧問として、行政書士業務月額2万円+社労士業務月額3万円=月額5万円の顧問料を得られます。10社と契約できれば、年間600万円の安定収入になります。
この組み合わせにより、年収は200〜400万円程度アップする可能性があります。行政書士×社労士のダブルライセンス保持者の平均年収は700〜1000万円程度です。
取得の難易度
社労士試験の合格率は5〜7%程度で、行政書士試験より難関です。学習期間は1〜3年程度が目安です。法律系の知識があれば、行政書士試験との重複分野もあり、やや学習負担は軽減されます。
行政書士×宅建士のダブルライセンスで不動産分野強化
行政書士と宅地建物取引士のダブルライセンスは、不動産分野で強みを発揮します。
組み合わせのメリット
行政書士の建設業許可申請業務と、宅建士の不動産取引業務を組み合わせることで、建設業・不動産業の総合的なサポートが可能になります。たとえば、建設業許可申請と不動産取引のコンサルティングをセットで提供できます。
年収アップ効果
宅建士資格を持つことで、不動産売買の仲介業務も可能になります(宅建業の免許が必要)。建設業許可申請15〜40万円+不動産コンサルティング10〜30万円など、業務範囲が広がります。
この組み合わせにより、年収は100〜200万円程度アップする可能性があります。特に、不動産業や建設業に特化した行政書士にとっては、宅建士資格は必須とも言えます。
取得の難易度
宅建士試験の合格率は15〜17%程度で、行政書士試験よりやや難易度は低めです。学習期間は6ヶ月〜1年程度が目安で、比較的取得しやすい資格です。
行政書士×中小企業診断士のダブルライセンスで経営支援
行政書士と中小企業診断士のダブルライセンスは、経営コンサルティング分野で強みを発揮します。
組み合わせのメリット
行政書士の許認可申請業務と、中小企業診断士の経営コンサルティング業務を組み合わせることで、企業の創業支援から経営改善まで一貫してサポートできます。補助金・助成金申請支援でも、両資格の知識が活かせます。
年収アップ効果
中小企業診断士資格を持つことで、経営コンサルティング業務で高額報酬を得られます。経営改善コンサルティング50〜200万円、補助金申請支援20〜100万円など、プロジェクト単位での高額報酬が期待できます。
この組み合わせにより、年収は300〜500万円程度アップする可能性があります。特に、創業支援や事業承継支援に特化すれば、年収1500万円以上も可能です。
取得の難易度
中小企業診断士試験は、1次試験・2次試験・実務補習があり、最終合格率は約4%と難関です。学習期間は2〜3年程度が目安で、経営・会計の知識が必要です。
ダブルライセンスについては、行政書士のダブルライセンスで詳しく解説していますので、参考にしてください。
行政書士の年収が低いと言われる理由と対策
「行政書士は稼げない」「食えない」といったネガティブな情報を目にすることがあります。ここでは、そう言われる理由と、低年収を避けるための具体的な対策を解説します。
行政書士が「稼げない」「食えない」と言われる3つの理由
理由1:開業直後の収入不安定さ
行政書士として独立開業した場合、最初の1〜3年は顧客基盤が確立されておらず、収入が非常に不安定です。開業1年目は年収100万円未満という行政書士も珍しくありません。この開業直後の厳しい時期の話が「稼げない」という評判につながっています。
実際、開業3年以内に廃業する行政書士の割合は約30〜40%とされており、この高い廃業率が「食えない」という印象を与えています。しかし、これは開業直後の一時的な現象であり、5年以上継続できれば、年収400〜800万円程度に達する行政書士が多いのも事実です。
理由2:専門性の確立に時間がかかる
行政書士の業務範囲は非常に広く、何を専門にするか決めるのが難しいです。専門性が確立されないまま、あらゆる案件を受けてしまうと、低単価業務ばかりになり、年収が上がりません。
許認可申請だけでも、建設業、風俗営業、運送業、産業廃棄物など、分野は多岐にわたります。それぞれの分野で専門知識が必要であり、すべてをカバーするのは困難です。専門分野を絞り込み、その分野の第一人者になるまでには、3〜5年程度かかることもあります。
理由3:営業・集客の難しさ
行政書士の業務は、一般消費者にはあまり馴染みがなく、「行政書士に何を依頼できるのか」すら知らない人が多いです。そのため、営業や集客に苦戦する行政書士が多く、これが「稼げない」と言われる一因です。
特に、インターネット集客のノウハウがない行政書士は、顧客獲得に非常に苦労します。ホームページを作っても、SEO対策ができていなければ、検索で見つけてもらえません。また、SNSやブログでの情報発信も、継続的に行わなければ効果が出ません。
行政書士の登録者数が多く競争が激しい現実
行政書士の登録者数は年々増加しており、2024年時点で約5万人に達しています。これは、司法書士(約2.2万人)や税理士(約8万人)と比較しても、決して少ない数ではありません。
登録者数が多いということは、それだけ競争が激しいということです。特に、都市部では行政書士の数が多く、価格競争も激化しています。たとえば、建設業許可申請の報酬が、以前は30〜40万円が相場だったのが、現在では15〜25万円まで下がっている地域もあります。
また、行政書士試験の合格率は10〜13%と、他の士業と比べると比較的高く、毎年5,000〜6,000人の新規合格者が出ています。この新規参入者の増加も、競争を激化させる要因になっています。
ただし、競争が激しいのは一部の分野に限られます。風俗営業許可、薬局開設許可、外国人ビザなど、専門性が高く参入障壁がある分野では、競争は比較的緩やかです。
行政書士の明確な独占業務の少なさが年収に影響
行政書士法では、行政書士の独占業務を「官公署に提出する書類の作成」と定めていますが、この範囲は非常に広く、同時に曖昧でもあります。
たとえば、司法書士の「登記申請書の作成」や、税理士の「税務申告書の作成」のように、明確に定義された独占業務が少ないのが行政書士の特徴です。そのため、一部の業務では、行政書士以外でも対応できる(本人申請や、企業の法務部門が対応するなど)ケースがあります。
また、弁護士は行政書士の業務もすべて行えるため、高額案件は弁護士に流れてしまうこともあります。このように、明確な独占業務が少ないことが、報酬単価の低下や、年収の伸び悩みにつながっています。
ただし、これは業務分野によって大きく異なります。風俗営業許可や薬局開設許可など、高度な専門知識が必要な分野では、事実上、行政書士が独占しているような状況です。
行政書士として低年収を避けるための具体策
低年収を避け、安定した収入を得るための具体策を5つ紹介します。
具体策1:専門分野を早期に決定する
開業後1年以内に専門分野を決定し、その分野に集中して営業・学習を行います。建設業、外国人ビザ、相続、風俗営業など、高単価が期待できる分野から選ぶのが賢明です。専門分野を決めることで、学習すべき知識が絞られ、効率的にスキルアップできます。
具体策2:インターネット集客を徹底する
ホームページのSEO対策、ブログやYouTubeでの情報発信、Google広告の活用など、インターネット集客を徹底します。特に、「地域名×専門分野」でのSEO対策(例:「大阪 建設業許可」)は効果的です。月間10件以上の問い合わせを獲得できれば、安定した収入につながります。
具体策3:顧問契約の獲得に注力する
単発業務だけでなく、顧問契約の獲得に注力します。既存顧客に対して、継続的なサポートの必要性を説明し、顧問契約を提案します。月額3万円の顧問契約を10社獲得できれば、年間360万円の安定収入になります。
具体策4:他士業とのネットワークを構築する
司法書士、税理士、社労士など、他士業とのネットワークを構築し、相互に案件を紹介し合います。特に、自分の専門外の案件は、他の行政書士や他士業に紹介することで、逆に紹介を受ける機会も増えます。
具体策5:ダブルライセンスを検討する
司法書士、社労士、宅建士などの資格取得を検討します。ダブルライセンスにより、業務範囲が広がり、顧客単価も上がります。特に、行政書士×社労士のダブルライセンスは、企業顧問を獲得しやすく、年収アップに直結します。
行政書士のネガティブな評判の真相については、行政書士は食えないという噂の真相で詳しく検証していますので、参考にしてください。
行政書士の年収に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、行政書士の年収に関してよく寄せられる質問に回答します。
行政書士の年収はいくらですか?
行政書士の平均年収は551〜591万円程度です。ただし、これは平均値であり、実際には大きな個人差があります。年収中央値は400〜450万円程度で、半数以上の行政書士は年収500万円未満というのが実態です。
働き方別に見ると、勤務行政書士の年収は200〜600万円程度、独立開業した行政書士は100万円〜3,000万円超と幅広く分布しています。専門分野、経験年数、営業力などによって、年収は大きく変動します。
行政書士は本当に稼げますか?
行政書士で稼げるかどうかは、専門性と営業力次第です。高単価業務に特化し、効果的な集客ができれば、年収1000万円以上も十分可能です。実際、全体の約10%の行政書士は年収1000万円以上を稼いでいます。
一方で、専門性が確立されず、営業に苦戦している行政書士は、年収300万円以下というケースもあります。「稼げる」「稼げない」は、個人の戦略と努力によって決まると言えます。
開業直後の1〜3年は収入が不安定ですが、5年以上継続できれば、年収400〜800万円程度に達する行政書士が多いです。長期的な視点で取り組むことが重要です。
行政書士で年収1000万円は可能ですか?
可能です。実際に、全体の約10%の行政書士は年収1000万円以上を稼いでいます。年収1000万円を実現するには、以下のポイントが重要です。
- 高単価業務への専門特化(風俗営業許可、薬局開設許可など)
- 顧問契約の獲得(月額5万円×20社=年間1200万円)
- ダブルライセンスの活用(司法書士、社労士など)
- 効率的な営業・集客システムの構築
- 付加価値サービスの提供(コンサルティングなど)
これらの戦略を組み合わせることで、年収1000万円以上の実現は十分可能です。ただし、一朝一夕では達成できず、3〜10年程度の期間が必要です。
行政書士の初任給・1年目の給料はいくらですか?
勤務行政書士として就職した場合の初任給は、月収18〜25万円程度、年収にすると220〜300万円程度が相場です。地域差があり、東京などの大都市圏では月収25万円前後、地方では月収18〜22万円程度が一般的です。
独立開業した1年目の場合、収入はさらに不安定で、年間を通して平均すると月収5〜20万円、年収60〜240万円程度が現実的な数字です。開業初月から数ヶ月は収入ゼロという行政書士も珍しくありません。
1年目は、収入よりも顧客基盤を作ることを優先すべき期間です。営業活動に注力し、実績を積むことが、2年目以降の収入アップにつながります。
行政書士の雇われ(勤務)の給料はいくらですか?
勤務行政書士(使用人行政書士)の給料は、経験年数や勤務先の規模によって変動しますが、一般的には以下の通りです。
- 1年目:月収18〜25万円、年収220〜300万円
- 3〜5年目:月収25〜35万円、年収300〜420万円
- 10年以上:月収35〜50万円、年収420〜600万円
大手事務所や企業の法務部門に勤務している場合は上限に近く、小規模事務所では下限に近い金額になる傾向があります。勤務行政書士のメリットは、収入が安定していることと、経営リスクを負わなくて済むことです。
行政書士の女性の年収は男性と違いますか?
行政書士の年収に、男女による明確な差はありません。行政書士は実力主義の世界であり、性別よりも専門性や営業力が年収を左右します。
ただし、女性行政書士の中には、相続手続きや離婚協議書作成など、女性ならではの細やかな対応が評価される分野で活躍している方が多くいます。また、子育てと両立しやすい働き方として、自宅開業や時短勤務を選択する女性行政書士もいます。
女性行政書士の割合は全体の約25〜30%程度ですが、年収1000万円以上を稼ぐ女性行政書士も確実に存在します。性別に関係なく、専門性を高めることが年収アップの鍵です。
行政書士で年収3000万円は可能ですか?
可能ですが、非常に難易度が高いです。年収3000万円以上を稼ぐ行政書士は、全体の1〜2%程度と推定されます。年収3000万円を実現するには、以下のような条件が必要です。
- 超高単価業務への特化(風俗営業許可、M&A支援など)
- 大規模事務所の経営(複数の従業員を雇用)
- ダブルライセンス以上の資格保有(司法書士、税理士など)
- 全国規模でのブランド確立
- コンサルティング業務の高度化
たとえば、風俗営業許可を1件100万円で年間20件、顧問契約を月額10万円で20社(年間2400万円)などの組み合わせで、年収3000万円超えが可能になります。ただし、これほどの規模になると、営業力だけでなく、経営力も必要です。
行政書士の年収を上げるにはどうすればいいですか?
行政書士の年収を上げるには、以下の5つの方法が効果的です。
1. 専門分野への特化
高単価業務(風俗営業許可、薬局開設許可、産業廃棄物処理業許可など)に専門特化し、その分野の第一人者を目指します。専門性が高まれば、報酬単価も上がります。
2. 顧問契約の獲得
単発業務だけでなく、顧問契約を獲得することで、安定した収入基盤を作ります。月額3〜5万円の顧問契約を10〜20社獲得すれば、年間360〜1200万円の安定収入になります。
3. ダブルライセンスの取得
司法書士、社労士、宅建士などの資格を取得し、業務範囲を広げます。ダブルライセンスにより、顧客単価が上がり、年収アップにつながります。
4. インターネット集客の強化
SEO対策、SNS発信、YouTube動画など、インターネット集客を強化し、営業コストを削減しながら顧客を獲得します。
5. 付加価値サービスの提供
単なる書類作成代行だけでなく、コンサルティングやアフターサポートなど、付加価値の高いサービスを提供し、報酬単価を上げます。
これらの方法を組み合わせることで、年収を大きく上げることが可能です。
まとめ|行政書士の年収の現実と高年収を目指す道筋
本記事では、行政書士の年収について、平均値・中央値・働き方別・業務別など、多角的に解説してきました。最後に、重要なポイントを3つの観点からまとめます。
行政書士の年収の現実を振り返り【平均vs中央値】
平均年収と中央値の差を理解する
行政書士の平均年収は551〜591万円ですが、中央値は400〜450万円程度です。この約150万円の差は、一部の高年収者が平均を押し上げているためです。つまり、半数以上の行政書士は年収500万円未満というのが現実です。
働き方による年収格差
勤務行政書士の年収は200〜600万円と比較的安定していますが、独立開業した行政書士は100万円〜3,000万円超と、極めて大きな差があります。この差は、専門分野の選択、営業力、経営戦略によって生まれます。
年収分布の実態
年商500万円未満の行政書士が約8割を占める一方で、年商1000万円以上は約9%にとどまります。行政書士の年収は完全に二極化しており、戦略の有無が明暗を分けています。
行政書士で高年収を実現するための3つのポイント
ポイント1:高単価業務への専門特化
風俗営業許可、薬局開設許可、産業廃棄物処理業許可など、報酬単価30〜100万円以上の業務に特化することが、高年収への最短ルートです。専門性を深めることで、競合が少なく、価格競争に巻き込まれにくくなります。
ポイント2:ストック型ビジネスモデルの構築
顧問契約や定期的な更新業務など、継続的な収入が得られるストック型ビジネスモデルを構築します。月額3〜5万円の顧問契約を15〜20社獲得できれば、年間540〜1200万円の安定収入になり、年収1000万円超えの基盤ができます。
ポイント3:ダブルライセンスの活用
司法書士、社労士、宅建士などの資格を併せ持つことで、業務範囲が広がり、顧客単価も上がります。特に、行政書士×社労士、行政書士×司法書士のダブルライセンスは、年収を200〜500万円程度アップさせる効果があります。
次のステップ【行政書士試験の勉強を始める】
行政書士の年収には大きな可能性があることを理解いただけたと思います。年収1000万円以上を稼ぐ行政書士は全体の約10%存在し、適切な戦略を持てば、あなたもその一人になれる可能性があります。
まず第一歩として、行政書士試験の合格を目指しましょう。試験勉強を始めるにあたって、以下の記事が参考になります。
- 行政書士の勉強時間では、最短合格に必要な学習時間と効率的な学習計画を解説しています
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行政書士は、専門性と営業力次第で高年収を実現できる魅力的な資格です。本記事で紹介した年収アップの戦略を参考に、まずは試験合格を目指し、その後、計画的にキャリアを構築していきましょう。あなたの行政書士としての成功を心から応援しています。
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