土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスについて調べているあなたへ。「どちらの資格を先に取得すべきか」「本当に相性が良いのか」といった疑問は、両資格の業務特性と実務での連携を理解することで解決できます。本記事では、土地家屋調査士と行政書士の業務内容の違い、ダブルライセンスで広がる業務範囲、試験難易度と取得順序について、実際のデータと事例を交えて詳しく解説します。この情報をもとに、土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンス取得に向けて、具体的な一歩を踏み出しましょう。
この記事を読むとわかること
- 土地家屋調査士と行政書士の業務内容と管轄の違い
- ダブルライセンスで相性が良い理由と広がる業務
- 試験難易度の比較と効率的な取得順序
- ダブルライセンスによる収入アップの可能性と実例
押さえておきたい3つのポイント
- 業務の相互補完性:土地家屋調査士は不動産の表示登記を、行政書士は許認可申請を担当し、相続や農地転用などの業務で連携が不可欠です。一人で完結できるワンストップサービスを提供できることが最大の強みです。
- 民法の学習効率:両資格の試験科目に民法が含まれており、一方の資格取得で得た知識を活かせます。特に行政書士資格を先に取得すれば、土地家屋調査士試験の民法対策が有利になります。
- 収入の多様化:土地家屋調査士の測量・登記業務と行政書士の許認可業務を組み合わせることで、収入源が多様化し、年収アップの可能性が広がります。実際に両資格で活躍する専門家も増えています。
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土地家屋調査士と行政書士の違い|業務内容と管轄の比較
土地家屋調査士と行政書士は、どちらも不動産に関わる法律系の国家資格ですが、業務内容と管轄が大きく異なります。両資格の違いを正しく理解することは、ダブルライセンス取得を目指す上で最初のステップです。
土地家屋調査士の独占業務と役割
土地家屋調査士は、不動産の物理的状況を正確に調査・測量し、法務局に登記する専門家です。独占業務として、不動産の表示に関する登記の申請手続きを行います。
具体的な業務内容は以下の通りです。
- 土地の境界確定測量と境界標の設置
- 建物の新築・増築時の表題登記申請
- 土地の分筆・合筆登記の申請代理
- 地目変更登記の申請代理
- 建物の滅失登記や表題部変更登記
これらの業務は土地家屋調査士の独占業務であり、他の資格者では行うことができません。不動産の物理的な現況を法的に証明する役割を担っており、測量技術と法律知識の両方が求められます。
土地家屋調査士の仕事の特徴は、現地での測量作業が伴う点です。晴天時には屋外で測量機器を使用し、雨天時や冬季は事務所で図面作成や書類作成を行うという、デスクワークと現場作業を組み合わせた働き方になります。
土地家屋調査士の基本情報については、土地家屋調査士とはで詳しく解説しています。
行政書士の独占業務と役割
行政書士は、官公署に提出する書類の作成と申請代理を行う専門家です。独占業務として、許認可申請書類の作成および提出手続きを担当します。
行政書士の主な業務は以下の通りです。
- 建設業許可や宅地建物取引業免許などの許認可申請
- 農地転用許可申請の書類作成と申請代理
- 開発許可申請の書類作成と申請代理
- 会社設立時の定款作成と認証手続き
- 遺産分割協議書の作成
- 相続関連書類の作成と手続き支援
行政書士の業務範囲は非常に広く、官公署に提出する書類であれば、法令で制限されていない限り対応できます。その業務数は1万種類以上とも言われています。
行政書士の仕事の特徴は、書類作成が中心となる点です。依頼者との相談や役所への書類提出はありますが、土地家屋調査士のような現場での測量作業はなく、主に事務所でのデスクワークとなります。
土地家屋調査士と行政書士の管轄の違い
土地家屋調査士と行政書士の最も大きな違いは、管轄する法律と申請先です。
土地家屋調査士の管轄
土地家屋調査士は不動産登記法を主な根拠法として、法務局(登記所)を管轄します。不動産の物理的な現況を登記簿に記録することが業務の中心で、「表示登記」を専門に扱います。
測量業務を伴うため、測量法や公共測量作業規程なども関連法規となります。また、境界の確定には民法の知識も必要です。
行政書士の管轄
行政書士は行政書士法を根拠法として、国や地方自治体の各種行政機関を管轄します。許認可申請が業務の中心で、建設業法、宅地建物取引業法、農地法、都市計画法など、多数の法律が関連します。
業務によって提出先が異なり、建設業許可なら都道府県庁、農地転用なら農業委員会、開発許可なら市町村の開発審査課など、様々な行政機関に対応する必要があります。
両資格の比較表
| 項目 | 土地家屋調査士 | 行政書士 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 不動産登記法 | 行政書士法 |
| 主な管轄 | 法務局(登記所) | 各種行政機関 |
| 独占業務 | 表示登記の申請代理 | 許認可申請書類の作成・提出 |
| 関連法規 | 民法、測量法 | 建設業法、農地法、都市計画法など多数 |
| 現場作業 | あり(測量) | なし(主に書類作成) |
このように、土地家屋調査士と行政書士は業務内容と管轄が明確に分かれていますが、実務では両者が連携する場面が多く存在します。
土地家屋調査士の業務内容に関してもっと詳しい記事はこちら
土地家屋調査士の仕事内容とは?業務範囲・働き方・キャリアパスを詳しく解説
土地家屋調査士と行政書士がダブルライセンスで相性が良い理由
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスは、実務面で高い相性を持つ組み合わせとして知られています。両資格の業務が前後関係で連携し、顧客にワンストップサービスを提供できることが最大の理由です。
不動産業務での連携が不可欠
不動産に関する業務では、土地家屋調査士と行政書士の連携が不可欠な場面が多く存在します。一つの案件で両方の専門知識が必要となるケースが頻繁にあるためです。
例えば、新築住宅を建てる場合を考えてみましょう。まず、建築確認申請(行政書士の業務範囲)を行い、建物完成後に建物表題登記(土地家屋調査士の独占業務)を行う必要があります。この流れで、行政書士と土地家屋調査士の両方が関わります。
また、土地を購入して建物を建てる際には、以下のような流れになります。
- 開発許可申請(行政書士)
- 土地の分筆登記(土地家屋調査士)
- 建築確認申請(行政書士)
- 建物表題登記(土地家屋調査士)
このように、一連の流れの中で両資格の業務が交互に必要となります。ダブルライセンスを持っていれば、顧客は一人の専門家に全てを任せられるため、窓口が一本化され、手続きがスムーズに進みます。
不動産業務における両資格の連携は、顧客満足度を高めるだけでなく、業務効率の向上にもつながります。
業務の前後関係で相互補完できる
土地家屋調査士と行政書士の業務は、時系列的に前後関係にあることが多く、自然な流れで相互補完できます。
土地家屋調査士→行政書士の流れ
土地の境界確定や分筆を行った後、その土地で農地転用や開発許可が必要となるケースがあります。この場合、土地家屋調査士が測量と登記を完了した後、行政書士が許認可申請を行うという流れになります。
例えば、農地を宅地に転用して建物を建てる場合:
- 土地家屋調査士が境界確定測量を実施
- 土地家屋調査士が分筆登記を申請
- 行政書士が農地転用許可申請を代理
- 建築確認申請(必要に応じて行政書士が対応)
- 建物完成後、土地家屋調査士が表題登記を申請
行政書士→土地家屋調査士の流れ
相続案件では、行政書士が遺産分割協議書を作成した後、土地家屋調査士が相続した不動産の分筆や地目変更を行うケースがあります。
例えば、相続不動産を複数の相続人で分割する場合:
- 行政書士が遺産分割協議書を作成
- 司法書士が相続登記(権利登記)を申請
- 土地家屋調査士が土地を分筆
- 再度司法書士が権利登記を実施
このように、一つの案件の中で両資格の業務が段階的に必要となることが多いのです。ダブルライセンスを持っていれば、顧客にとって「次はあの専門家、その次はこの専門家」と複数の窓口を探す手間がなくなります。
土地家屋調査士と行政書士の実務での協力関係
実務の現場では、土地家屋調査士と行政書士は緊密に協力する関係にあります。単独で資格を持つ専門家同士でも、互いに紹介し合う協力関係が構築されています。
土地家屋調査士が測量・登記業務を受注した際、許認可が必要なケースでは行政書士を紹介します。逆に、行政書士が許認可申請を受注した際、測量や登記が必要なケースでは土地家屋調査士を紹介します。
この紹介関係は、顧客にとって信頼できる専門家ネットワークを提供する意味で重要です。しかし、複数の専門家が関わることで、以下のような課題も生じます。
- 連絡の行き違いや情報伝達のミス
- 全体のスケジュール管理の複雑化
- 各専門家への個別の説明や打ち合わせの負担
- トータルでの費用感が見えにくい
ダブルライセンスを持つ専門家であれば、これらの課題を解消できます。一人で全体を把握し、スケジュール管理を行い、顧客に対してワンストップでサービスを提供できるのです。
また、業務の前後関係を理解しているため、先を見越した提案ができます。例えば、分筆登記の相談を受けた際に、「その後、農地転用許可が必要になりますね。一緒に対応できます」と提案できるのは、ダブルライセンスならではの強みです。
土地家屋調査士と行政書士がダブルライセンスで相性が良い理由に関してもっと詳しい記事はこちら
土地家屋調査士とは?資格の仕事内容・試験制度・取得メリットを徹底解説
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスで広がる業務
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスを取得することで、単独資格では対応できない幅広い業務に対応できます。特に相続、農地転用、開発許可の分野で強みを発揮します。
相続・遺産分割業務でのワンストップサービス
相続業務は、土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスが最も威力を発揮する分野の一つです。相続には様々な手続きが必要で、複数の専門家が関わることが一般的ですが、ダブルライセンスを持つことで対応範囲が大きく広がります。
相続業務での具体的な対応範囲
相続が発生した際の一般的な流れと、各資格での対応可能業務は以下の通りです。
- 相続人の調査と確定(行政書士)
- 戸籍謄本の取得と相続人の特定
- 相続関係説明図の作成
- 遺産分割協議書の作成(行政書士)
- 相続人間の協議内容の取りまとめ
- 法的に有効な遺産分割協議書の作成
- 不動産の現況調査(土地家屋調査士)
- 相続不動産の現地調査と測量
- 境界の確認と境界標の確認
- 未登記建物の確認
- 不動産の分筆(土地家屋調査士)
- 相続人ごとに土地を分割する場合の分筆登記
- 分筆に伴う測量と図面作成
- 地目変更(土地家屋調査士)
- 実際の地目と登記上の地目が異なる場合の変更登記
相続業務では、司法書士(権利登記を担当)との連携も重要です。土地家屋調査士・行政書士のダブルライセンスを持ち、さらに司法書士と提携していれば、相続に関する手続きのほぼ全てをワンストップで提供できます。
ワンストップサービスのメリット
相続人にとって、複数の専門家を探して個別に依頼する負担は大きいものです。ダブルライセンスを持つ専門家が窓口になることで、以下のメリットがあります。
- 相続全体の流れを一人の専門家が把握し、適切なタイミングで必要な手続きを提案
- 各専門家への個別説明の手間が省ける
- トータルコストが把握しやすい
- 手続きの抜け漏れリスクが減少
相続は感情的な負担も大きい出来事です。信頼できる一人の専門家に任せられることは、相続人の心理的負担の軽減にもつながります。
農地転用業務での一貫対応
農地転用業務は、土地家屋調査士と行政書士の両方の専門知識が必要となる典型的な業務です。農地を宅地や駐車場などに転用する際には、複数の段階を経る必要があります。
農地転用の一般的な流れ
- 現況確認と測量(土地家屋調査士)
- 農地の境界確定測量
- 転用予定地の面積確定
- 隣接地との境界確認
- 農地転用許可申請(行政書士)
- 農地法に基づく許可申請書類の作成
- 農業委員会への申請代理
- 都道府県知事許可(4条・5条転用)の取得
- 地目変更登記(土地家屋調査士)
- 農地転用許可取得後の地目変更
- 「畑」「田」から「宅地」「雑種地」などへの変更登記
- 分筆が必要な場合(土地家屋調査士)
- 農地の一部のみを転用する場合の分筆登記
- 分筆測量と図面作成
農地転用業務でのダブルライセンスの強み
農地転用業務では、行政書士が許可申請を行う際に、土地家屋調査士の測量知識が大いに役立ちます。許可申請には正確な測量図面が必要であり、自ら測量できることで以下のメリットがあります。
- 申請図面の正確性が高まり、許可が下りやすい
- 外部の測量業者に依頼する時間とコストを削減
- 申請から登記までの一貫したスケジュール管理が可能
また、農地転用許可の要件として、転用後の利用計画の妥当性が審査されます。土地家屋調査士として測量の実務経験があれば、実現可能な利用計画を提案できるため、許可取得の成功率が高まります。
農地転用業務は地方部で需要が高く、農地を相続した都市部在住者からの相談も増えています。ダブルライセンスを持つことで、このニーズに的確に応えられます。
開発許可業務での専門性向上
都市計画法に基づく開発許可業務も、土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスが活きる分野です。一定規模以上の土地開発を行う際には、開発許可が必要となります。
開発許可業務の流れ
- 開発予定地の現況調査(土地家屋調査士)
- 開発予定地の測量
- 周辺道路や水路などのインフラ確認
- 高低差の測量(造成計画の基礎データ)
- 開発許可申請(行政書士)
- 都市計画法に基づく申請書類の作成
- 開発行為許可申請の代理
- 市町村開発審査課との協議
- 開発に伴う登記(土地家屋調査士)
- 開発前の土地の分筆(必要に応じて)
- 開発後の地目変更
- 造成後の建物表題登記
開発許可業務の特殊性
開発許可業務は、単なる書類作成ではなく、技術的な判断が求められる高度な業務です。以下のような専門知識が必要となります。
- 造成計画の妥当性判断(排水計画、擁壁の必要性など)
- 接道要件の確認(建築基準法との関係)
- 周辺インフラとの整合性確認(道路幅員、水道管の有無など)
土地家屋調査士として測量の実務経験があれば、これらの技術的判断をより正確に行えます。逆に、行政書士として都市計画法の許可要件を熟知していれば、測量段階から許可要件を満たすデータを取得できます。
開発許可業務は報酬額も高めに設定されることが多く、ダブルライセンスによる専門性の高さをアピールできれば、大型案件の受注につながります。
土地家屋調査士から行政書士へのネットワーク拡大
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスは、業務範囲の拡大だけでなく、顧客ネットワークの拡大にも寄与します。
土地家屋調査士として活動していると、主な顧客は不動産オーナーや建設業者、司法書士となります。これに行政書士資格を加えることで、以下のような新たな顧客層にアプローチできます。
- 建設業許可を必要とする建設業者
- 農地転用を検討する農家や相続人
- 開発事業を行う不動産デベロッパー
- 会社設立を考える起業家
- 相続手続きを必要とする一般個人
特に、建設業許可は毎年の決算変更届など継続的な業務があり、安定した収入源となります。土地家屋調査士として建設業者との接点がある場合、建設業許可の更新や新規取得の相談を受けることができ、業務の幅が一気に広がります。
また、行政書士業務を通じて得た顧客から、測量や登記の依頼を受けるケースも増えます。例えば、会社設立の相談を受けた起業家が、事業用の土地取得に伴い測量や登記が必要となるケースです。
このように、両資格を持つことで顧客との接点が増え、一つの相談から複数の業務受注につながる好循環が生まれます。
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスで広がる業務に関してもっと詳しい記事はこちら
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土地家屋調査士と行政書士の試験難易度と民法の共通点
土地家屋調査士と行政書士の試験は、どちらも国家資格試験として一定の難易度がありますが、合格率や試験科目に違いがあります。特に注目すべきは、両試験に民法が含まれている点です。
土地家屋調査士試験と行政書士試験の合格率比較
土地家屋調査士試験と行政書士試験の合格率を比較すると、それぞれの試験の特徴が見えてきます。
土地家屋調査士試験の合格率
土地家屋調査士試験の合格率は、例年9%前後で推移しています。2023年度の合格率は10.47%でした(法務省発表データ)。合格者数は年間400名程度に抑えられており、競争試験の性格が強い試験です。
試験は筆記試験(午前の部・午後の部)と口述試験の2段階で構成されています。午前の部は測量士補資格を持っていれば免除されるため、多くの受験者が測量士補を先に取得して午前の部免除を利用しています。
行政書士試験の合格率
行政書士試験の合格率は、例年10%~15%程度で推移しています。2023年度の合格率は13.98%でした。合格基準点は300点満点中180点以上(60%以上)で、基準点を超えれば合格できる絶対評価方式です。
行政書士試験は年1回の実施で、試験科目は「行政書士の業務に関し必要な法令等」と「行政書士の業務に関連する一般知識等」に分かれています。
合格率の比較表
| 試験名 | 合格率(2023年度) | 合格基準 | 試験方式 |
|---|---|---|---|
| 土地家屋調査士 | 10.47% | 相対評価(上位約400名) | 筆記+口述 |
| 行政書士 | 13.98% | 絶対評価(60%以上) | 筆記のみ |
数字だけを見ると行政書士試験の方が合格率がやや高いですが、一概にどちらが簡単とは言えません。土地家屋調査士試験は作図問題があり、測量の実技的要素が含まれるため、法律知識だけでは合格できません。一方、行政書士試験は幅広い法律知識が求められます。
土地家屋調査士試験の民法は行政書士資格者に有利
土地家屋調査士試験と行政書士試験の両方に民法が試験科目として含まれており、これがダブルライセンス取得において大きなアドバンテージとなります。
土地家屋調査士試験における民法
土地家屋調査士試験の午後の部では、民法が出題されます。出題形式は択一式(多肢択択一式)で、主に以下の分野が中心となります。
- 物権法(特に不動産に関する物権)
- 相隣関係(民法209条~238条)
- 共有(民法249条~264条)
- 地役権(民法280条~294条)
- 時効(取得時効、消滅時効)
土地家屋調査士試験の民法は、不動産に関する分野に特化しており、出題範囲は行政書士試験と比べて狭いと言えます。しかし、不動産関連の条文や判例については深い理解が求められます。
行政書士試験における民法
行政書士試験の民法は、土地家屋調査士試験よりも出題範囲が広く、以下の分野から出題されます。
- 総則(法律行為、意思表示、代理など)
- 物権法(所有権、占有権、用益物権、担保物権)
- 債権総論(債権の効力、多数当事者の債権関係など)
- 債権各論(契約、不法行為など)
- 家族法(相続、親族)
行政書士試験の民法は、5問程度出題され、基礎的な理解から応用的な判例問題まで幅広く問われます。
行政書士資格者が土地家屋調査士試験で有利な理由
行政書士試験で民法を学習した経験がある人は、土地家屋調査士試験の民法対策で以下の点で有利になります。
- 基礎知識が既に身についている
- 民法の基本的な概念や用語を理解済み
- 条文の読み方や解釈方法を習得済み
- 学習時間を大幅に短縮できる
- 土地家屋調査士試験の民法は不動産分野に特化しているため、既習範囲の復習と不動産特化の深掘りで対応可能
- 民法にかける学習時間を減らし、測量・書式問題に時間を割ける
- 判例の理解がスムーズ
- 行政書士試験で判例学習の方法を身につけているため、土地家屋調査士試験の判例問題にも対応しやすい
実際に、行政書士資格を既に持っている人が土地家屋調査士試験に挑戦する場合、民法の学習時間を100~150時間程度削減できると言われています。
土地家屋調査士試験の科目については、土地家屋調査士試験の科目一覧で詳しく解説しています。
行政書士から土地家屋調査士へのステップアップ
行政書士資格を先に取得してから土地家屋調査士試験に挑戦するルートは、学習効率の面で理にかなっています。
行政書士→土地家屋調査士のメリット
- 民法の学習負担が軽減される
- すでに述べたように、民法の基礎知識を活用できる
- 法律学習の基礎が身についている
- 条文の読み方、判例の理解方法、法的思考力が身についている
- 土地家屋調査士試験の不動産登記法の学習がスムーズに進む
- 受験勉強の進め方を理解している
- 国家資格試験の勉強方法を経験済み
- 時間管理や学習計画の立て方を把握している
- 合格後の業務展開がスムーズ
- 行政書士として既に事務所を構えている場合、そのまま土地家屋調査士業務を追加できる
- 顧客基盤を活かして土地家屋調査士業務を展開できる
土地家屋調査士→行政書士のメリット
逆に、土地家屋調査士資格を先に取得してから行政書士試験に挑戦するルートもあります。このルートのメリットは以下の通りです。
- 測量実務を経験してから許認可業務に進める
- 土地家屋調査士として実務経験を積むことで、不動産の実態を理解した上で許認可申請に携われる
- 民法の知識を活用できる
- 土地家屋調査士試験で学んだ民法の知識が行政書士試験でも役立つ
- 不動産分野の専門性を強化できる
- 土地家屋調査士として不動産の専門家というポジションを確立した後、行政書士資格を加えることで専門性をさらに高められる
どちらのルートを選ぶかは、現在の状況や将来のキャリアプランによって異なります。一般的には、行政書士試験の方が測量技術が不要で法律学習に特化できるため、先に行政書士資格を取得する人が多い傾向にあります。
土地家屋調査士試験の難易度に関してもっと詳しい記事はこちら
土地家屋調査士試験の難易度|他資格との比較と合格への道筋
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンス取得の順序
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスを目指す場合、どちらの資格を先に取得するかは重要な検討事項です。それぞれの順序にメリットがあり、自身の状況に合わせて選択する必要があります。
行政書士から土地家屋調査士を目指すメリット
行政書士資格を先に取得してから土地家屋調査士試験に挑戦するルートは、多くの受験者に推奨されるアプローチです。
学習面でのメリット
行政書士試験で法律学習の基礎を固めてから土地家屋調査士試験に進むことで、以下のメリットがあります。
- 法律学習の土台ができる
- 民法を中心に法律の基本的な考え方を習得
- 条文の読み方、判例の理解方法を身につける
- 法律用語に慣れることができる
- 土地家屋調査士試験の学習時間を短縮できる
- 民法の学習時間を100~150時間程度削減
- その分を測量・書式問題の学習に充てられる
- トータルの学習時間を効率化できる
- 学習リズムを維持できる
- 行政書士試験の学習習慣をそのまま継続
- 資格試験の勉強法を体得している
- モチベーション管理がしやすい
実務面でのメリット
行政書士として先に開業することで、以下の実務面でのメリットが得られます。
- 早期に収入を得られる
- 行政書士として開業し、収入を確保しながら土地家屋調査士試験の勉強が可能
- 資格試験の受験費用や教材費を賄える
- 顧客基盤を構築できる
- 行政書士として許認可業務で顧客を獲得
- 土地家屋調査士資格取得後、既存顧客に測量・登記業務も提供できる
- 顧客からの紹介で業務が広がりやすい
- 事務所運営のノウハウを蓄積できる
- 行政書士として事務所運営を経験
- 土地家屋調査士業務を追加する際の負担が少ない
行政書士→土地家屋調査士ルートの注意点
このルートを選択する場合の注意点もあります。
- 測量技術の習得に時間がかかる
- 行政書士試験には測量が含まれないため、土地家屋調査士試験で初めて測量を学ぶことになる
- 作図問題の練習に十分な時間を確保する必要がある
- 午前の部免除のために測量士補が必要
- 土地家屋調査士試験の午前の部免除を受けるには、測量士補資格の取得が推奨される
- 測量士補試験(合格率30%前後)の対策も必要
行政書士試験については、独学でも合格可能と言われていますが、土地家屋調査士試験は作図問題があるため、予備校の利用を検討する人が多いです。
土地家屋調査士から行政書士を目指すメリット
土地家屋調査士資格を先に取得してから行政書士試験に挑戦するルートもあります。このルートは、測量技術を重視するキャリアパスに適しています。
学習面でのメリット
- 測量技術を先に習得できる
- 土地家屋調査士試験で測量の基礎から応用まで学習
- 実務で即戦力となる測量技術を身につける
- 民法の知識を行政書士試験に活かせる
- 土地家屋調査士試験で学んだ民法の知識が行政書士試験でも有効
- 特に物権法分野は重複が多い
- 不動産分野の専門性を確立できる
- 土地家屋調査士として不動産の実務を理解した上で、行政書士の許認可業務に進める
- 不動産に特化した専門家としてのブランディングがしやすい
実務面でのメリット
- 測量技術を活かした差別化ができる
- 土地家屋調査士として測量実務を経験
- 行政書士資格取得後、測量技術を活かした許認可申請(開発許可、農地転用など)で差別化できる
- 測量会社や建設会社との関係構築
- 土地家屋調査士として測量会社や建設会社との関係を構築
- 行政書士資格取得後、建設業許可などの業務を受注しやすい
- 技術面からのアプローチができる
- 許認可申請において、測量技術に基づく実現可能性の判断ができる
- 技術的な裏付けのある申請書類を作成できる
土地家屋調査士→行政書士ルートの注意点
このルートを選択する場合の注意点もあります。
- 行政書士試験の出題範囲が広い
- 行政法、会社法、基礎法学など、土地家屋調査士試験では学ばない科目が多い
- 新たに広範囲の法律学習が必要
- 開業まで時間がかかる可能性
- 土地家屋調査士試験は難関であり、合格まで数年かかる場合がある
- その間、収入を得る手段を確保する必要がある
土地家屋調査士試験の勉強時間については、土地家屋調査士試験に必要な勉強時間で詳しく解説しています。
測量士補資格も併せて取得すべき理由
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスを目指す場合、測量士補資格も併せて取得することを強く推奨します。
測量士補資格取得のメリット
- 土地家屋調査士試験の午前の部が免除される
- 測量士補資格を持っていれば、土地家屋調査士試験の午前の部(測量に関する筆記試験)が免除される
- 午後の部(民法・不動産登記法・書式問題)に集中できる
- 学習時間を200~300時間程度削減できる
- 測量士補試験の合格率は比較的高い
- 測量士補試験の合格率は30%前後で推移
- 土地家屋調査士試験(10%前後)と比較すると合格しやすい
- 独学でも十分合格可能
- 測量の基礎知識が身につく
- 測量士補試験で測量の基礎理論を学習
- 土地家屋調査士試験の書式問題(作図)の理解が深まる
測量士補試験の概要
測量士補試験は、年1回(例年5月中旬)に実施されます。試験形式は多肢択一式(マークシート)で、以下の科目から出題されます。
- 測量に関する法規
- 多角測量
- 汎地球測位システム測量(GNSS測量)
- 水準測量
- 地形測量
- 写真測量
- 地図編集
- 応用測量
合格基準は、総得点の65%以上の正答率です。学習時間の目安は200~300時間程度で、半年から1年の学習期間で合格を目指せます。
取得の順序の推奨パターン
ダブルライセンスを目指す場合の推奨パターンは以下の通りです。
パターン1:行政書士→測量士補→土地家屋調査士
1年目:行政書士試験合格(学習時間600~1,000時間)
2年目:測量士補試験合格(学習時間200~300時間)
3年目:土地家屋調査士試験合格(学習時間1,000~1,500時間)
このパターンは、法律学習から入り、段階的に測量技術を習得していくアプローチです。
パターン2:測量士補→土地家屋調査士→行政書士
1年目:測量士補試験合格(学習時間200~300時間)
2年目:土地家屋調査士試験合格(学習時間1,000~1,500時間)
3年目:行政書士試験合格(学習時間600~1,000時間)
このパターンは、測量技術を先に習得し、その後に法律知識の幅を広げるアプローチです。
パターン3:測量士補と行政書士を同年受験→土地家屋調査士
1年目:測量士補試験(5月)と行政書士試験(11月)を同年に受験
2年目:土地家屋調査士試験合格
このパターンは、短期間でのダブルライセンス取得を目指す場合に有効です。測量士補試験と行政書士試験は試験時期が異なるため、同年受験が可能です。ただし、学習負担は大きくなります。
いずれのパターンも、測量士補資格の取得により土地家屋調査士試験の午前の部免除を受けることが前提となっており、効率的な学習計画を立てることができます。
土地家屋調査士試験の午前の部免除制度に関してもっと詳しい記事はこちら
土地家屋調査士試験の午前の部免除制度|測量士補資格で免除される条件
土地家屋調査士と行政書士の年収・収入面の比較
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンス取得を検討する際、年収や収入面は重要な判断材料となります。両資格の収入実態とダブルライセンスによる収入アップの可能性について解説します。
土地家屋調査士の平均年収と収入の実態
土地家屋調査士の年収は、開業形態や地域、経験年数によって大きく異なります。
勤務土地家屋調査士の年収
土地家屋調査士事務所に勤務する場合の年収は、300万円~600万円程度が一般的です。初任給は月給20万円~25万円程度からスタートし、経験を積むことで昇給していきます。
大手測量会社や土地家屋調査士法人に勤務する場合は、年収500万円~700万円程度となることもあります。また、測量技術や登記実務のスキルが高い場合は、さらに高い年収を得られる可能性があります。
開業土地家屋調査士の年収
独立開業した土地家屋調査士の年収は、事務所の規模や営業力によって大きく異なります。日本土地家屋調査士会連合会の調査によると、開業土地家屋調査士の平均年収は600万円~800万円程度とされています。
ただし、開業後数年は営業活動と実績作りに時間がかかるため、年収300万円~400万円程度の期間を経験する人も多いです。一方、経験を積み、顧客基盤を確立した土地家屋調査士は、年収1,000万円以上を得ることも可能です。
土地家屋調査士の収入構造
土地家屋調査士の主な収入源は以下の通りです。
- 土地境界確定測量:30万円~80万円程度/件
- 土地分筆登記:20万円~60万円程度/件
- 建物表題登記:8万円~15万円程度/件
- 建物滅失登記:4万円~8万円程度/件
- 地目変更登記:5万円~10万円程度/件
これらの報酬額は地域や案件の難易度によって変動します。都市部では報酬が高めに設定される傾向があり、地方部では低めになることが一般的です。
土地家屋調査士の収入は、案件ごとの報酬制であるため、受注件数が収入に直結します。月に5~10件程度の案件を受注できれば、安定した収入を得られると言われています。
土地家屋調査士の年収については、土地家屋調査士の年収は?平均給与・開業・勤務別の収入を徹底分析で詳しく解説しています。
行政書士の平均年収と収入の実態
行政書士の年収も、開業形態や取扱業務、地域によって大きく異なります。
勤務行政書士の年収
行政書士事務所や企業の法務部門に勤務する場合の年収は、300万円~500万円程度が一般的です。企業の法務部門では、経験や役職によって年収500万円~700万円程度となることもあります。
ただし、勤務行政書士の求人は、土地家屋調査士と比較すると少ない傾向にあります。多くの行政書士は、独立開業を前提としてキャリアを築いています。
開業行政書士の年収
独立開業した行政書士の年収は、取扱業務の専門性や顧客層によって大きく異なります。日本行政書士会連合会の調査では、開業行政書士の平均年収は400万円~600万円程度とされていますが、実態としては収入格差が大きい業界です。
開業後間もない行政書士や、営業活動が十分でない場合は、年収200万円以下となることも珍しくありません。一方、建設業許可や許認可申請に特化し、顧客基盤を確立した行政書士は、年収1,000万円以上を得ることも可能です。
行政書士の収入構造
行政書士の主な収入源は以下の通りです。
- 建設業許可申請:10万円~20万円程度/件
- 建設業決算変更届:3万円~5万円程度/件(毎年)
- 農地転用許可申請:5万円~15万円程度/件
- 遺産分割協議書作成:5万円~15万円程度/件
- 会社設立:10万円~20万円程度/件
- 相続関連書類作成:5万円~30万円程度/件
行政書士の報酬は、業務の複雑さや顧客との関係性によって変動します。特に建設業許可は、毎年の決算変更届という継続業務があり、安定した収入源となります。
行政書士の収入は、顧客数と継続案件の数が重要です。1社あたり年間5万円~10万円の継続業務があれば、100社の顧客で年収500万円~1,000万円を確保できます。
ダブルライセンスによる収入アップの可能性
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスを持つことで、収入面で以下のようなメリットがあります。
1. 業務範囲の拡大による収入の多様化
ダブルライセンスを持つことで、土地家屋調査士業務と行政書士業務の両方を受注できます。例えば、以下のような複合案件で高額報酬を得られます。
- 農地転用+分筆登記:20万円~50万円程度
- 開発許可+測量+地目変更:50万円~100万円程度
- 相続案件(遺産分割協議書+相続不動産の分筆):30万円~80万円程度
単独資格で対応できる範囲よりも、複合的なサービスを提供できることで、一案件あたりの報酬額が増加します。
2. ワンストップサービスによる競争優位性
顧客にとって、複数の専門家に依頼する手間が省けることは大きなメリットです。ダブルライセンスを持つ専門家は、以下のような理由で選ばれやすくなります。
- 窓口が一本化されることで、顧客の負担が軽減される
- 手続き全体のスケジュール管理が一元化される
- トータルコストが把握しやすい
- 情報伝達のミスが減少する
この競争優位性により、単価の高い案件や大型案件を受注しやすくなります。
3. 顧客からの紹介が増える
ダブルライセンスを持つことで、一人の顧客から複数の業務を受注できるだけでなく、顧客からの紹介も増えます。
例えば、土地家屋調査士として境界確定測量を行った顧客が、後日、建設業許可が必要になった場合、同じ専門家に依頼できることは顧客にとって安心材料となります。また、その顧客が知人に専門家を紹介する際も、「測量も許可申請も対応できる先生」として紹介しやすくなります。
4. 継続案件の確保
行政書士業務の中には、建設業許可の更新や決算変更届のように、毎年継続的に発生する業務があります。土地家屋調査士として測量・登記業務で関係を築いた建設業者に対して、行政書士として建設業許可の継続業務を提供できれば、安定した収入源となります。
ダブルライセンスによる年収シミュレーション
ダブルライセンスを活用して独立開業した場合の年収シミュレーションは以下の通りです。
開業3年目のモデルケース
- 土地家屋調査士業務:月5件 × 平均単価40万円 × 12ヶ月 = 2,400万円/年
- 行政書士業務:月3件 × 平均単価10万円 × 12ヶ月 = 360万円/年
- 継続業務(建設業決算変更届など):50社 × 5万円/年 = 250万円/年
年間売上:約3,000万円
経費(測量機器、事務所、人件費など):約1,500万円
年収(所得):約1,500万円
これは、ダブルライセンスを活用して順調に事業を拡大した場合のモデルケースです。実際には、開業初期は営業活動に時間がかかるため、年収400万円~600万円程度からスタートすることが一般的です。
ダブルライセンスによる収入アップの可能性は大きいですが、同時に両方の業務を高いレベルで提供するための努力も必要です。継続的な学習と実務経験の積み重ねが、収入アップの鍵となります。
土地家屋調査士の年収に関してもっと詳しい記事はこちら
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土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンス実例
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスは、実際にどのように活用されているのでしょうか。実例と業界の実態について解説します。
実際に両資格で活躍する専門家の事例
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスを持ち、実際に活躍している専門家の事例を紹介します。
事例1:相続・不動産専門の総合事務所
地方都市で開業する専門家(40代男性)は、行政書士資格を先に取得し、その後、土地家屋調査士資格を取得しました。相続業務に特化した事務所を運営しており、以下のようなサービスを提供しています。
- 相続人調査と相続関係説明図の作成(行政書士業務)
- 遺産分割協議書の作成(行政書士業務)
- 相続不動産の現況調査と測量(土地家屋調査士業務)
- 相続不動産の分筆登記(土地家屋調査士業務)
- 司法書士と提携して相続登記(権利登記)まで対応
相続案件では、遺産分割協議書の作成から不動産の分筆、登記まで、一連の手続きをワンストップで提供できることが強みです。特に、相続不動産を複数の相続人で分割する案件では、ダブルライセンスの効果を最大限に発揮しています。
年間30件程度の相続案件を受注し、一案件あたり平均50万円~100万円の報酬を得ており、年収は約2,000万円に達しているとのことです。
事例2:農地転用・開発許可専門の事務所
首都圏郊外で開業する専門家(50代男性)は、土地家屋調査士資格を先に取得し、実務経験を積んだ後、行政書士資格を取得しました。農地転用と開発許可に特化した事務所を運営しており、以下のようなサービスを提供しています。
- 農地の境界確定測量(土地家屋調査士業務)
- 農地転用許可申請(行政書士業務)
- 開発許可申請(行政書士業務)
- 転用後の地目変更登記(土地家屋調査士業務)
- 開発に伴う分筆登記(土地家屋調査士業務)
農地転用や開発許可では、測量技術に基づく実現可能性の判断が重要です。測量技術を持つ行政書士として、技術的な裏付けのある申請書類を作成できることが差別化ポイントとなっています。
地域の不動産業者や建設業者とのネットワークを構築し、年間50件程度の農地転用・開発許可案件を受注しています。年収は約1,800万円とのことです。
事例3:建設業者向け総合サポート事務所
都市部で開業する専門家(30代女性)は、行政書士資格と土地家屋調査士資格を同時期に取得し、建設業者向けの総合サポート事務所を運営しています。以下のようなサービスを提供しています。
- 建設業許可申請・更新(行政書士業務)
- 毎年の決算変更届(行政書士業務)
- 建築確認申請(行政書士業務)
- 新築建物の表題登記(土地家屋調査士業務)
- 建物滅失登記(土地家屋調査士業務)
- 土地の測量・境界確定(土地家屋調査士業務)
建設業者を顧客の中心に据えることで、継続的な業務(決算変更届)と単発業務(表題登記、測量)をバランスよく受注しています。30社の建設業者と顧問契約を結び、安定した収入基盤を確立しているとのことです。
年収は約1,200万円で、将来的には事務所を拡大し、スタッフを雇用する計画を持っています。
土地家屋調査士業界におけるダブルライセンス保有者の割合
土地家屋調査士の中で、行政書士資格も保有している人の割合はどの程度でしょうか。
日本土地家屋調査士会連合会の公式統計では、ダブルライセンス保有者の正確な数は公表されていませんが、業界関係者の推計では、土地家屋調査士の約10%~15%が行政書士資格も保有していると言われています。
全国の土地家屋調査士登録者数は約16,000人(2024年時点)ですので、そのうち約1,600人~2,400人がダブルライセンス保有者と推計されます。
ダブルライセンス保有者の傾向
ダブルライセンス保有者には、以下のような傾向が見られます。
- 開業志向が強い
- ダブルライセンスを活かして独立開業する人が多い
- 勤務土地家屋調査士よりも、開業土地家屋調査士の方がダブルライセンス保有率が高い
- 若手世代での取得が増加
- 30代~40代の土地家屋調査士で、行政書士資格も取得する人が増えている
- 業務の多角化とリスク分散を目的とする傾向
- 地域による差
- 都市部よりも地方部の方が、ダブルライセンスの必要性が高い
- 地方部では案件数が限られるため、業務範囲を広げる必要がある
- 家族での資格保有
- 夫婦でそれぞれ異なる資格を保有し、共同で事務所を運営するケースもある
- 例:夫が土地家屋調査士、妻が行政書士
他の資格との組み合わせ
土地家屋調査士は、行政書士以外の資格と組み合わせるケースもあります。
- 土地家屋調査士 × 司法書士:不動産登記全般(表示登記+権利登記)を対応できる最強の組み合わせ。ただし、両方とも難関資格であり、取得難易度が高い。
- 土地家屋調査士 × 不動産鑑定士:不動産の物理的調査と経済的評価を一体的に提供できる。高度な専門性が求められる。
- 土地家屋調査士 × 宅地建物取引士:不動産売買に関連する測量・登記業務と仲介業務を組み合わせられる。
これらの組み合わせと比較すると、土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスは、取得難易度と実務での相性のバランスが良いと言えます。
ダブルライセンスの注意点とデメリット
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスには多くのメリットがありますが、注意点やデメリットも存在します。
1. 登録費用と継続費用の負担
両資格を保有する場合、それぞれの会費や登録費用が必要となります。
- 土地家屋調査士の登録費用:約30万円~50万円(地域による)
- 土地家屋調査士の年会費:約10万円~15万円(地域による)
- 行政書士の登録費用:約30万円
- 行政書士の年会費:約8万円~12万円(地域による)
年間で合計約20万円~30万円の会費負担が発生します。開業初期で収入が安定していない時期には、この負担が重くのしかかることがあります。
2. 継続的な学習負担
両資格とも、法改正や新しい判例、実務の変化に対応するための継続的な学習が必要です。
- 土地家屋調査士:不動産登記法、測量技術の最新動向
- 行政書士:建設業法、農地法、都市計画法など多数の法律の改正
両方の分野で最新情報をキャッチアップするには、研修会への参加や専門書の購読など、時間とコストがかかります。
3. 専門性の希薄化リスク
幅広い業務に対応できる反面、特定分野での専門性が薄れるリスクがあります。
例えば、境界確定測量の難易度が高い案件や、複雑な開発許可申請では、単独資格で専門特化している専門家の方が高い評価を受けることがあります。
ダブルライセンスを活かしつつ、特定分野での専門性を維持するバランスが重要です。
4. 業務管理の複雑化
土地家屋調査士業務と行政書士業務では、業務の進め方や納期、必要書類が異なります。複数の案件を並行して進める場合、業務管理が複雑になります。
特に、現場作業を伴う土地家屋調査士業務と、書類作成が中心の行政書士業務を同時に進める場合、スケジュール管理が難しくなることがあります。
5. 責任範囲の明確化
ダブルライセンスで業務を受注する場合、どの業務がどの資格に基づくものかを明確にする必要があります。特に、報酬の内訳や契約書の記載には注意が必要です。
また、業務上のミスがあった場合、土地家屋調査士としての責任か、行政書士としての責任かを明確にしておくことが、トラブル防止につながります。
デメリットへの対策
これらのデメリットに対しては、以下のような対策が有効です。
- 会費負担:開業初期は収支計画を慎重に立て、必要に応じて補助金や融資を活用
- 学習負担:重点分野を絞り、効率的に学習する。全ての分野に精通する必要はない
- 専門性:得意分野を明確にし、そこに注力する。苦手分野は提携先に依頼
- 業務管理:業務管理システムやスケジュール管理ツールを活用
- 責任範囲:契約書や見積書で業務範囲を明確に記載
ダブルライセンスは多くのメリットがありますが、これらの注意点を理解した上で取得を検討することが重要です。
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土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスに関連するよくある質問(FAQ)
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスについて、よくある質問とその回答をまとめました。
Q. 土地家屋調査士と行政書士はどちらから取得すべきですか?
土地家屋調査士と行政書士のどちらを先に取得すべきかは、個人の状況や目標によって異なりますが、一般的には行政書士から取得することをおすすめします。
行政書士試験は法律学習が中心で、測量技術が不要です。行政書士試験で民法の基礎を固めた後、土地家屋調査士試験に挑戦すれば、民法の学習時間を100~150時間程度削減できます。また、行政書士として先に開業することで、収入を得ながら土地家屋調査士試験の勉強を続けられるメリットもあります。
ただし、測量技術を重視する場合や、すでに測量関係の仕事をしている場合は、土地家屋調査士から取得する方が効率的な場合もあります。自身のバックグラウンドと将来のキャリアプランに合わせて選択してください。
Q. 土地家屋調査士と行政書士の試験は同時に受験できますか?
土地家屋調査士試験と行政書士試験は、試験時期が異なるため、同一年に両方を受験することは可能です。
土地家屋調査士試験は例年7月中旬に筆記試験(午後の部)、11月中旬に口述試験が実施されます。行政書士試験は例年11月中旬に実施されます。試験日程が重ならない限り、同年に両方を受験できます。
ただし、両試験とも高い学習負担が必要であり、同時並行で勉強することは非常に困難です。土地家屋調査士試験には測量や作図の実技的要素があり、行政書士試験には幅広い法律知識が求められます。現実的には、どちらか一方に集中して合格した後、もう一方に挑戦することをおすすめします。
測量士補試験(5月実施)と行政書士試験(11月実施)を同年に受験し、翌年以降に土地家屋調査士試験に挑戦するという戦略もあります。
Q. 土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスで独立開業できますか?
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスがあれば、独立開業は十分に可能です。むしろ、ダブルライセンスによるワンストップサービスの提供は、単独資格での開業よりも競争優位性が高いと言えます。
開業にあたっては、以下の点を準備する必要があります。
- 開業資金の確保(事務所賃貸費、測量機器購入費、登録費用など):300万円~500万円程度
- 両資格の登録手続き(登録費用の合計:約60万円~80万円)
- 事務所の開設(自宅開業も可能)
- 測量機器の購入またはリース(トータルステーションなど)
- 営業活動の準備(ホームページ作成、名刺作成など)
開業初期は営業活動と実績作りに時間がかかるため、年収300万円~500万円程度からスタートすることが一般的です。しかし、顧客基盤を確立し、両資格を活かした業務展開ができれば、年収1,000万円以上も十分に目指せます。
開業前に、どちらかの資格で勤務経験を積むことをおすすめします。実務経験がないまま開業すると、業務品質や営業活動に支障が出る可能性があります。
Q. 土地家屋調査士と行政書士の両方を持つ人は多いですか?
土地家屋調査士の中で行政書士資格も保有している人は、推計で約10%~15%程度と言われています。全国の土地家屋調査士登録者数が約16,000人ですので、約1,600人~2,400人がダブルライセンス保有者と推計されます。
決して多数派ではありませんが、特に若手世代を中心に、業務の多角化とリスク分散を目的としてダブルライセンスを取得する人が増えています。また、地方部では案件数が限られるため、ダブルライセンスの必要性が高い傾向にあります。
ダブルライセンス保有者は、相続業務、農地転用、開発許可など、特定分野に特化して成功しているケースが多く見られます。単独資格で幅広く業務を行うよりも、ダブルライセンスで特定分野に専門特化する方が、競争優位性を確立しやすいと言えます。
Q. 土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスで必要な登録費用は?
土地家屋調査士と行政書士の両方に登録する場合、初回の登録費用と毎年の会費が必要です。
初回登録費用
- 土地家屋調査士の登録費用:約30万円~50万円(地域による)
- 登録免許税:30,000円
- 土地家屋調査士会入会金:地域により異なる(10万円~20万円程度)
- 日本土地家屋調査士会連合会入会金:約3万円
- 特定認証業務研修費用:約10万円
- 行政書士の登録費用:約30万円
- 登録免許税:30,000円
- 行政書士会入会金:地域により異なる(10万円~15万円程度)
- 日本行政書士会連合会入会金:約5万円
初回登録費用の合計:約60万円~80万円
毎年の会費
- 土地家屋調査士の年会費:約10万円~15万円(地域による)
- 土地家屋調査士会会費:地域により異なる
- 日本土地家屋調査士会連合会会費:約4万円
- 行政書士の年会費:約8万円~12万円(地域による)
- 行政書士会会費:地域により異なる
- 日本行政書士会連合会会費:約3万円
年会費の合計:約18万円~27万円
この他に、事務所賃貸費や測量機器購入費(トータルステーション:100万円~200万円程度)、業務上の保険料などの経費も必要です。開業を検討する場合は、これらの初期費用と運転資金を十分に準備することが重要です。
土地家屋調査士の登録手続きについては、土地家屋調査士の登録手続き|登録費用・研修・必要書類を解説で詳しく解説しています。
まとめ:土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスで業務の幅を広げる
本記事では、土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスについて詳しく解説しました。重要なポイントを改めて確認しましょう。
- 業務の相互補完性と相性の良さ:土地家屋調査士は不動産の表示登記を、行政書士は許認可申請を担当し、相続、農地転用、開発許可などの業務で連携が不可欠です。両資格を持つことで、顧客にワンストップサービスを提供でき、競争優位性を確立できます。
- 効率的な取得順序と民法の共通点:行政書士試験と土地家屋調査士試験の両方に民法が含まれており、一方の資格取得で得た知識を活かせます。一般的には、行政書士から取得して民法の基礎を固め、その後、土地家屋調査士試験に挑戦することで、学習時間を100~150時間程度削減できます。測量士補資格も併せて取得すれば、土地家屋調査士試験の午前の部免除を受けられます。
- 収入の多様化と業務拡大の可能性:ダブルライセンスを持つことで、業務範囲が広がり、収入源が多様化します。相続、農地転用、開発許可などの複合案件では、一案件あたりの報酬額が増加し、年収1,000万円以上も十分に目指せます。ただし、登録費用や年会費の負担、継続的な学習の必要性など、注意すべき点もあります。
土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスを理解できたら、次は具体的な学習計画を立てましょう。土地家屋調査士試験に必要な勉強時間と土地家屋調査士の効果的な勉強法を参考に、計画的に進めることをおすすめします。また、予備校の活用を検討している方は、土地家屋調査士試験の予備校比較も参考にしてください。
本記事を通じて、土地家屋調査士と行政書士のダブルライセンスが持つ可能性と相性の良さを理解いただけたはずです。これらの情報を活用して、ダブルライセンス取得に向けて一歩を踏み出しましょう。
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