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公務員から行政書士になる方法|特認制度・兼業規定・退職後のキャリアを徹底解説

「公務員経験を活かして行政書士になりたい」「無試験で行政書士資格を取得できると聞いたけど本当?」「現役公務員のまま行政書士として働けるの?」このような疑問をお持ちではありませんか。

公務員から行政書士へのキャリアチェンジは、特認制度という公務員ならではの優遇制度があり、さらに実務経験を活かせる魅力的な選択肢です。しかし、兼業規定や登録時期、開業準備など押さえるべきポイントも多く、正しい知識がなければ思わぬ落とし穴にはまる可能性もあります。

この記事でわかること
  • 公務員が無試験で行政書士資格を取得できる特認制度の詳細と要件
  • 現役公務員が行政書士として開業できるかの兼業規定の実態
  • 公務員退職後に行政書士として独立開業する具体的な手順とポイント
  • 公務員経験を最大限に活かせる行政書士の専門分野
  • 公務員と行政書士の年収比較とキャリア戦略
  • 公務員が行政書士試験を受験する場合の注意点
特に注目すべきポイント

特認制度による無試験取得の条件:公務員として17年または20年以上勤務すれば、行政書士試験を受けずに資格を取得できます。ただし、対象となる職務内容や職位には細かい要件があり、すべての公務員が該当するわけではありません。在職中に要件を満たしているか確認することが重要です。

現役公務員の兼業制限の実態:国家公務員法・地方公務員法により、現役公務員は原則として行政書士業務を行うことができません。資格取得や登録は可能ですが、実際に報酬を得て業務を行うには退職が必要です。ただし例外的なケースも存在するため、所属機関の規定を正確に理解する必要があります。

公務員経験を活かせる専門分野の選択:公務員出身の行政書士は、許認可業務や補助金申請支援など官公署との折衝が必要な分野で圧倒的な強みを発揮します。特に建設業許可、農地転用、外国人在留資格など、行政の仕組みを熟知していることが武器になる分野では、民間出身者に比べて大きなアドバンテージがあります。

本記事と類似記事の違い:本記事では、単なる制度説明にとどまらず、公務員から行政書士への転身を実現するための具体的なロードマップ、年収シミュレーション、失敗パターンと対策まで、実践的な情報を網羅的に解説しています。

目次

行政書士と公務員の関係|特認制度と兼業規定の基礎知識

行政書士と公務員には、一般的な資格とは異なる特別な関係性があります。公務員経験者には「特認制度」という無試験での資格取得ルートが用意されている一方で、現役公務員には兼業制限が存在するため、資格取得と業務開始のタイミングを正確に理解する必要があります。

行政書士資格の特認制度とは|公務員経験で無試験取得

特認制度とは、行政書士法第2条に基づく公務員経験者向けの資格取得制度です。通常は年1回の試験に合格する必要がある行政書士資格を、一定の要件を満たした公務員経験者は試験を受けずに取得できます。

この制度が設けられている理由は、公務員として長年行政事務に携わってきた経験が、行政書士業務に必要な知識・スキルと密接に関連しているためです。特に許認可関連業務や文書作成業務に従事してきた公務員は、すでに実務レベルの専門性を持っていると評価されます。

特認制度の対象となるには、17年以上または20年以上の勤務年数が必要で、職務内容や職位によって要件が異なります。国家公務員・地方公務員を問わず適用されますが、単に在籍期間を満たせばよいわけではなく、行政事務に従事した期間のみがカウントされる点に注意が必要です。

また、特認制度を利用しても、行政書士会への登録手続きや登録料の支払いは通常通り必要です。無試験で取得できるのは「資格」であり、実際に行政書士として業務を行うには別途登録が必須となります。

公務員の副業禁止規定と行政書士業務の関係

現役公務員は、国家公務員法第103条および第104条、地方公務員法第38条により、原則として営利企業への従事や営利業務の運営が禁止されています。この副業禁止規定は、行政書士業務にも適用されます。

具体的には、公務員が報酬を得て行政書士業務を行うことは、営利業務の運営に該当するため原則として認められません。たとえ特認制度で資格を取得し、行政書士会に登録したとしても、在職中は実際の業務を行うことができないのが原則です。

ただし、所属機関の任命権者から許可を得た場合には、例外的に副業が認められるケースもあります。しかし実態としては、行政書士のような独立性の高い業務について許可が下りることは極めて稀です。公務の公正性や中立性への疑念を招く可能性があるためです。

したがって、現役公務員が行政書士資格を取得する場合は、退職後のキャリアを見据えた準備として位置づけることが一般的です。在職中は資格取得と人脈形成に注力し、退職後に本格的に開業するという戦略が現実的でしょう。

行政書士試験と公務員試験の違い

行政書士試験と公務員試験は、どちらも行政法を中心とした法律知識が問われる点で共通していますが、試験の目的や出題傾向には明確な違いがあります。

公務員試験は、行政組織で働くための総合的な能力を測る試験であり、法律科目以外にも経済学、数的処理、時事問題など幅広い分野から出題されます。法律科目も行政法だけでなく、憲法、民法、刑法などが含まれますが、各科目の出題数は比較的少なく、広く浅い知識が求められます。

一方、行政書士試験は行政書士業務に必要な専門知識を問う試験です。行政法を中心に、民法、憲法、商法などの法令科目が全体の約8割を占め、各科目について深い理解が必要とされます。特に行政法は46問中19問以上の出題があり、判例や条文の正確な理解が求められます。

また、行政書士試験には記述式問題が含まれており、単なる知識の暗記ではなく、事例に法律を適用して論理的に解答する能力が試されます。公務員試験が主に択一式であるのに対し、この記述式対策が行政書士試験の大きな特徴といえます。

合格率も大きく異なります。公務員試験は職種や自治体によって異なりますが、10〜30%程度であるのに対し、行政書士試験は10〜13%程度と低めです。ただし、行政書士の難易度は絶対評価であり、基準点を超えれば合格できる点が公務員試験との大きな違いです。

公務員が行政書士資格を取得する意義

公務員が行政書士資格を取得する意義は、キャリアの選択肢を広げることにあります。定年退職後のセカンドキャリアとして、または早期退職して独立開業する選択肢を持つことで、人生設計の自由度が大きく高まります。

第一の意義は、退職後の収入源を確保できることです。公務員の退職金と年金だけでは不安という方にとって、行政書士資格は専門性を活かした収入を得る手段となります。特に50代で早期退職を検討している方にとって、行政書士は年齢に関係なく活躍できる職業です。

第二の意義は、公務員時代の経験を社会に還元できることです。長年培った行政実務の知識や官公署との折衝スキルは、民間の事業者にとって非常に価値があります。許認可取得に困っている中小企業を支援することで、地域経済の活性化に貢献できます。

第三の意義は、働き方の自由度が高まることです。公務員は組織の一員として働きますが、行政書士として独立すれば、自分のペースで働けます。週3日だけ働く、特定分野に特化するなど、ライフスタイルに合わせた働き方が可能になります。

また、在職中から資格取得に向けて学習することで、業務への理解が深まるという副次的効果もあります。行政法の体系的な知識を身につけることで、日々の公務をより深く理解できるようになるでしょう。

公務員と行政書士の関係について、さらに詳しい情報は公務員から行政書士になる方法で解説しています。

公務員が行政書士資格を無試験で取得する特認制度の全て

特認制度は公務員経験者にとって最大のメリットといえる制度です。ここでは、制度の法的根拠から具体的な要件、申請手続きまで詳しく解説します。

行政書士の特認制度の法的根拠(行政書士法第2条)

特認制度の法的根拠は、行政書士法第2条第2号から第5号に規定されています。この条文では、「試験に合格した者」以外に、「公務員として一定期間行政事務に従事した者」も行政書士となる資格を有すると定められています。

具体的には、以下の4つのパターンが定められています。国または地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間が通算して17年以上になる者、都道府県知事またはこれに準ずる職にあった期間が通算して3年以上になる者、市町村長またはこれに準ずる職にあった期間が通算して3年以上になる者、そして特定独立行政法人等の役員または職員として行政事務に相当する事務を担当した期間が通算して17年以上になる者です。

この規定の背景には、長年行政実務に携わってきた公務員は、すでに行政書士業務に必要な知識と経験を有しているという考え方があります。許認可申請の審査や行政手続きの実務を日常的に行ってきた公務員であれば、試験を課すまでもなく十分な実力があると評価されるのです。

ただし、法律で定められているのは「資格を有する」ことであり、実際に行政書士として業務を行うには、行政書士会への登録が別途必要です。登録には登録料や入会金の支払いが必要で、この部分は試験合格者と同様の手続きが求められます。

特認制度で行政書士資格を取得できる公務員の条件

特認制度を利用できる公務員には、細かな条件が設定されています。単に公務員として一定期間勤務すればよいわけではなく、従事した業務内容や職位が重要になります。

まず、対象となる公務員の範囲ですが、国家公務員、地方公務員のいずれも対象となります。国の省庁に勤務する職員、都道府県職員、市区町村職員、教員、警察官、消防士など、広く公務員全般が含まれます。また、独立行政法人の職員も一定の要件を満たせば対象となります。

次に、対象となる業務内容ですが、「行政事務」に該当する業務である必要があります。行政事務とは、許認可、届出受理、行政指導、補助金交付、契約事務、文書管理など、行政機関の権限行使や行政運営に関わる事務を指します。

逆に、行政事務に該当しない業務としては、単純な窓口業務、清掃業務、運転業務などの現業業務が挙げられます。教員の場合は教育業務自体は行政事務に該当しないとされることが多いですが、教育委員会での行政事務経験があればその期間はカウントされる可能性があります。

また、非常勤職員や臨時職員の場合は、その勤務形態によって判断が分かれます。常勤職員と同等の業務に従事していれば認められることもありますが、短時間勤務の場合は期間の計算方法が異なる場合があります。

自分が要件を満たしているか不明な場合は、所属する都道府県の行政書士会に事前に相談することをお勧めします。勤務証明書を提出して、要件該当性を確認してもらうことができます。

特認制度に必要な勤務年数|17年or20年の違い

特認制度を利用するための勤務年数は、職位や業務内容によって17年と20年の2パターンに分かれます。この違いを正確に理解することが重要です。

17年以上の勤務で認められるケースは、都道府県知事またはこれに準ずる職にあった期間が通算3年以上ある場合、市町村長またはこれに準ずる職にあった期間が通算3年以上ある場合、そして国または地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間が通算17年以上ある場合です。

この「準ずる職」の解釈が重要で、一般的には副知事、副市町村長、部長級以上の管理職が該当するとされています。ただし、具体的な判断は行政書士会が行うため、自分の職歴が該当するか事前に確認することをお勧めします。

20年以上の勤務が必要なケースは、上記の管理職要件を満たさない一般の公務員の場合です。係長や課長補佐などの中堅職員として行政事務に従事してきた場合、通算20年以上の勤務が必要になります。

計算する際の注意点として、通算期間には休職期間や育児休業期間は含まれません。また、異動によって行政事務以外の業務に従事した期間も除外されます。例えば、教員として10年勤務した後に教育委員会で行政事務に7年従事した場合、行政事務期間は7年のみとなります。

さらに、複数の自治体や機関を異動している場合でも、すべての期間を通算できます。国家公務員から地方公務員に転職した場合や、異なる都道府県の職員として勤務した場合でも、各機関で発行される勤務証明書をすべて提出すれば、期間を合算して計算されます。

特認制度による行政書士資格取得の申請手続き

特認制度を利用して行政書士資格を取得する場合の申請手続きは、試験合格による資格取得とは異なる独自のプロセスがあります。

必要書類の準備

まず、所属していた各機関から「公務員職歴証明書」を取得する必要があります。この証明書には、在職期間、職位、担当業務の内容などが詳細に記載されている必要があります。複数の機関に勤務していた場合は、すべての機関から証明書を取得します。

退職済みの場合は、退職した機関の人事担当部署に依頼して証明書を発行してもらいます。在職中の場合でも、将来の登録に備えて証明書を取得しておくことは可能です。

行政書士会への申請

必要書類が揃ったら、開業予定地を管轄する都道府県行政書士会に申請します。申請に必要な主な書類は、特認制度適用申請書、公務員職歴証明書、履歴書、住民票、本籍地の証明書、身分証明書などです。

申請書類の審査には通常1〜2ヶ月程度かかります。書類に不備があれば追加資料の提出を求められることもあります。審査を通過すると、日本行政書士会連合会の登録簿に登録され、行政書士証票が交付されます。

登録料・入会金の支払い

特認制度を利用しても、登録料と入会金は通常通り必要です。日本行政書士会連合会への登録料が約2万5千円、都道府県行政書士会への入会金が約20万円前後(都道府県により異なる)が一般的です。

登録のタイミング

現役公務員の場合、資格要件を満たしていても、在職中は行政書士業務を行うことができません。そのため、実際に登録するのは退職後となるのが一般的です。ただし、資格要件を満たしているかの確認や、必要書類の準備は在職中から進めておくことができます。

申請ステップ所要期間主な内容
1. 書類準備2-4週間公務員職歴証明書の取得
2. 行政書士会へ申請1-2ヶ月書類審査
3. 登録・証票交付2-4週間登録料支払い、証票受領
合計約3-4ヶ月申請から開業まで

特認制度のメリット・デメリット

特認制度には明確なメリットがある一方で、いくつかの注意点も存在します。

特認制度の3大メリット

第一のメリットは、試験勉強の負担がないことです。行政書士試験の合格には通常600〜1,000時間の学習が必要とされますが、特認制度を利用すればこの時間を他の準備に充てられます。特に50代以上の方にとって、試験勉強の負担がないことは大きなアドバンテージです。

第二のメリットは、確実性です。試験には不合格のリスクがありますが、特認制度は要件を満たせば確実に資格を取得できます。退職後のキャリアプランを立てる上で、この確実性は非常に重要です。

第三のメリットは、実務経験との相乗効果です。すでに行政実務の経験があるため、資格取得後すぐに実践的な業務を行えます。試験合格者が開業後に実務を学ぶ必要があるのに対し、公務員出身者は即戦力として活躍できます。

特認制度のデメリット

最大のデメリットは、要件を満たすまでの期間が長いことです。17年または20年の勤務が必要なため、若いうちに行政書士として独立することはできません。キャリアチェンジの選択肢として考える場合、タイミングが限られます。

また、行政事務に従事していない期間はカウントされないため、異動によって現業部門に配属されると、その期間は特認制度の要件には含まれません。職種によっては20年勤務しても要件を満たせない可能性があります。

さらに、特認制度で資格を取得しても、登録料や入会金は通常通り必要です。試験合格と比べて金銭的な負担が軽減されるわけではありません。

行政書士試験について詳しく知りたい方は、行政書士試験の完全ガイドをご覧ください。

現役公務員が行政書士試験を受験する場合の注意点

特認制度を待たずに、現役公務員が行政書士試験を受験するケースも増えています。ここでは、在職中に受験する際の注意点を解説します。

公務員が行政書士試験を受験することは可能か

結論から言えば、現役公務員が行政書士試験を受験することは完全に可能です。行政書士試験には受験資格の制限がなく、年齢・学歴・国籍・職業を問わず誰でも受験できます。

公務員が試験を受験することについて、法律上の制限は一切ありません。国家公務員法や地方公務員法にも、資格試験の受験を禁止する規定はありません。実際に、在職中に行政書士試験に合格し、退職後に開業するという計画的なキャリア形成を行う公務員は少なくありません。

ただし、試験日が平日の場合、有給休暇を取得する必要があります。行政書士試験は例年11月の第2日曜日に実施されるため、休日出勤が多い部署でない限り、試験当日の休みは確保しやすいでしょう。

また、職場に受験の事実を報告する義務もありません。資格試験の受験は個人の自己啓発活動であり、上司や同僚に知らせるかどうかは本人の判断に委ねられます。ただし、合格後に退職を考えている場合は、計画的に周囲に相談しておくとスムーズです。

重要なのは、試験に合格しても在職中は行政書士業務を行えないという点です。受験と合格は自由ですが、実際に報酬を得て業務を行うには退職が必要になります。この点を理解した上で、キャリアプランを立てることが重要です。

公務員の業務と行政書士試験勉強の両立戦略

現役公務員が行政書士試験に挑戦する場合、日々の業務との両立が最大の課題となります。効率的な学習計画を立てることが合格への鍵です。

時間確保の具体的方法

公務員の場合、比較的定時で帰宅できることが多いため、平日夜に2〜3時間、休日に5〜8時間程度の学習時間を確保することが現実的です。これで週に約20〜25時間の学習が可能になります。

ただし、繁忙期や異動直後は学習時間の確保が難しくなります。年間を通じて学習時間にムラが出ることを前提に、余裕のある時期に貯金するような学習計画を立てましょう。特に年度末や予算編成期は残業が増える傾向があるため、その期間は復習中心にするなど柔軟な対応が必要です。

通勤時間を活用することも効果的です。電車通勤の場合、往復で1〜2時間の学習時間を確保できます。スマートフォンアプリや音声講義を活用すれば、移動時間も有効な学習時間に変えられます。

公務員経験を活かした効率的学習

公務員として行政法に触れる機会がある方は、その経験を試験勉強に活かせます。日常業務で扱う法令や手続きを、試験科目と関連付けて理解することで、理解が深まります。

例えば、許認可業務に携わっている方は行政手続法の実務を理解しているため、条文の丸暗記ではなく実践的な理解ができます。地方自治法に関する業務経験がある方は、地方自治法の科目で有利になります。

学習スケジュールの立て方

行政書士試験の合格には600〜1,000時間の学習が必要とされています。1年間で合格を目指す場合、週20時間の学習で年間約1,000時間を確保できます。2年計画であれば、週10時間程度でも十分です。

初学者の場合、まず基礎講座で全科目の概要を把握してから、過去問演習に移行するのが王道です。公務員経験者であれば、行政法は基礎講座を短縮し、早めに過去問演習に入ることで効率化できます。

学習期間週間学習時間年間総学習時間推奨対象
1年計画20-25時間1,000-1,300時間集中して取り組める方
2年計画10-12時間1,000-1,200時間無理なく継続したい方
1.5年計画15-17時間1,100-1,300時間バランス重視の方

公務員が行政書士試験に合格した場合の登録時期

公務員が行政書士試験に合格した後、いつ行政書士会に登録するかは重要な判断ポイントです。

在職中の登録は可能だが業務はできない

法律上、現役公務員でも行政書士会への登録自体は可能です。試験に合格し、登録要件を満たせば、在職中でも登録手続きを行えます。しかし、登録しても実際に報酬を得て業務を行うことはできません。

在職中に登録するメリットは、退職後すぐに営業活動を開始できることです。登録手続きには通常2〜3ヶ月かかるため、在職中に登録を済ませておけば、退職日から業務を開始できます。また、行政書士会の研修に参加して人脈を作ることも可能です。

デメリットは、登録料と会費の負担が発生することです。登録料約25万円に加え、年会費も数万円必要になります。業務ができないのに費用だけかかる期間が生じるため、経済的な負担を考慮する必要があります。

退職後の登録が一般的

多くの公務員は、退職後に登録するケースが一般的です。退職の1〜2ヶ月前から登録手続きを開始し、退職後に登録が完了するようスケジュールを組みます。

この方法のメリットは、無駄な費用が発生しないことと、職場とのトラブルを避けられることです。在職中に行政書士として登録していることが知られると、兼業の疑いを持たれる可能性もゼロではありません。

計画的な登録スケジュール

退職予定日の3ヶ月前:必要書類の準備開始、行政書士会への事前相談
退職予定日の2ヶ月前:登録申請書類の提出
退職予定日の1ヶ月前:審査完了、登録料の支払い
退職日:正式に登録完了、営業活動開始

このスケジュールで進めれば、退職後すぐに業務を開始できます。

公務員経験が行政書士試験で有利になる科目

公務員として働いた経験は、行政書士試験の特定科目で大きなアドバンテージとなります。

行政法(最も有利な科目)

公務員経験が最も活きるのは行政法です。日常業務で行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法などに触れる機会がある方は、条文の意味を実務として理解しています。

特に許認可業務、届出受理業務、行政指導などを担当してきた方は、行政手続法の規定が実務でどう使われるかを肌感覚で知っています。この実務経験は、試験問題の事例を読み解く際に大きな武器になります。

地方自治法

地方公務員の方は、地方自治法についても実務経験があります。条例の制定手続き、予算編成、議会との関係など、教科書的な知識だけでなく実際の運用を知っているため、理解が深まります。

民法(部分的に有利)

契約事務を担当してきた方は、民法の契約法分野で有利です。売買契約、請負契約、委任契約などの実務経験があれば、抽象的な条文を具体的にイメージできます。

ただし、民法は出題範囲が広く、相続法や親族法など実務で触れる機会が少ない分野もあります。公務員経験だけでカバーできるわけではなく、体系的な学習が必要です。

一般知識(時事問題で有利)

行政書士試験の一般知識科目には、政治・経済・社会の時事問題が出題されます。公務員として政策や行政の動向に日常的に触れている方は、この分野で自然と知識が身についています。

特に、法改正や新しい制度の導入などは、公務員の方が民間の受験生よりも早く情報に接する機会があります。この情報の鮮度は、時事問題で大きなアドバンテージとなります。

公務員経験を最大限に活かした勉強法については、行政書士の効果的な勉強法で詳しく解説しています。

現役公務員は行政書士として開業できるのか|兼業規定を徹底解説

現役公務員が行政書士として開業できるかは、多くの公務員が疑問に思うポイントです。ここでは、国家公務員と地方公務員それぞれの兼業規定を詳しく解説します。

国家公務員の副業禁止規定と行政書士業務

国家公務員の副業は、国家公務員法第103条(私企業からの隔離)および第104条(他の事業または事務の関与制限)により、厳しく制限されています。

国家公務員法第103条の規定

この条文では、国家公務員は営利企業の役員や顧問、評議員などの地位に就くことが禁止されています。行政書士として独立開業した場合、個人事業主として営利業務を行うことになるため、この規定に抵触する可能性があります。

国家公務員法第104条の規定

この条文では、国家公務員が報酬を得て他の事業または事務に従事する場合には、任命権者の許可が必要とされています。行政書士業務は「他の事務」に該当し、報酬を得る行為であるため、原則として許可が必要です。

許可が下りる可能性

理論上は許可を得れば兼業可能ですが、実際には行政書士のような独立性の高い業務について許可が下りることは極めて稀です。公務の公正性・中立性が損なわれる恐れがあること、職務に専念する義務に反する可能性があることなどが理由です。

過去の事例を見ても、国家公務員が在職中に行政書士として営業活動を行い、懲戒処分を受けたケースがあります。このリスクを考えると、在職中の開業は現実的ではありません。

資格取得と登録の扱い

ただし、資格を取得することや、行政書士会に登録すること自体は禁止されていません。あくまで「報酬を得て業務を行うこと」が制限されているのであり、準備行為としての資格取得や登録は問題ありません。

地方公務員の副業禁止規定と行政書士業務

地方公務員の場合も、地方公務員法第38条により営利企業への従事等が制限されています。基本的な考え方は国家公務員と同様ですが、自治体によって運用に若干の違いがあります。

地方公務員法第38条の規定

地方公務員は、任命権者の許可を受けなければ、営利企業の役員等の地位に就いたり、報酬を得て事業または事務に従事することができません。行政書士業務は「報酬を得て事務に従事する」行為に該当します。

自治体による運用の違い

一部の自治体では、副業・兼業に関する規定を緩和する動きも出てきています。地域活性化や公務員の能力開発の観点から、一定の条件下で副業を認める自治体も増えつつあります。

ただし、行政書士のような許認可に関わる業務は、公務との利益相反が生じやすいため、許可の対象外とされるケースがほとんどです。所属自治体の副業規定を確認する必要がありますが、期待はできないでしょう。

教員の特例

教員の場合は、教育公務員特例法により、本業に支障がない範囲で教育に関する他の職を兼ねることが認められています。しかし、行政書士業務は「教育に関する職」には該当しないため、この特例は適用されません。

違反した場合の懲戒処分

許可なく副業を行った場合、懲戒処分の対象となります。戒告、減給、停職、免職などの処分があり、悪質な場合は免職となる可能性もあります。長年積み上げたキャリアを失うリスクがあるため、在職中の開業は避けるべきです。

公務員が行政書士登録だけして業務をしない選択肢

行政書士の資格を取得し、登録だけして業務を行わないという選択肢も理論上は存在します。この方法のメリットとデメリットを検討してみましょう。

メリット:退職後すぐに営業開始できる

退職前に登録を済ませておけば、退職日から即座に営業活動を開始できます。登録手続きには2〜3ヶ月かかるため、この待機期間をなくせるメリットは大きいでしょう。また、在職中から行政書士会の研修や交流会に参加し、人脈を作ることも可能です。

デメリット:費用負担と疑念のリスク

最大のデメリットは、登録料約25万円と年会費数万円という経済的負担です。業務を行わない期間の費用は完全な持ち出しとなります。

さらに、職場で行政書士登録が知られた場合、副業の疑いをかけられる可能性があります。実際には業務を行っていなくても、説明責任が生じたり、職場の信頼を損なうリスクがあります。特に許認可業務を担当している部署では、利益相反の疑念を持たれかねません。

現実的な判断

これらを総合すると、よほど急いで開業する必要がある場合を除き、退職後に登録する方が無難です。退職の2〜3ヶ月前から準備を始めれば、退職後すぐに登録完了させることは十分可能です。

公務員の配偶者が行政書士として開業する場合の注意点

公務員本人ではなく、配偶者が行政書士として開業するケースも考えられます。この場合の注意点を整理します。

法律上は問題なし

配偶者が行政書士として開業すること自体は、法律上何の問題もありません。配偶者の職業選択は自由であり、公務員の副業規定とは無関係です。

実質的な関与は禁止

ただし、公務員本人が配偶者の事業に実質的に関与すると、副業規定違反となる可能性があります。例えば、公務員が職務上知り得た情報を配偶者の行政書士業務に流用する、公務員が営業活動を手伝う、公務員の職権を利用して配偶者の業務を有利にするなどの行為は厳禁です。

利益相反への配慮

公務員が許認可業務を担当している場合、配偶者が同じ分野の行政書士業務を行うと、利益相反の疑念を招きます。例えば、建設業許可を審査する公務員の配偶者が、建設業許可申請を専門とする行政書士として開業すれば、公正性への疑問が生じます。

このような場合、配偶者は別の専門分野を選ぶか、公務員本人が異動するなどの配慮が望ましいでしょう。

家族経営の将来設計

退職後を見据えて、在職中から配偶者に行政書士資格を取得してもらい、退職後は夫婦で行政書士事務所を経営するという戦略も考えられます。配偶者が先に開業して基盤を作り、退職後に本人が参画するという形なら、スムーズに事業をスタートできます。

公務員退職後に行政書士として独立開業する完全ガイド

公務員を退職して行政書士として独立開業する場合の具体的な手順とポイントを解説します。

公務員退職後の行政書士開業が有利な3つの理由

公務員から行政書士へのキャリアチェンジには、他の職業から転身する場合にはない独自の強みがあります。

理由1:行政実務の深い理解

最大の強みは、行政の仕組みを内側から理解していることです。許認可申請の審査基準、行政手続きの実務、官公署の組織構造など、教科書では学べない実践的な知識を持っています。

クライアントが許認可申請で困っている場合、「この書類がなぜ必要なのか」「審査でどこが見られるのか」「不備があった場合の対応」などを、行政側の視点で説明できます。この説得力は、民間出身の行政書士にはない大きな武器です。

また、行政機関の担当者と対等に折衝できることも重要です。役所の窓口での手続きや電話での問い合わせにおいて、行政用語や手続きの流れを理解しているため、スムーズなコミュニケーションが可能です。

理由2:信頼性と安心感

「元公務員」という経歴は、クライアントに大きな安心感を与えます。特に中小企業の経営者や高齢者にとって、公務員出身という肩書きは誠実さや信頼性の証として認識されます。

許認可申請は会社の事業に直結する重要な手続きです。「役所のことをよく知っている人に頼みたい」というニーズは強く、公務員経験は受注の大きな武器になります。

理由3:安定した生活基盤

公務員は退職金と年金という経済的基盤があります。行政書士として開業当初は収入が不安定でも、年金があれば生活の不安が軽減されます。

特に定年退職後の開業であれば、「年金+行政書士収入」という組み合わせで、無理のない事業展開が可能です。売上目標に追われることなく、自分のペースで質の高いサービスを提供できます。

公務員経験を活かせる行政書士の専門分野

公務員出身者が特に強みを発揮できる専門分野を具体的に紹介します。

許認可業務全般

建設業許可、産業廃棄物処理業許可、飲食店営業許可、古物商許可など、許認可業務は公務員経験を最も活かせる分野です。審査する側の視点を持っているため、「どうすれば許可が下りやすいか」を的確にアドバイスできます。

特に地方自治体の条例に基づく許認可については、その自治体の実務経験がある方は圧倒的に有利です。条例の運用実態や過去の判断事例を知っているため、微妙なケースでも適切な対応が可能です。

補助金・助成金申請支援

国や地方自治体の補助金・助成金制度について、公募要領の読み方、申請書の書き方、審査のポイントを熟知しています。特に産業振興系の部署にいた方は、中小企業支援の補助金に詳しく、この分野で専門性を発揮できます。

補助金申請は年々複雑化しており、専門家のサポートを求める企業が増えています。公務員として補助金の審査や交付事務を経験していれば、申請者側に回っても高い成功率を実現できるでしょう。

農地関連業務

農業委員会での勤務経験がある方は、農地転用許可申請や農地法関連手続きで強みを発揮します。農地法は特殊な法律であり、実務経験者は少ないため、高い専門性として評価されます。

外国人在留資格

入国管理局や市区町村の外国人住民担当部署での経験がある方は、在留資格認定証明書交付申請、在留期間更新許可申請、在留資格変更許可申請などで専門性を発揮できます。

外国人雇用が増加する中、在留資格手続きの需要は拡大しています。入管法の実務を知っている公務員経験者は、この分野で大きなアドバンテージを持ちます。

契約書作成・会社設立

総務部門や契約担当部署での経験がある方は、契約書作成や会社設立支援で強みを活かせます。公的機関との契約実務を経験していれば、法的リスクを的確に指摘し、適切な契約書を作成できます。

公務員退職前にしておくべき準備|人脈・資金・知識

行政書士として成功するためには、退職前の準備が極めて重要です。在職中にできる準備を計画的に進めましょう。

人脈形成:最も重要な準備

行政書士の仕事の多くは紹介で成り立っています。退職前に構築した人脈が、開業後の顧客獲得に直結します。

まず、同僚・上司・部下との関係を良好に保ちましょう。退職後も相談できる関係を維持することで、実務上の疑問点を解決できます。また、公務員時代の同期や先輩で すでに退職して行政書士になった方がいれば、貴重なアドバイザーになります。

次に、民間企業との接点を大切にしましょう。許認可申請で窓口を訪れる事業者、補助金申請に来る企業、入札に参加する業者など、日々接する民間の方々は潜在的な顧客です。誠実な対応を心がけることで、退職後に相談が来る可能性があります。

さらに、地域の商工会議所や青年会議所、ロータリークラブなどの団体との関係も重要です。公務員として講演を依頼されたり、委員として参加する機会があれば、積極的に引き受けましょう。

資金準備:開業資金と生活費

行政書士の開業には、登録料約25万円、事務所費用、パソコンや備品、ホームページ制作費など、最低でも50〜100万円程度の初期投資が必要です。自宅開業であれば事務所費用は抑えられますが、看板や名刺などの必要経費は発生します。

さらに重要なのは、開業後1年間の生活費です。開業直後から十分な収入を得ることは難しく、最初の半年から1年は収入がほとんどないケースも珍しくありません。退職金の一部を開業資金と生活費として確保しておく必要があります。

年金受給年齢に達していれば、年金を生活費のベースとして、行政書士収入を追加収入と位置づけることで、精神的な余裕が生まれます。

知識とスキルの習得

公務員経験があっても、行政書士業務に必要な知識は多岐にわたります。在職中から以下の学習を進めておきましょう。

まず、自分が経験していない分野の法律知識を補強します。例えば、土木系の部署にいた方が会社法や相続法を学ぶ、福祉系の部署にいた方が建設業法を学ぶなど、業務範囲を広げるための学習が重要です。

次に、実務書式や申請書の書き方を研究します。行政書士会が発行する実務書籍や、先輩行政書士のブログなどで、実際の業務の流れを学びましょう。

また、ITスキルも重要です。ホームページの更新、SNSでの情報発信、電子申請システムの操作など、デジタルツールを使いこなす能力が求められます。在職中からWordPress、SNSマーケティング、電子申請などに慣れておくと有利です。

心構えと覚悟

公務員から独立開業への転身は、働き方や意識の大きな変化を伴います。組織の一員としての安定から、すべてを自分で決定し責任を負う立場への変化に対する心の準備が必要です。

安定した給料がなくなること、社会的信用が変わること、孤独な作業が増えることなど、ネガティブな側面も理解した上で、「それでも独立したい」という強い意志が必要です。

公務員退職後の行政書士開業の失敗パターンと対策

公務員から行政書士に転身した方の中には、残念ながら廃業してしまうケースもあります。典型的な失敗パターンと対策を知っておきましょう。

失敗パターン1:営業・集客ができない

最も多い失敗原因は、顧客を獲得できないことです。公務員時代は仕事が向こうからやってきましたが、行政書士は自分で営業して仕事を取る必要があります。

「良い仕事をすれば口コミで広がる」という考えは甘く、開業当初は積極的な営業活動が不可欠です。名刺配り、異業種交流会への参加、ホームページやSNSでの情報発信など、苦手でも取り組む必要があります。

対策としては、在職中から営業の練習をすることです。地域のイベントに参加する、商工会議所のセミナーに顔を出す、ブログで情報発信を始めるなど、小さなアクションを重ねて営業慣れしておきましょう。

失敗パターン2:価格設定が適切でない

公務員出身者は、「公務員だったから信頼してもらえるはず」と考え、相場よりも高い報酬を設定しがちです。しかし実際には、実績のない新人行政書士に高額報酬を払う顧客は少なく、案件が取れません。

逆に、安すぎる価格設定も問題です。「とにかく実績を作りたい」と格安で引き受けると、採算が合わず経営が成り立ちません。また、安い価格は「質が低い」というイメージにつながることもあります。

対策は、地域の相場を徹底的にリサーチすることです。同業者のホームページを確認したり、行政書士会で情報交換したりして、適正価格を把握しましょう。開業当初は相場の8割程度に設定し、実績ができたら徐々に上げていく戦略が現実的です。

失敗パターン3:専門分野を絞らない

「何でもやります」というスタンスは、一見間口が広そうですが、実際には専門性が伝わらず選ばれにくくなります。行政書士の業務範囲は広大で、すべてを高レベルでこなすことは不可能です。

対策は、自分の公務員経験を活かせる分野に特化することです。建設業許可、農地転用、外国人在留資格など、得意分野を明確にしてPRすることで、その分野で困っている人から選ばれやすくなります。

専門分野が明確であれば、ホームページやブログのコンテンツも作りやすく、SEO対策でも有利です。「〇〇市で建設業許可なら△△行政書士事務所」というポジションを確立できれば、安定した受注が見込めます。

失敗パターン4:公務員気質が抜けない

「お客様は待たせても平気」「書類の不備は相手の責任」「午後5時以降は対応しない」など、公務員的な対応は民間では通用しません。顧客満足度が低ければ、リピートも紹介も期待できません。

対策は、サービス業としての意識を持つことです。迅速なレスポンス、丁寧な説明、柔軟な対応時間など、顧客目線のサービスを心がけましょう。公務員時代の経験は武器ですが、態度までは持ち込まないことが重要です。

公務員から行政書士への転身について、さらに詳しくは行政書士開業の完全ガイドをご覧ください。

公務員から行政書士への転身|年収とキャリアの変化

公務員を辞めて行政書士になった場合、年収やライフスタイルはどう変化するのでしょうか。現実的なシミュレーションを見ていきましょう。

公務員と行政書士の平均年収比較

公務員と行政書士の年収を比較すると、それぞれ異なる特徴があります。

公務員の年収(安定型)

国家公務員の平均年収は約680万円、地方公務員は約660万円とされています(令和4年度データ)。年功序列で着実に昇給し、退職金も2,000万円前後が期待できます。

公務員の年収は安定性が最大の特徴です。不況でも給与が下がることはなく、ボーナスも確実に支給されます。50代後半になれば年収800〜900万円に達するケースも多く、長期的な生涯年収は高水準です。

行政書士の年収(変動型)

行政書士の平均年収は約551万円とされていますが、個人差が非常に大きいのが特徴です。年収200万円以下の方が約3割いる一方で、年収1,000万円を超える方も約1割存在します。

開業直後は年収100万円以下も珍しくありません。顧客開拓に時間がかかるため、最初の1〜2年は厳しい状況が続きます。しかし、専門分野を確立し、リピーター顧客を獲得できれば、3年目以降は安定した収入が見込めます。

年収比較表

項目公務員行政書士
平均年収約660万円約551万円
初年度年収約350万円(新卒)50-200万円(開業初年度)
50代年収700-900万円300-2,000万円(個人差大)
退職金約2,000万円なし(自己積立)
安定性★★★★★★★☆☆☆
上限1,000万円程度上限なし

年収の考え方

単純な金額比較では公務員の方が有利に見えますが、行政書士には上限がないという魅力があります。専門性を高め、法人顧客を獲得できれば、年収2,000万円以上も不可能ではありません。

また、定年退職後の公務員が行政書士を始める場合、「年金+行政書士収入」の組み合わせで考えるべきです。年金で生活費をカバーし、行政書士収入は付加価値として捉えれば、プレッシャーなく事業を展開できます。

公務員退職金を活用した行政書士開業資金計画

公務員の退職金は、行政書士開業の重要な資金源となります。計画的に活用しましょう。

退職金の金額(目安)

国家公務員・地方公務員ともに、定年退職の場合の退職金は約2,000万円前後が平均です。勤続年数や最終職位によって異なりますが、30年以上勤務すれば1,800〜2,500万円程度が期待できます。

早期退職の場合は減額されます。例えば25年勤務での退職では約1,200〜1,500万円、20年勤務では800〜1,000万円程度になります。

開業資金の配分計画

退職金のすべてを開業資金に充てるのは危険です。以下のような配分が現実的でしょう。

生活予備費(50%):1,000万円を生活費として確保します。開業後2年間は収入が不安定なため、この期間の生活費をカバーできる金額が必要です。月30万円×24ヶ月=720万円が最低ラインですが、余裕を持って1,000万円程度を確保すると安心です。

開業資金(10%):200万円を開業初期費用に充てます。登録料25万円、事務所設備50万円、ホームページ制作30万円、名刺・パンフレット20万円、備品・ソフトウェア50万円、予備費25万円という配分が目安です。

運転資金(10%):200万円を開業後1年目の運転資金とします。広告宣伝費、交通費、交際費、研修費などの経費をカバーします。

老後資金(30%):600万円は手をつけず、老後資金として確保します。行政書士事業が軌道に乗らなかった場合のセーフティネットとして重要です。

自宅開業でコストを抑える戦略

開業当初は自宅を事務所にすることで、大幅にコストを削減できます。賃貸事務所を借りると月10〜20万円かかりますが、自宅なら家賃は不要です。

ただし、自宅開業には限界もあります。顧客を事務所に呼びにくい、住所を公開したくない、家族の理解が必要などの課題があります。売上が安定してきたら、レンタルオフィスや小規模事務所に移転することも検討しましょう。

公務員年金と行政書士収入の両立可能性

定年退職後に行政書士を開業する場合、年金と事業収入の両立が可能です。税制や社会保険の扱いを理解しておきましょう。

年金受給への影響

65歳以降の老齢年金は、事業収入があっても減額されません。行政書士として年収1,000万円を得ても、年金は満額受給できます。これは個人事業主としての収入であり、給与所得ではないためです。

60歳から65歳までの特別支給の年金(経過措置)については、給与所得がある場合は減額される可能性がありますが、事業所得の場合は基本的に減額されません。

社会保険の扱い

公務員を退職すると、共済組合から国民健康保険・国民年金に切り替わります。行政書士として収入を得る場合、国民健康保険料は所得に応じて計算されます。年収500万円の場合、保険料は年間50〜70万円程度が目安です。

国民年金は定額で、令和6年度は月16,980円です。ただし60歳以上で受給資格を満たしている場合は、加入義務はありません。

確定申告と税金

行政書士の収入は事業所得として確定申告が必要です。年金収入と事業所得を合算して所得税・住民税が計算されます。

例えば、年金200万円+行政書士収入300万円(経費控除後)=合計所得500万円の場合、所得税・住民税合わせて年間約60万円が目安です。青色申告を選択すれば65万円の特別控除が受けられ、税負担を軽減できます。

現実的なキャッシュフロー例(65歳開業)

年金収入:月18万円(年216万円)
行政書士収入:月30万円(年360万円、経費控除前)
経費:年120万円(行政書士会費、通信費、交通費など)
事業所得:年240万円
合計収入:年456万円
税金・保険料:年50万円
手取り:年406万円(月約34万円)

このように、年金と行政書士収入を合わせれば、十分な生活が可能です。

公務員から行政書士で年収を上げるための戦略

公務員時代の年収を維持・向上させるための具体的な戦略を紹介します。

戦略1:法人顧客の獲得

個人顧客だけでは大きな年収は期待できません。法人顧客、特に顧問契約を結べる企業を獲得することが年収アップの鍵です。

建設業許可の更新を毎年依頼される、外国人雇用の在留資格手続きを継続的に受注する、会社設立から許認可まで一貫してサポートするなど、リピート性の高い業務を確保しましょう。

月額3〜5万円の顧問契約を10社と結べば、それだけで年収360〜600万円の安定収入になります。

戦略2:高単価業務への特化

すべての業務が同じ報酬というわけではありません。高単価業務に特化することで、効率的に年収を上げられます。

例えば、建設業許可申請(知事許可)の報酬相場は10〜15万円、農地転用許可申請は8〜12万円、外国人在留資格認定証明書交付申請は5〜10万円程度です。これらの許認可業務は公務員経験を活かしやすく、かつ高単価です。

逆に、遺言書作成(3〜5万円)や車庫証明(1〜2万円)などの業務は単価が低く、件数をこなす必要があります。自分の得意分野と報酬単価のバランスを考えて選択しましょう。

戦略3:専門性のブランド化

「〇〇市で建設業許可なら〇〇行政書士」という専門家としてのポジションを確立できれば、価格競争に巻き込まれず、高い報酬を維持できます。

ホームページやブログで専門分野の情報を発信し、セミナーや勉強会を開催することで、専門家としての認知度を高めましょう。公務員経験を前面に出し、「元〇〇市役所職員で建設業許可に20年携わった専門家」という肩書きは、強力な差別化要因になります。

戦略4:ダブルライセンスの活用

行政書士だけでなく、他の資格と組み合わせることで業務範囲が広がり、年収アップにつながります。

社会保険労務士とのダブルライセンスなら、会社設立から人事労務までワンストップでサポートできます。ファイナンシャルプランナー資格があれば、相続手続きと相続税対策を組み合わせた提案が可能です。

行政書士のダブルライセンスについて詳しく知りたい方は、専門ページをご覧ください。

行政書士の年収については、行政書士の年収の実態で詳しいデータと分析を紹介しています。

公務員経験者が行政書士として成功する専門分野5選

公務員出身の行政書士が特に強みを発揮できる専門分野を、具体的な業務内容と成功のポイントとともに紹介します。

許認可業務|官公署との折衝経験を最大限に活かす

許認可業務は、公務員経験を最も直接的に活かせる分野です。審査する側の視点を持っているため、申請書類の作成から折衝まで、他の行政書士にはない強みを発揮できます。

主な業務内容

建設業許可(新規・更新・業種追加)、宅地建物取引業免許申請、産業廃棄物処理業許可、古物商許可、飲食店営業許可、風俗営業許可など、事業を始めるために必要な各種許認可の申請代行が主な業務です。

特に建設業許可は需要が大きく、報酬も10〜20万円と高単価です。公務員として建設業許可の審査に携わった経験があれば、どのような書類が求められるか、どの程度の実績が必要か、どのタイミングで申請すべきかなど、実践的なアドバイスができます。

公務員経験の活かし方

審査基準の深い理解:条文だけでなく、実際の運用や判断のグレーゾーンを知っています。「この場合は柔軟に対応してもらえる」「ここは厳格に審査される」といった微妙なニュアンスを理解しているため、申請成功率が高まります。

窓口折衝のスムーズさ:役所の担当者と対等にコミュニケーションできます。事前相談の段階で的確な質問ができ、必要な書類を漏れなく準備できます。また、行政用語や内部手続きを理解しているため、担当者との信頼関係も築きやすいでしょう。

書類作成の正確性:行政文書の書き方を熟知しているため、形式面でも内容面でも完成度の高い申請書を作成できます。不備による差し戻しが少なく、クライアントの時間コストを削減できます。

成功のポイント

自分が経験した許認可に特化することが重要です。20年以上建設業許可を担当していたなら、「建設業許可専門」として打ち出すことで、高い専門性をアピールできます。経験していない分野に手を広げすぎると、強みが薄れてしまいます。

また、地域密着型の営業が効果的です。自分が勤務していた自治体で開業すれば、その自治体の独自ルールや担当者の傾向を知っているという強力な武器になります。

建設業許可|土木・建築系公務員の強み

建設業許可は、公務員経験者にとって最も取り組みやすく、需要も大きい専門分野です。

業務の具体的内容

建設業許可には、知事許可(1つの都道府県内のみで営業)と大臣許可(複数の都道府県で営業)があり、さらに一般建設業と特定建設業の区別があります。新規申請、更新申請(5年ごと)、業種追加、許可換え、各種変更届など、継続的な業務が発生します。

申請には、経営業務管理責任者の要件確認、専任技術者の要件確認、財産的基礎の証明、欠格要件の非該当証明など、複雑な書類が必要です。さらに、決算変更届を毎年提出する必要があり、顧問契約につながりやすい分野です。

土木・建築系公務員の強み

都道府県や政令市の建設業許可担当部署で働いていた方は、審査の実務を知り尽くしています。「この経歴なら経営業務管理責任者として認められる」「この資格なら専任技術者の要件を満たす」といった判断を的確にできます。

また、建設業法の改正情報にも詳しく、最新の要件変更に対応できます。令和2年の建設業法改正では、経営業務管理責任者の要件が大きく変わりましたが、こうした変更にいち早く対応できることは大きなアドバンテージです。

報酬相場と収益性

知事許可新規申請:10〜15万円
大臣許可新規申請:15〜25万円
更新申請:5〜8万円
業種追加:7〜10万円
決算変更届(年次):3〜5万円

顧問契約として月額1〜2万円で決算変更届と変更届をセットにする契約も一般的です。建設業許可業者は全国に約47万社あり、市場規模は大きく、安定した収入源となります。

農地転用|農業委員会経験者の専門性

農地転用は特殊な分野であり、実務経験者が少ないため、高い専門性として評価されます。

業務内容

農地を宅地や駐車場、資材置き場などに転用する際には、農地法に基づく許可が必要です。市街化区域内の農地は届出、市街化調整区域内の農地は許可申請となり、手続きが異なります。

4ヘクタール以下の転用は都道府県知事の許可、4ヘクタール超は農林水産大臣の許可が必要です。また、農地の売買自体にも農業委員会の許可が必要であり、関連業務は多岐にわたります。

農業委員会経験の価値

農業委員会で農地転用の審査や農地パトロールを経験していた方は、どのような転用が認められやすいか、立地基準や一般基準の判断ポイント、農地区分の判定方法などを実務レベルで理解しています。

特に市街化調整区域での転用許可は判断が難しく、専門知識が求められます。「この場所なら転用できる可能性が高い」「この用途では許可は難しい」といったアドバイスは、土地の購入前の段階で非常に価値があります。

地域密着型ビジネスモデル

農地転用は地域性が強く、その地域の農業委員会での勤務経験は絶対的な強みになります。地元の農家や不動産業者との信頼関係を活かして、紹介ベースで仕事を獲得できます。

報酬相場は農地転用許可申請で8〜15万円、農地売買の許可申請で5〜10万円程度です。農村部では需要が継続的にあり、安定した収入源となります。

外国人在留資格|入管業務経験者のアドバンテージ

外国人在留資格に関する業務は、近年需要が急増している分野です。入国管理局や市区町村の外国人住民担当部署での経験は大きな武器になります。

業務内容

在留資格認定証明書交付申請(海外から外国人を呼び寄せる)、在留期間更新許可申請、在留資格変更許可申請、永住許可申請、帰化許可申請など、外国人が日本で生活・就労するための各種手続きをサポートします。

特に就労ビザ(技術・人文知識・国際業務、技能、特定技能など)と身分系ビザ(配偶者、定住者など)の需要が大きく、企業からの依頼も多い分野です。

入管業務経験の強み

入国管理局で審査業務を経験していた方は、どのような書類が必要か、どのような経歴なら許可されやすいか、不許可事例のパターンなどを熟知しています。特に就労ビザの審査は個別判断が多く、実務経験の価値は非常に高いでしょう。

市区町村で外国人住民の窓口対応をしていた方は、在留カードの読み方、住民票の扱い、外国人特有の手続きに精通しています。この知識は、在留資格申請に必要な添付書類を正確に準備する上で役立ちます。

成長市場としての魅力

日本の外国人労働者は増加傾向にあり、特定技能制度の拡大により今後も需要の増加が見込まれます。技能実習生の受入企業、外国人を雇用する飲食店や介護施設などが主要なクライアントとなります。

報酬相場は、在留資格認定証明書交付申請で8〜12万円、在留期間更新許可申請で3〜5万円、永住許可申請で15〜20万円程度です。企業と顧問契約を結び、雇用する外国人全員の手続きを一括して受託する形も可能です。

補助金申請支援|行政の仕組みを熟知した強み

補助金・助成金申請支援は、行政の仕組みを知っている公務員経験者が有利な分野です。

業務内容

国や地方自治体が実施する各種補助金制度について、要件確認、申請書作成、事業計画書作成、実績報告書作成などをサポートします。IT導入補助金、ものづくり補助金、事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など、中小企業向けの補助金が主な対象です。

補助金は公募期間が限られており、申請書の完成度が採択を左右します。事業計画の策定支援から申請書の作成まで、総合的なサポートが求められます。

公務員経験の活かし方

産業振興系の部署で補助金の審査や交付事務を担当していた方は、「どのような事業計画が高評価を得るか」「審査で重視されるポイント」「不採択になりやすいパターン」を理解しています。

公募要領の読み解き方、行政の意図の理解、審査員の視点など、申請者側からは見えにくい部分を知っていることは大きな強みです。また、補助金の財源や政策目的を理解しているため、採択されやすい提案ができます。

報酬体系と収益性

補助金申請支援の報酬は、完全成功報酬型と着手金+成功報酬型があります。完全成功報酬の場合、補助金額の10〜15%が相場です。例えば、500万円の補助金が採択されれば、50〜75万円の報酬となります。

着手金型の場合は、申請書作成の着手金として10〜30万円を受け取り、採択されればさらに補助金額の5〜10%を成功報酬として受け取る形が一般的です。

高額補助金(1,000万円以上)の案件を受注できれば、1件で100万円以上の報酬になることもあります。ただし、不採択のリスクもあるため、複数案件を並行して進めることが重要です。

【FAQ】行政書士と公務員に関するよくある質問

公務員から行政書士へのキャリアチェンジに関して、よく寄せられる質問に回答します。

公務員は何年勤務すれば行政書士資格を無試験で取得できる?

公務員として行政事務に従事した期間が通算17年以上あれば、行政書士試験を受けずに資格を取得できます。ただし、都道府県知事・市町村長またはこれに準ずる職(副知事、副市長、部長級)に通算3年以上就いていた場合という条件があります。

管理職経験がない一般の公務員の場合は、通算20年以上の勤務が必要です。この年数には、行政事務に従事していた期間のみがカウントされ、休職期間や現業業務の期間は含まれません。

複数の機関を異動している場合でも、すべての期間を通算できます。国家公務員から地方公務員に転職した場合や、異なる都道府県で勤務した場合でも、各機関での行政事務従事期間を合計して計算されます。

自分が要件を満たしているか不明な場合は、開業予定地の行政書士会に事前相談することをお勧めします。勤務証明書の写しを持参すれば、要件該当性を確認してもらえます。

現役公務員が行政書士として副業することは可能?

現役公務員が行政書士として副業することは、原則として不可能です。国家公務員法第103条・第104条、地方公務員法第38条により、公務員は営利企業への従事や営利業務の運営が制限されています。

行政書士として報酬を得て業務を行うことは、これらの規定に抵触します。任命権者の許可を得れば理論上は可能ですが、行政書士のような独立性の高い業務について許可が下りることは極めて稀です。

ただし、資格を取得すること自体や行政書士会に登録すること自体は禁止されていません。在職中に試験に合格したり、特認制度の要件を満たして資格を取得したりすることは問題ありません。実際に報酬を得て業務を行うのは退職後になります。

一部の自治体では副業規制を緩和する動きもありますが、行政書士のような許認可に関わる業務は、公務との利益相反が生じやすいため、許可の対象外とされるケースがほとんどです。

公務員が行政書士試験を受験することはできる?

はい、現役公務員でも行政書士試験を受験することは完全に可能です。行政書士試験には受験資格の制限がなく、年齢・学歴・職業を問わず誰でも受験できます。

公務員が試験を受験することについて、法律上の制限は一切ありません。自己啓発として資格取得を目指すことは推奨されており、職場に報告する義務もありません。

試験日は例年11月の第2日曜日で、休日に実施されるため、有給休暇を取得する必要もありません。ただし、試験勉強と日々の業務を両立させる時間管理は必要です。

試験に合格しても、在職中は行政書士業務を行うことはできません。資格取得は退職後のキャリアを見据えた準備として位置づけ、退職してから実際の業務を開始することになります。

行政書士の受験資格について、さらに詳しくは専門ページをご覧ください。

公務員を辞めずに行政書士登録だけすることは可能?

法律上は可能ですが、現実的には推奨されません。行政書士会への登録自体は、現役公務員でも手続きできます。しかし、登録しても在職中は業務を行えないため、以下のデメリットがあります。

まず、登録料約25万円と年会費数万円という経済的負担が発生します。業務を行わない期間の費用は完全な持ち出しです。

次に、職場で行政書士登録が知られた場合、副業の疑いをかけられる可能性があります。実際には業務を行っていなくても、説明責任が生じ、職場の信頼を損なうリスクがあります。特に許認可業務を担当している部署では、利益相反の疑念を持たれかねません。

在職中に登録するメリットは、退職後すぐに営業活動を開始できることと、行政書士会の研修や交流会に参加して人脈を作れることです。これらのメリットと上記のデメリットを比較して判断しましょう。

多くの公務員は、退職の2〜3ヶ月前から登録手続きを開始し、退職後に登録が完了するようスケジュールを組んでいます。この方法が最もリスクが少なく、現実的です。

公務員退職後すぐに行政書士として開業できる?

はい、退職後すぐに開業することは可能です。ただし、計画的な準備が必要です。

行政書士会への登録手続きには通常2〜3ヶ月かかります。したがって、退職予定日の2〜3ヶ月前から登録申請を開始すれば、退職日には登録が完了し、すぐに営業活動を開始できます。

具体的なスケジュールは以下の通りです:

  • 退職3ヶ月前:必要書類(公務員職歴証明書など)の準備開始
  • 退職2ヶ月前:行政書士会へ登録申請
  • 退職1ヶ月前:審査完了、登録料支払い
  • 退職日:登録完了、名刺作成、営業開始

ただし「開業できる」ことと「すぐに収入を得られる」ことは別問題です。顧客開拓には時間がかかり、開業後半年から1年は収入が少ないことを覚悟する必要があります。退職金の一部を生活費として確保しておくことが重要です。

在職中から人脈形成、専門知識の習得、開業準備(ホームページ作成、名刺デザインなど)を進めておけば、退職後のスタートがスムーズになります。

公務員経験は行政書士試験で有利になる?

はい、特に行政法の科目で大きなアドバンテージがあります。公務員として日常的に行政手続法、行政不服審査法、地方自治法などに触れている方は、条文を実務として理解しているため、試験勉強の効率が大幅に向上します。

具体的な有利点は以下の通りです:

行政法:許認可業務や行政指導を担当していた方は、行政手続法の規定を実務で使っているため、暗記ではなく理解として定着しています。地方自治法についても、地方公務員なら日常業務で触れる機会が多く、有利です。

一般知識:行政の動向や政策に日常的に触れているため、時事問題で有利です。法改正や新しい制度の情報も、公務員の方が早くキャッチできます。

民法(部分的):契約事務を担当している方は、契約法分野で実務経験を活かせます。

ただし、公務員経験だけでは不十分な科目もあります。民法の相続法・親族法、商法・会社法などは、一般的な公務では触れる機会が少なく、体系的な学習が必要です。

全体として、公務員経験者は未経験者よりも100〜200時間程度学習時間を短縮できる可能性があります。ただし過信は禁物で、しっかりとした試験対策は必須です。

公務員から行政書士になって年収は下がる?

開業当初は下がるが、軌道に乗れば上がる可能性があるというのが現実です。

公務員の平均年収は約660万円で、50代になれば700〜900万円に達します。一方、行政書士の平均年収は約551万円ですが、個人差が非常に大きく、年収200万円以下の方が約3割、年収1,000万円以上の方が約1割という分布です。

開業初期(1〜2年目):年収100〜300万円程度が現実的です。顧客開拓に時間がかかるため、公務員時代の年収を大きく下回ります。この期間は退職金や貯蓄で生活費を補う必要があります。

軌道に乗った後(3年目以降):専門分野を確立し、リピーター顧客を獲得できれば、年収500〜800万円は十分可能です。さらに、法人顧客の顧問契約を複数獲得できれば、年収1,000万円以上も現実的になります。

定年退職後の開業の場合:年金収入があるため、「年金+行政書士収入」で考えるべきです。年金200万円+行政書士収入300〜500万円で、合計500〜700万円を確保できれば、十分なセカンドキャリアといえます。

重要なのは、単純な年収額だけでなく、働き方の自由度や やりがいも考慮することです。自分のペースで働ける、得意分野に特化できる、定年がない、などのメリットも大きな価値があります。

市役所職員でも行政書士の特認制度は使える?

はい、市役所職員も特認制度の対象です。国家公務員、都道府県職員、市区町村職員のいずれも、要件を満たせば特認制度を利用できます。

市役所職員の場合、行政事務に従事した期間が通算17年以上(一般職員は20年以上)あれば、無試験で行政書士資格を取得できます。「行政事務」に該当する業務は、戸籍・住民票関連業務、税務事務、福祉関連事務、都市計画事務、建築確認関連事務、許認可事務など、多岐にわたります。

ただし、現業職(清掃、給食調理、運転手など)や単純な窓口業務は行政事務に該当しないため、その期間はカウントされません。また、教育委員会に所属していても、学校での教員としての期間は行政事務には含まれませんが、教育委員会事務局での行政事務は含まれます。

自分の職歴が要件を満たしているか不明な場合は、人事担当部署に相談して勤務証明書を取得し、行政書士会に事前確認することをお勧めします。市役所での経験は、その市における許認可業務で大きな強みとなるため、地域密着型の開業戦略が有効です。

まとめ|公務員と行政書士のキャリア戦略

本記事では、公務員から行政書士へのキャリアチェンジについて、特認制度、兼業規定、退職後の開業、年収、専門分野まで詳しく解説しました。重要なポイントを3つの観点でまとめます。

公務員が行政書士資格を取得する最適なタイミング

在職中の準備が成功の鍵

公務員として17年または20年の勤務要件を満たせば、特認制度で無試験取得が可能です。しかし、要件を満たすまで待てない方や、より早くキャリアチェンジしたい方は、在職中に行政書士試験に挑戦する選択肢もあります。

試験勉強と業務の両立は大変ですが、公務員は定時退社しやすい職場も多く、計画的に学習時間を確保できれば合格は十分可能です。特に行政法は公務員経験が大きなアドバンテージとなります。

資格取得後も、在職中は実際の業務を行えないため、人脈形成、専門知識の深化、開業準備に時間を使いましょう。退職の2〜3ヶ月前から行政書士会への登録手続きを開始すれば、退職後すぐに営業活動を始められます。

公務員から行政書士への転身を成功させる3つのポイント

ポイント1:専門分野の特化

公務員経験を活かせる分野に特化することが成功の近道です。「何でもやります」では専門性が伝わりません。建設業許可、農地転用、外国人在留資格、補助金申請など、自分が実務で携わった分野を前面に出しましょう。

「元〇〇市役所で建設業許可を20年担当」という肩書きは、その分野で困っている人にとって非常に魅力的です。専門特化することで、価格競争に巻き込まれず、高い報酬を維持できます。

ポイント2:計画的な資金準備

開業後1〜2年は収入が不安定なため、退職金の一部を生活費として確保することが不可欠です。最低でも1年分の生活費(300〜400万円)は確保しましょう。

定年退職後の開業であれば、年金を生活費のベースとして、行政書士収入を付加価値として捉えることで、プレッシャーなく事業を展開できます。焦って低単価の仕事を受けるのではなく、質の高いサービスを提供することに集中できます。

ポイント3:継続的な営業活動

「良い仕事をすれば自然と広がる」という考えは甘く、積極的な営業活動が必須です。ホームページやブログでの情報発信、商工会議所などの交流会への参加、セミナー開催など、継続的に自分の存在を知ってもらう努力が必要です。

公務員時代に培った人脈も重要な営業資源です。同期や先輩、民間企業の担当者など、良好な関係を維持してきた方々は、退職後の顧客やリファラル元になる可能性があります。

公務員から行政書士へのキャリアチェンジは、実務経験という大きな武器を持ったスタートです。適切な準備と戦略があれば、充実したセカンドキャリアを築くことができます。本記事が、あなたのキャリア選択の一助となれば幸いです。

次のステップとして、行政書士の勉強時間と学習計画行政書士のおすすめ通信講座、そして行政書士開業の完全ガイドも併せてご確認ください。

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